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第十三話 リクト隊長は相変わらず

 王子かルシェが部屋に乗り込んで来るかと思ったけど、それはどうやら回避されたらしい。翌日早朝、まだ陽が出る前にさっさとこの国を出る事にした私達は、出て行く前にルシェの部屋へと赴いて、きちんと報酬をせしめて来た。


「……出て行くのか」

「じゃあな、ルシェ」


 そして、そのまま背を向けた私達にルシェは何も言わずに見送ってくれたようで、私達の出発を阻止するものは何も無かった。

 行き掛けの駄賃で、ちょっと頂いて来たパンや野菜を大事にしまい込み、闇に紛れて移動して行きさっさと街を出ようと思う。勿論、リクト隊長達も一緒なので、食料は多めに貰って来たつもりだ。


「リット?」


 屋敷の門の所で見張りをしていたのはリットさんだったみたいで、見張りをどつく為に動いてたジェイド隊長がヴィーの声に動きを止めた。


「……何となく、そんな気がしてた。行くんだろう?」

「うん。リットさん、色々お世話になりました」

「いや……。なあ、いちる」

「なんです?」

「いちるは、やるせなくなる事は無いのか?」

「無いです」


 即答した私にリットさんは自嘲するような乾いた声で笑った。


「……いいな。羨ましいよ」

「リットさん」


 何となくだけど、リットさんはジャッハさんと繋がってる気がするんだよなあ。だからたぶん、どさくさに紛れてジャッハさんだけは助けるんじゃないかと思ってる。

 だってさ、ジャッハさん、捕まってからずっと大人しかったからねえ。ま、その辺りはこの街の事と何か関係があるんだろうなあって思うし、そこに踏み込んじゃうと面倒くさそうなのであえて放置するとヴィーが決定したんですよ。


