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第十二話 王子、登場

 リットさんが呼んでくれた料理人のカサハさん、これまた美味しい料理を作り出してくれました。しっかりと餌付けされた頃、王都から応援部隊がやって来た。


「ルシェ、お手柄だな?」

「…………殿下」


 うおおお、どうやら王子がやって来たらしいぞ?

 どれどれ、どんな顔なのかちょっくら確認してみようか。


「ま、これも俺のお蔭だな、ルシェ?」


 物陰に隠れつつ移動していると、そんな声が聞こえ。

 何言ってんだこのぼんくら野郎はと首を傾げつつ、さっと身を翻して王子の顔を確認すれば、おっと残念見なきゃ良かった、みたいな。


「……その通りです、殿下」

「ルシェ、お前は良く解っているな?」

「ありがとうございます」


 厨房で盗んで来た昼食用のサビーラと言う、見た目セロリの味は胡瓜をボリボリ齧りながら眺めてたんだけど。あの野郎、不細工なくせに何言ってんだ?と腹が立って来た。

 

「あ、ルシェ発見っ!喰らえ空気玉っ!」


 そう言いながら王子の腹に思い切り空気玉を叩きこみつつ、後ろからちゃんと風の魔法で倒れないように支えておいた。


「ほげえっ!」


 と言う愉快な声を上げながら、顔を青褪めさせた王子は吐きそうになっていたので見えない手で口を抑え込んで飲み込ませる。


「……ルシェ。ここでアンタが折れるのは勝手だけど、アンタの下で働いてた奴の事はどうすんだよ。お前が守らなきゃ誰が守るんだ?」

「い、い、いちるっ!?お前、何て事っ!」

「黙れ無能。仮にも公爵家なんだから王家に諫言できなくてどうするんだよ。下の奴らは選べないんだから、上がちゃんと自浄作用を働かせろ大馬鹿者めっ!」

「……無理だ」

「無理じゃねえよ、やれよ。ここでルシェが折れたらルシェを信じて働いてたリットさん達が可哀想すぎるだろうがっ」

「無理なんだよっ!」

「ルシェ。ちゃんと頭を働かせてるか?この王子を人質に取って是正しろよ」

「な、人質って」

「いいからやってみろって。コイツ絶対、人望無いからイケると思うんだけど?」


 そんな事をボソボソとやり取りしていたら、どうやら王子、回復して来たらしい。

 身動きが取れない事にビックリしてるみたいだけど、まあ誤魔化せる範囲かな。なので、直ぐに魔法を解いて身体を自由にする。


「あ……、な、なんだ?誰だお前は?」

「食欲魔人の内の一人、黒の魔導士ですっ!」

「食欲……、魔導士?」

「まあ一応」

「ふうん……。おい、フードを外せ」

「お断りします」

「なんだとっ!?おい、ルシェッ!」

「申し訳ありません、私にも無理です」

「逆らうなっ!フードを外せっ!」

「嫌だっつってんだよ。ふざけんな」


 手に持っていたサビーラを突き付けながらそう言った後、サビーラに噛り付く。


「大体テメエは誰なんだよ。いきなり現れていきなり命令しやがって。ムカつく」

「なっ、なっ、なっ」

「それに、何偉そうに踏ん反り返ってんのか知らねえけど、その腹みっとも恥ずかしいと思わねえの?気持ち悪い」


 王子は怒りに顔を真っ赤に染め、怒り過ぎて何も言えなくなったようで口をパクパクさせていたけど。まあ知ったこっちゃねえとばかりに追い打ちを掛けた。


「何もせずに踏ん反り返ってるだけだからそんな腹なんだよ。収入に見合った働きを見せろっつうの、ったく使えない男だぜ」


 行こうぜ、ルシェと言って無理矢理ルシェを連れ出し、そのまま空いてる部屋にルシェを引き摺りこんだ。ジェイド隊長が隠れている部屋でもあるので、まあ王子が来る事は無いだろうと思ったんだけど。


