第九話 行き掛けの駄賃
「コイツラは、こっちの言葉が解るようだな?」
「ええ、その通りです」
朝っぱらからリットさんがやって来て、ダジェスに紹介すると言うので少しワクワクしながら逢いに行った。三階の奥のあの部屋に入り、互いに自己紹介をし。
「俺はダジェス。この会合を取り仕切る」
「リーと言います。こっちはいちる」
「お前、その仮面を外す気はねえか?」
「ありませんよ?」
答えたヴィーに、ジャッハさんが軽く慌てたけどそれをさらっと無視した。こっちが合わせる必要はないってね。
「……お前フード取れ」
「お断りします」
ダジェスは見た目年齢なら五十代な感じで、確かに荒くれ共を纏めているだけはあるのか、ごつごつした体付きだ。背は高い方で、ヴィーよりデカく肩幅もガッチリしてる。
自分に凄く自信があるようで、それが凄く鼻に付く。
「リット、やれ」
ダジェスは当然のように命令したので、私も当然のようにそれを阻止した。
つまり、こちらへと手を伸ばしたリットさんのその手を取り、後ろ手に捻じり上げて膝の後ろを蹴って床に跪かせた後、遠慮なく背中を蹴り込んで床に伏せさせたのだ。
「おいっ」
「手を出そうとした罰です。まだやりますか?」
そう言ってニタリと笑って見せればダジェスとジャッハさんは、戸惑いながら顔を見合わせる。
「……やるなら剣を抜くけど?」
そう言ったヴィーに、ダジェスとジャッハさんは慌てたようにすまなかったと声を掛ける。リットさんを解放し、そして改めてダジェスと向き合った。
「ジャッハ、面白すぎるな?」
「そ、うですね」
「俺が拾ったのも面白いが。こっちの方が楽しめそうだ」
そうして値踏みされた私達は、何故かダジェスと、ダジェスに呼ばれた先輩達と一緒に食事を摂った。先輩達の言葉が通じない振りは堂に入っていて、何となくからかいたくなったけど後が怖いから止めた。
「やっぱ通じねえか。お前らなら通じるかと思ったんだがな」
「何か伝えたい事でも?」
「いや、そう言う訳じゃねえが。言葉が通じる方が便利だろうなってな」
そうしてたらふく食べた私を、がははと笑いながら受け入れたダジェスとの食事を終えた私達は、今度は全員纏めて同じ部屋に通され。
「時間が来たらリットに呼びに来させるから、それまで寛いでいてくれ」
「わかりました」
ドアの前に見張り役の男を残して立ち去ったダジェスが離れたのを見計らい、こくりと頷いた私に頷き返したヴィーが防音の魔法を掛ける。
「あれがダジェスか?」
「そうです。ルシェが捕まえたいと」
「ルシェ?」
「あ、フェルクトですね。偽名で潜入してる公爵子息です」
「リットはその部下だね」
そうして、こちらの動き方を全員が理解し、今後どうするかを話し合い。
「全員を纏めて捕縛?」
「面倒なのでそうしようかと。それと、さっさとこっから出てカルッチェに行きたいんですよね」
「カルッチェって。俺達を奴隷にしようとしてる国だろ?」
「そうです。なので、皆でフード被りましょうね」
「……目立ち過ぎて逆にヤバいだろ、それ」
オーラン先輩の的確なツッコミに懐かしさを覚える。
「それがですね、更に目立つ存在があると早々目立たないと学習しました」
そうなんだよねえ、仮面を付けた美丈夫がいると誰もフードを目深にかぶった怪しい奴には注目しないんだよねえ。
まあ、その仮面の美丈夫も遠巻きにされてんだけどさ。
「意外と面白い状態ですよ?なので、ぜひ経験しておくべきだと思います」
そう言うとリクト隊長が笑い出し、ギルニット隊長が肩を震わせ、ジェイド隊長は溜息を吐き、オーラン先輩は飽きれた眼差しで私を見下ろした。
「いいんですよ、ヴィーが楽しけりゃ、それで!」
「え……?」
「いや、仮面を付けていると誰も近寄って来なくてね」
「そ……、そうだったんですか……?」
「うん、まあね。だからつい、悪乗りしてしまった」
そう言って笑ったヴィーに、先輩達は顔を見合わせ。
「まあ、私の案ですけどね」
「やっぱテメエじゃねえかっ!」
即突っ込んでくれたオーラン先輩に、全員で笑い合った。
そして、リットさんが迎えに来るまでどう動くかの確認をしあい、今後の事を決定して行き。先輩達のお蔭で、楽に事が進みそうでほっとする。
リットさんがやって来て、案内されたのはやけに広い部屋だった。
「……何人ぐらいいるんです?」
「そうだな、確か全部で八十三人だったかな?」
小声での質問に同じように小声で答えたリットさんに頷いて返す。まあ、捕縛するのは商隊の隊長達だからまだマシか。
「五人に紹介して貰えますかね?」
「勿論だ」
リットさんは最初に私達をジャッハさんの元へと連れて行き、この会合を取り仕切っていると言う五人の商隊長を紹介してくれた。シルゼさんとやらはどうやら違うらしくていなかった。
まあ、ルシェがその中にいたので覚えるのは残り三人の顔。
トップに君臨してるのがダジェスで、その下に五人って事らしい。
「チェスカと言うのよ。やっと逢えたわね、黒の魔導士さん?」
「いちるです」
「可愛い顔を見せてくれない?」
「ベッドの中でなら」
「あら。そう言う事なら早速行く?」
「いいんですかっ!?」
「駄目に決まってるだろう、何言ってんだ二人して」
「やあねえ、ジャッハったら。お堅いんだから」
「そうですよ、人の恋路を邪魔するなんて」
「え、何お前、結婚してるって言ってたくせにっ」
「恋多き女なんですっ!」
「夫っ!お前も止めろよっ!」
「どうして?」
さらっと返されたジャッハさんは、呆気に取られて何度か口をパクパクと開け閉めしてたけど、ちっと舌打ちをした後勝手にしろと不貞腐れてしまった。
「私はオゴノと言う」
一番年上に見える男の人が名乗り、そちらへと視線を動かす。
コイツ、黒だけ片付けるって言った奴だ。オゴノ、ロックオン!
