第十一話 やっぱりヴィーが一番です
ヴィーの所に戻った私達は、私の腹の虫と共に空腹を訴え、それに根負けしたルシェがリットさんと一緒に食事に行くよう促してくれた。ルシェの判断で、逃げた三人は放っておく事になったので、心置きなく食事に行く事にする。
「そんじゃ先に行かせて貰いますね?」
「まったく、いちるの腹の虫は健在だねえ」
「当然です!」
「威張って言うな」
ペシッと頭を叩かれた後、じゃあ行きましょうと部屋を出る。
先に食事をするのはリットさんと私、ヴィーとジェイド隊長だ。
「あ、もしかしてこの人も髪の毛隠した方が良いですかね?」
「え?ああ、そう言えばそうかな?」
「どうします?何で隠しますか?」
「……予備はあるか?」
「無いです」
ジェイド隊長の名前を呼んでしまうのも危険かと思ったので、名前を呼ぶ事はせずに問い掛ければ、リットさんが悩みながらも肯定して来た。
確かに、ダジェス達が売れると踏んだぐらいなので、騒ぎになるかもしれない。
「どうしましょうかね?」
「あの、俺残ります。他の奴を連れて行って下さい」
「いいのか?」
「はい。ちょっと待ってて下さい」
そして戻って行ったジェイド隊長と入れ替わったのは、結局逃げた奴を追い切れなかったオーラン先輩だった。
「行こうか」
仮面を付けたヴィーと、フードを目深に被った私、そして丸見えのオーラン先輩とリットさんの四人で屋敷を出た。そこに転がっていた厳つい男を目にし、そういやコイツの事をすっかり忘れていたと舌打ちをする。
「忘れてました」
「そういやコイツ、この出入り口で見張りをしてたんだから、全員の顔を覚えてるはずですよね?」
「ああ、言われてみれば!」
「じゃあ部屋に放り込んで来ますっ」
改めて気絶の魔法を掛けた後、空に浮かせて運び込んでおいた。
ドアの鍵は物質的に確かに掛けたんだけど、ついでに魔法でも鍵を掛けてある。
要するに、絶対開けられないって事だ。
「さて。いい加減本当に腹減ったわちくしょうめっ」
そして玄関に駆け戻り、四人で出発する。
「なあ、この街では何が美味いんだ?」
「全部美味しいんですよ!この街は食材が豊富ですからねえ」
今度は何を食べようかな?そういや煮込み系の物はまだ食べてないな?
「リットさん、煮込み系の物で美味しい物が良いです!」
「煮込み系……。それなら、ピクスの所がいいかな?」
「はい決定!急ぎましょうっ!」
「え、ちょっと」
「早く早く!」
戸惑うリットさんを半ば引きずるように歩いて行き、そしてピクスさんとやらの食堂に辿り着き、早速おすすめ料理を頼んでもらう。料理が出てくるまでの間、ワクワクし過ぎてずっとお腹の虫が唸り声を上げていたけど、まあご愛嬌って事で。
「いただきますっ!」
テーブルに乗せられた料理に、早速齧り付いた私は、一口入れた後夢中で口に運んで結局いつの間にかお皿が綺麗になっていた。
「美味いっ!」
「……そりゃ良かった。次の料理は注文してあるからすぐに来るはずだから」
「ありがとう、ありがとうリットさん!」
「いや……、まあ、これぐらいは」
そして、この店では結局私一人で十人前を平らげ、やっとお腹が満足して顔を上げると、ヴィーがニコニコしながら私を見てた。
「満足した?」
「しましたっ!リットさんのチョイスに間違いはありませんねっ!」
「……それは、ありがとう……」
「いえいえ。所で、纏め上げた奴らの食事はどうしますか?」
そう聞いたら三人が顔を見合わせ、忘れてたって顔でガクリと肩を落とした。
時間差で気絶の魔法を掛け続けるって手もあるけど、それだと衰弱するからちょっと無理だよねえ。
「……料理人を手配します」
「そうだね、そうしよう」
「あそこで料理が出来るのか?」
「出来ます。厨房がありますので」
「食材はどうする?」
「取り敢えず応援が到着するまでなら何とか持たせられると思います」
なら後は料理人だけだな。
「ちなみに、どなたを?」
「ええと……、大人数の料理が出来る奴で暇な奴と言うと……」
「と言うと?」
「そう、だな、何人か心当たりがあるから声を掛けてみるよ」
「同行します!」
「え、いや、それは」
「やだなあ、私とリットさんの仲じゃないですか。さ、遠慮せず行きましょう!」
「いや、遠慮じゃなくて」
「はいはい、行きますよー?」
そして結局、戸惑うリットさんと一緒に四人で突撃を繰り返し、三人目にして引き受けてくれたのはカサハさんと言う人であった。
得意料理は魚料理全般らしい。
「魚か……」
「魚が一番料理項目が広いって意味だよ。それだけじゃないんだ」
「おー、さすがリットさんお勧めの人!よろしくお願いしますね?」
「わかった。俺で良ければ引き受けるよ」
「うん、突然で悪いんだけど頼むよ」
「いいさ、リットの頼みだし」
リットさん、苦労してるだけあって顔が広いなあ。
って言うか、そういやリットさんてこの街の人だったっけか。
「リットさんて、この街で育ったんですよね?」
「え?ああ、まあそうだけど」