「……いちる、言い過ぎだ」

「そうか?あの王子じゃこの国ヤバ過ぎんだけど?」

「うん……、解ってる」

「……何事だ?」


 ルシェと私のやり取りをじっと見ていたジェイド隊長が口を挟み、そしてここまでの経緯を説明する。


「……ルシェ。確かにいちるのやり方は乱暴だが、言っている事には同意する」

「僕だって、いちるが言っている事が正論だって事ぐらい解ってるんだ。だけど、どうしろって言うんだ?何とかしたいけど、僕にはそこまでの力が無い」

「あ、そういやルシェ。この街、もう一個門があるだろ?」

「っ!?」

「あれ?知らない?」

「……知らない」

「リットさんに聞いてみれば?たぶん、隠されてるだろうけどもう一個あるはずだよ?」

「な、んで、そう思う?」

「街中に武具類を扱ってる店が無かったから」


 そう言うとルシェが少し考え込んだ後、眼を見開いて凝視して来た。

 

「な?盗品を集めてから売り捌く制度なら、くっ付いてる宝石を外したり、手入れしてから売るはずだろ?」


 実際、衣類だってそうして手入れしてから売ってたみたいだしさ。

 そう言ってみるとルシェが確かにと頷いて返した。


「そこ、突いてみれば?国と繋がってるのはそっちだと思うんだよね」

「なるほど。ルシェが知らないのは、知らせないように動いていたからか?」

「だと思います。少なくとも三年も潜入してたのに把握できなかったのは、周りのモンが阻止してたからだと思いますからね」

「じゃあ……、リットは」

「残念だけど、ルシェの味方って訳じゃないって事だよ。あの人、すげえ狸だもんなあ」

「…………たぬき?」

「おっと、狸はそのまま聞こえんのか。んー、惚けるのが巧いって事」


 そうして、ガクリと肩を落としていたルシェは、渇いた笑い声を上げ始め。


「いつもそうだ。こうして必ず裏切られる」

「ルシェ」

「いいんだ、解ってる。僕が頼りないからだって解ってるよ。だけど、こうして裏切られるからこそ信用しきれないのも察してくれよっ!」

「ルシェ」

「お前らだって裏切るんだろうっ!?どうせ僕なんて、何をやっても駄目なんだ。もう放っておいてくれっ、いってえええええっ!!!」


 思い切り振り降ろした拳は、ルシェの頭にめり込んだ。

 涙目で見上げて睨んで来たルシェを見下ろし、鼻で笑ってやる。


「裏切られて結構じゃねえか。それでも、ルシェが国を良くしようとして動いた事実に変わりはねえんだよ。だから動けよ、逃げんなっ!」

「な、ふ、ふざけ」

「ふざけてなんかいねえし、真剣に言ってんだよ。良い国にしたいって思いは誰だって持ってんだ、一人で戦ってる内にいつの間にか賛同者が集っていたりもする」

「……コイツが言っているのは、実体験からくる物だ。単なる理想論じゃないぞ?」

「実体、験……?」

「ああ。はっきり言っておくが、コイツには手を焼かされたぞ?」

「ふっ、素人にやられるとか恥ずかしい本職ですよね?」

「うるさい」


 ま、ジェイド隊長はルシェをその気にさせる為に話しを盛ってるって解ってるけど。

 コーラルがいつの間にか団体になっていたのもまた事実だ。


「やってから不服の不を発動しろってんだ。男なら腹括れや」

「……そんな事をしたら、僕の家族はどうなる」

「先に逃げ場を作ってから行動しろよ。そこで頭使わなくてどうすんだっつうの」

「それがあるならとっくにやってるさっ!」

「嘘吐いてんじゃねえよ。仮にも公爵家だろう?何処にも味方がいねえって方がおかしい」

「…………失敗したら、巻き込むだろうが」

「巻きこめよ、裏切れないぐらいに」

「なんだと?」

「莫迦か。絶対に裏切れないようにしてから行動するに決まってんだろ?ルシェが守りたい物はまず家族だってんなら、そうしろよ」

「……だけど」

「そうやっていつまでグダグダウジウジやってるつもりだ?国の上層がそんなんじゃ、下のモンが可哀想で堪んねえわ。そりゃ盗賊団だって蔓延るはずだわなあ」

「……これ以上愚弄するなっ!」

「はっ。さっきから私に対してはキャンキャン吠えてんじゃねえか。お前、吠える相手間違えてんだろうが」

「ほ、吠えて」

「ほら、王子に向かって吠えて来いよ。お前が守るべきものは、三年も一緒に潜入捜査してくれたリットさんだろうがっ!」