「ん?」

「下剋上って言葉を知ってますか?」

「……え?」

「要するに、下の奴らが結託して上を潰すんです」

「な……、何を、」

「国を変えたいなら、色々方法はあるって事ですよ」

「……いや、あのな」

「リットさん、考えてみて下さい。王侯貴族の数と国民総数、どっちが多いですか?」

「そ、れは、」

「ね?方法はあるんですよ。後はやる気とカリスマ性ですかねえ?」

「カリスマ?」

「崇め奉る存在って言うか、いざって時に責任取る存在ですよ。まあ、一番損な役回りですけど、成功すりゃ一国の主です」

「……軽く言うなよ。そこまで、熱い国民性じゃないんだ」

「ちっちっちっ。熱くないなら火を点けるんですよ、燃え滾らせるんです。そして燃え尽きろっ!」

「燃え尽きてどうすんだよ」

「消し炭なので責任取れませんって言えば」

「出来るかっ!」


 互いに見つめ合った後、ぷっと吹き出して笑い合う。


「……仲良くなったよね、本当に」

「おっと。ああ、リットさん、そんなに離れなくても」


 私の隣に来て肩を抱いたヴィーを見たリットさんは、ずざざざざざざっと音を立てて後ずさって行き、門から随分離れた曲がり角に身を潜ませた。

 あれだ、よっぽど恐ろしい目に遭ったんだろうなあ。


「さて。そろそろ行こう」

「はい。リットさん、それじゃ……、無事を祈ります」


 そして、身を翻してあっと言う間に夜闇に紛れた私達を、リットさんは長い事見送ってくれた。って事にしておこう。


「このまま浮くぞ」

「はい」


 通りを走りながら姿隠しの魔法を掛けた後、空へと舞い上がりそのまま町を出た。

 リドルがいる森の手前へ降りて行けば、呼んでもいないのにリドルたちが姿を現す。


「おー、優秀だなあ相変わらず。元気だったか?」

『ぬうううううっ』


 そうして鼻面を押し付けて来たリドルを撫でてやった後、皆がリドルに跨り。


「で?本気でカルッチェに行くのか?」

「勿論ですよ。周辺国の脅威となる強国の装備、気になりませんか?」

「是非見てみたいな?」

「さすがです、ギルニット隊長!そう言ってくれると信じてましたっ!」

「よし、行こう」

「行きましょうっ!」


 そして、空が白んで来る頃には既にあの街から随分離れ、カルッチェに近付いていたと思う。まあ、地図が無いから自分達がどの辺りにいるのか把握できないんだよねえ。


「村か町があると良いんですが」

「だな。食料が足りない」

「ったく先輩達は駄目駄目ですね!行き掛けの駄賃で盗んで来るのは当たり前の事じゃないですか!」

「うるせえな。こっちは荷物盗られてたんだ、それを取り戻してて時間食ったんだよ」

「あー、言葉が通じないって本当に参りますよねえ」

「……そうだね」


 ついうっかり騙されちゃうんだよなあ。それに、何か本能で恐怖を覚えてしまうんだよなあ……って、先輩達に限ってそれは無いか。


「そう言えば、こちら側には果樹園は無いのかな?」

「お、そういやそうでしたっ!アルノのような魔獣はいませんかねえ?」

「果樹園……」


 何となく全員で荒野のような景色を見回し、同時に溜息を吐き出した。


「ここはもしかしたら、戦場なのかな?」

「……そうかもしれないね」

「だとしたら定期的に戦争をしてるって事か?」

「え、どうしてです?」

「雑草でさえまばらにしか生えてねえだろ?」

「土に栄養が無いせいかも」

「人の生き血を吸い過ぎている、何てね?」

「……リクト隊長が言うと、何か洒落になってないっていうか」


 何となく背中がぞわっとしてしまったので、ヴィーにくっ付いた。

 恐ろしい物を想像した時は、更に恐ろしい物に引っ付くと安心する。


「さて。莫迦な事言ってないで先を急ごう。暗くなる前に身を隠す場所を探さないとね」

「はい」


 そして、遠慮なくリドルを走らせて行くと、今までの荒涼とした景色が嘘であるかのように、鬱蒼と生い茂る森へと入る事が出来た。


「何つうか、酸素過多って言うか……」

「確かにちょっと息苦しいね?」

「生き物がいないんですかねえ?」

「凶悪な魔獣の住処だったりして?」


 そう言ったリクト隊長に全員の視線が集まり。


「なんでリクト隊長は……」

「リクトが言うと何故かそれが本当の事のような気がする」

「いちる、探索に何か引っかからないか?」

「それが何も引っ掛からないんですよねえ。恐ろしい事です」

「おい……」

「まあ、何があってもしぶとく生き残ると信じてるよ」


 ヴィーが笑いながらそう言って、少し開けた場所で休む事になった。

 探索の魔法を掛けて何度か周りを探ったけど、やっぱり何も引っ掛からないんだよねえ。


「ま、何もいないのは幸運だったって事で」

「そうだね。やっぱり俺達は何かに守られてるんだよ」

「リクト……」

「取って付けたようなその物言い。まあいいですけど」

 

 そんなおバカな会話も懐かしい。

 そして、念の為にと焚火を点けたまま交代制で眠りに付く事になった。


 ヴィーにくっ付いて一緒に眠った私の眠りを妨げたのは、一瞬にして変わった森の空気のせいだった。背中がぞわぞわして嫌な予感しかしない。

 だけど、探索の魔法を使っても生き物の気配が全く無くて戸惑ってしまった。


「なんですかね……?」

「さあな。剣を抜いておけ」

「はい」


 ヴィーも起き上がって同時に探索魔法を使っていたみたいだけど、ヴィーの魔法にも引っ掛からなかったようで眉間に深い縦ジワを作りながら当たりを警戒し始めていた。


「……いちる、お前はエルヴィエント様と一緒にいろ」

「はい」


 ヴィーと背中合わせになって剣を握り締め、暗い森の中へと目を凝らしていたんだけど。


「何か、来るっ!」


 ぞわぞわした感覚が最高潮に達し、ヤベエ、ヤベエよと気ばかり焦って来る。

 探索魔法にも引っ掛からず、だけど近付いているのが何故か解ると言うホラーな展開に、久々に剣を握る手の平に汗を掻いていた。


「って、なんじゃありゃあああああっ!!!」

「来たかっ!」


 最初に目に入ったのはしなる枝を振り回す樹木だった。

 根っこを足にして移動しているようで、枝を振り回してこちらを捕えようとする。


「うわ、マジかっ!?」

「え、これ切っても問題ない?増えたりしない!?」


 襲い掛かって来る枝を躱しつつ、絡め取られたりしないよう移動しつつ、剣で斬るのを躊躇っているとリクト隊長が嫌な事を言う。


「だから、リクト隊長はちょっと黙っとけっ!」

「いちるの言う通りだっ!このど阿呆がっ!」

「えー?」


 避けながら様子を見て斬りかかろうかと思ってたのにっ!


「ギル!そっちにもう一体!」

「胴を薙いでみるっ!」

「おー、さすがギルニット隊長!」

「リクトとは違うな」

「うそーん。俺の信用がた落ち?」

「元々無いだろう」

「ちょっとジェイドさーん、何それー」


 ちっ、しつこいっ!


「駄目だ、胴を薙いでも動くっ!」

「足かな?根っこみたいだし?」

「取り敢えず枝を全部切り落としてみますっ!」

「よし行けいちるっ!」


 そして、同時にヴィーがフォローに入ってくれつつ、何とか枝を全部斬り落としてみたらばですよ?


「うおおおおおおっ!何じゃあああああっ!?」

「いちる、飛べっ!」

「ガッテンだっ!」


 思えば、最初の段階でリドルを空に浮かせたのは間違いじゃなかったんだなあと、全員を空に浮かせて思った。


「……植物の魔獣、いや、魔物?」

「何処を斬っても突進して来るって、ある意味恐ろしいよねえ」

「しかも何で口みたいに洞を広げますかね」


 そう、私が枝を全部斬り落としたあの樹木は、木の真ん中辺りにあった洞をぐわっと広げて襲い掛かって来たのだった。


「これは……、リュクレースにいなくて良かったと言うべきか?」

「ですね」


 皆で下を見下ろしていると、焚火はあっと言う間に踏み消されていて火を怖がらない植物ってのもある意味恐ろしいなと思う。ついでに、あのよくしなる枝をヒュンヒュンと空気を唸らせながら、こちらに向かって伸ばしているんだけど。

 まあ、それが届かないように高く上ったので今の所は大丈夫。


「……どうします?このまま強行突破しますか?」

「そうだね。魔力が尽きる前に国境を突破してしまおうか」

「しかし、どれぐらいの距離があるのか判らないのでは?」

「もう少し高く上がれば、明かりが見えるんじゃないかと思うんだ」

「よし、いちる行って来い」

「へいへい」


 そして、リドルに跨って空高く舞い上がり。

 確かに明かりが見える方向を見付けたので、位置確認をし。


「ここより西方向。距離がありますので直ぐ移動しましょう」


 そう声を掛ければ全員が頷き、夜空の移動が始まった。

 あー、カルッチェに入ったら色々先輩達に聞きたい事あるんだよなあ、なんて思いながら夜空を駆け抜けた。


第三章 終

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