「お菓子屋さん、幼馴染って言ってましたもんねえ?」
「……覚えてたか」
「まあ。って事は、リットさんて国の兵士なのにこの街の人って事?」
カサハさんが色々準備をしてから屋敷に行くと言うので、私達は先に屋敷に戻っている最中だ。歩きながらリットさんに疑問をぶつけてみれば、リットさんは歯切れ悪く答えてくれる。
「……父親は、誰だか知らないんだ。ただ、母親がここで俺を産んだってだけで」
「じゃあリットさんのお母さんはまだこの街に?」
「いや……」
これ以上は聞かない方が良いと踏み、そうでしたかと話しを終わりにする。
ルシェの部下になった経緯を聞いてみれば、この国の兵士だけど、ルシェに命令が下された時にルシェの部下にされたのだと言う。
「やっぱりルシェの公爵家って、やばい感じなんですか?」
「やばい、と言うか……。公爵が王に逆らったとか、公爵が女を盗ったとか、そんな感じらしい」
「うわあ。なんすかその個人的恨みは」
「まあ、俺が知ってる話って下世話な噂だけだから」
「でも、それが事実だったらリットさんはどうします?それでも国の為に働くんですか?」
「…………それしか、生きて行く方法が無いからな」
「リットさんなら、魔獣狩りでも生きて行けると思いますけどね?」
「魔獣狩り?」
「アルノを狙うんですよ。そんでどっかの食堂に売り付ける」
「ああ、アルノか。いちるはアルノを狩ってすぐに食べていたんだろう?」
「当然ですっ!」
「なら知らなくても無理はないんだが、アルノは狩ってすぐに食べるには最高だけど、そのまま置いておくとあっという間に腐るんだ」
「えっ!?」
「だから、狩ってから食堂に売るのは無理なんだ」
「……えええええええっ!?そうだったんですかっ!?」
「ああ。いちるが喜んで食べていたあの肉は、トルグの肉だ」
うそーん。
アルノの肉だと思ってたのにっ!
「ごめん、何か、言いそびれて……」
「だ、で、でも、柔らかくて良い香りがしてましたよ?」
「うん、似てるけど別物だ。ごめんな、嘘を吐いたみたいで」
いや、勝手に勘違いしたのは私ですし……。
それに、トルグの肉も絶品だったから全然オッケーなんですけど。
「ちょっと、ショック……」
「ご、ごめんて。また美味い店に連れてってやるからっ」
「それは是非お願いしますけど、気付かなかったとかショックで……」
「いちる、本当にごめ「そこ、くっ付きすぎ!」……」
リットさんと私の間に入り込んで来たヴィーに睨まれ、リットさんは即後ろに下がって行ってスミマセンでしたと繰り返した。
「ヴィー、私、食欲魔人の名を返上します……」
「いちる、美味しかったんだから気にしない気にしない」
「でも、全然気付かなかったとかショックです……」
「似てたからねえ。それに、料理をしたら香りが薄くなるのも仕方がないと思ったし?」
「そう、そうなんですよねえ。盲点でした……」
どんどん落ちて行く私に、ヴィーが色々と気を使ってくれたんだけど。
ちょっと今は浮上できそうになく。
「おい、何時までへこんでんだよ。今度は俺達が見張りだからな、しっかりしろ」
後頭部を遠慮なく叩かれ、ぼそりとそう言われた私は顔を上げてこくりと頷いた。
「ああ……、もう一度アルノを堪能したい……」
「終わったらまた行く?」
「行きますっ!」
「じゃあさっさと終わらせようね?」
「はいっ!何してんですか、さっさと戻って交代しますよっ!?」
「テメエ……」
こめかみに血管を浮かせたオーラン先輩に睨まれつつも、さっさと歩いて屋敷に戻り、残りの面々と交代した。夕方になってカサハさんがやって来て、リットさんと一緒に厨房を覗いて見たら、とんでもないくらいに散らかってて。
「なんじゃこりゃああああっ!!!」
「リット、まずは掃除だろ、これ」
「だ、だな」
そして、手が空いてる面々で厨房の掃除をして何とか使えるようにし、食材を運び込むと既に空が暗くなって来ていた。
「悪い、少し遅くはなるがすぐに準備に取り掛かるよ」
「俺も手伝おう」
「頼む」
「あ、じゃあ私、応援します!」
「邪魔だから戻るぞ、いちる」
「ええっ!?じゃあ味見係とか!」
「必要ねえってよ。ほら、行くぞ」
「そんな……」
首根っこを摘まんで持ち上げられた私は、そのままオーラン先輩に運ばれた。
親切な事にヴィーに向かってぽいっと投げられ、受け止められた私は大人しくヴィーの膝の上に座っています。
「また怒らせたの?」
「味見係を申し出たら、オーラン先輩に摘まみ出されたんです」
「ああ、それは仕方がないね」
「残念です……」
ふふっと笑ったヴィーが、私の頭を撫でた。
「もうお腹減ったんだね、いちる」
「えっ!?」
申し合わせたかのように声を揃えて驚きの声を上げた面々をよそに、私はヴィーを見上げてこくりと頷いた。
「掃除したのでお腹減りました……」
その言葉を裏付けるかのように、ぐぎゅるるるるるるうううと鳴き声を上げた私のお腹に、全員が『嘘だろ、あんなに食ったのに』って顔をしてみたけど、ヴィーだけは優しくそっと私のお腹を撫でてくれた。