 ぐっと詰まったルシェに、ジェイド隊長が憐れみの眼差しを向けた。


「口が悪いと言うか、言葉は乱暴だが。俺はいちるに賛同する」

「…………解ってるよ。お前に言われなくても解ってるんだよっ!けどっ、僕には」


 そう言って俯いてしまったルシェに、長い溜息を吐いた。

 駄目か。

 リットさんがあまりにも哀れ過ぎて思わず出しゃばってしまったけど。


「見損なった。邪魔してスミマセンでした」


 そう言ってジェイド隊長に頭を下げた後、ルシェを掴んで部屋から引き摺り出し、部屋の外へと投げてそのまま背中を向けた。

 怒りのままに握り締めていたサビーラをボリボリ齧りつつヴィーの所へ行き、これまでの事を細かく報告し。やり場のない怒りを、もう一個サビーラを盗んで来て解消しようかと思案していると、ヴィーが少し悩んだ後口を開いた。


「手助けしたいの?」

「……手助けって言うか。何か、あまりにも報われなさ過ぎてやるせなくなっちゃって」

「そう」

「はい。でもサビーラでも食べて忘れる事にします」

「……いいの、それで?」

「まあ。本人やる気ないのに焚き付けても意味ないですし」


 なんでルシェがあんなに卑屈になるのか解らないけどさ。けどまあ、やる気のない奴と手を組んでも面倒が増えるだけだもんね。


「……ルシェの事、気に入ってたんじゃないの?」

「ルシェじゃなくてリットさんですよ。あんなに美味しい物知ってる人に悪い人はいませんっ!」

「ああ……、そうか、そうだったね……」

「はい。ま、一兵士の為に公爵子息焚き付けるとか、ちょっと無理がありましたね」

「確かにリットは一兵士だけど、一国民である事に変わりはないよ?」

「そうですけど。それを理解出来ていないから無駄だなって思ったんです」

「……そう」

「はい。報酬貰ってさっさと出ましょう」


 ヴィーが苦笑しながら私の頭をぽんぽんと優しく叩き、そうだねと答え。


「早朝発ちますか?」

「そうだね、そう言う事ならさっさと行こうか」

「はい」


 そして、夕食時には王子と一緒に食事をするようにと、偉そうな兵士が言いに来たけど。


「冗談じゃねえ、あんな奴と一緒に食事だなんて食欲失せるっつうのっ!」

「な、き、貴様っ」

「ダイエットしてから出直せっ!」

「ふざけるなっ!」

「あ゛?うるせえんだよ、いきなり命令してんじゃねえっつってんだよっ!」

「お前、誰に向かって」

「知らねえよっ!大体こっちは旅人だっつってんだろうがっ!この国に義理も無きゃ借りもねえっ!貸しならあるがなっ!」

「な、なんだとっ!?お前、いい加減に」

「そう言う訳だから、これ以上俺の連れを怒らせないでくれないかな?」


 私の前に出たヴィーがそう言って足を進めると、兵士はよろよろっと五歩は後ずさり。

 

「王子には適当に言っておいてね?俺達は王子の前に出るつもりはないから」


 部屋から追い出された兵士にそう言って、ドアをパタリと閉めた。

 振り返ったヴィーが苦笑しながら私を抱き締め、宥めるように背中を撫でる。


「……私、堪えられそうにないです……」

「そうみたいだね。でも、取り敢えず厨房へ行こうか?」

「厨房……?」

「うん。まずは食べよう?きっとカサハが作った美味しい料理がたくさんあるよ?」

「…………行きます」

「うん、行こう?」


 溢れて来た涙をゴシゴシとヴィーの胸で拭き、顔を上げる。


 悔しい。

 下から拳を突き上げて頑張っても、上から理不尽に潰される。

 仕方がないと諦める毎日を送る事しか出来なくなる。


 それでも、生きて行く為に前を向くしかないんだ。


 にこりと微笑んだヴィーと一緒に、厨房へ行ってそこにあった夕食をどんどん平らげて行くと、カサハさんが呆れながらも追加で色々作ってくれたので、それも全部堪能させて貰った。


「美味いっ!最高です、カサハさんっ!」

「あー、何つうか、料理人冥利に尽きるって言えばいいのか」


 粗方食べ尽した頃、料理を運ぶためにやって来たリットさんが私達を見て目を見開いて驚いてたけど、笑って誤魔化しておいた。

 美味かったです。


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