「よろしく?仮面の貴公子さん?」
「こちらこそ、よろしくお願いしますオゴノさん」
「……何で、言葉が通じるんだ?」
「言葉を教えて貰いながら旅をしていますから」
オゴノさんはニヤリと笑った後、今度は言葉を変えて来た。
『この言葉は解るか?』
『ここから北にあるカカラの言葉では?』
『なんだ、カカラを知ってるのか。俺はカカラの南のクラヤの出身でな』
『言葉は似てますね?』
『そのようだ』
何となく顔を引き締め、ゴクリと唾を飲み込んだ。
ヴィー、良く言葉の違いを聞き取ってたなあ。やっぱすげえなあ。
「どうやら嘘は言ってないようだな」
「……オゴノが言うならそうなんだろうね」
ルシェが同意をすれば、他の面々が頷いて同意する。
「俺はエノールだ。この中じゃ一番下っ端だな」
そう言って笑ったおっさんに笑い返し、よろしくと挨拶をする。
これで、この会合を取り仕切ってるっていう五人の顔と名前が一致した。
ダジェスを頂点として、ジャッハさん、ルシェ、チェスカさん、オゴノにエノールか。
それぞれが剣の腕がありそうで、捕り物劇が始まったら色々面倒そうだなあ。それに、ここに集まった人数も人数だし。
正直、会合が終わってから各個撃破した方が早いんじゃないかと思ってしまうけど、それが出来る兵力が無いって事なんだろうなあ。
「さて。互いに紹介も終わったようだし、そろそろ始めるか」
「そうだな」
ダジェスのその言葉にオゴノが頷き、それが合図でもあったかのように会場内の人達が動き始め、そして運び込まれたのは荷物の数々。そこには武具類から宝石類、下着も手袋も揃っていると言う奇妙な商品達だった。何が奇妙って、同じ物が一つもない所だよね、やっぱりさ。同じって言うか、共通点が無いんだよなあ。
「案の定ですね」
「そうだね」
五人組が商品を前に、それぞれ商品を手に取り売価を決めて行くようで、それが決定した商品は運び出されて行く。そうして全ての商品の値段が決まった後、私達へと視線が集まった。
「さて。ここまでくりゃ、お前達もいい加減気付いてるだろ?」
「何をですか?」
ダジェスの言葉にトボケて問い返せば、五人組がクスクスと笑って見せた。
「まあいいか。コイツラを拘束しろ」
ダジェスの言葉に周りにいた厳つい男達が動き、ヴィーと私は拘束された振りをする。
何をする!とか、止めろ!と叫ぶのはお約束。
引っ張り出されて来た先輩達と一緒に並ばされ、仮面を剥ぎ取られ、フードを降ろされた。途端、どよめきが広がって行く。
「これは、また……」
「確かに、仮面を付けたくなるわな、この顔じゃなあ」
「本当に黒いな。本物か?」
「触んな」
オゴノが伸ばして来た手を避けて睨み上げれば、楽しそうにニヤリと笑う。
「触んな、か。威勢が良いな、お嬢ちゃん」
「うるせえな、偉そぶってんじゃねえぞ、僕ちゃん」
「生意気な口だ。喋る事が出来ないようにしてもいいんだが?」
「はっ、商品に傷付けたら意味ねえだろ」
「別に、この髪さえあれば問題ない」
「テメエにくれてやるもんなんざねえんだよ。たとえ抜け落ちた髪でもやらねえよ」
「おやおや、随分嫌われたようだ」
「当たり前だろうが。一緒にいるの、お前が見惚れた男だぜ?」
そう言ってちらりと視線を横へ動かせば、オゴノもちらりと視線を動かし。
綺麗に笑ったヴィーを見て、一歩後ずさる。まあ魔法でやられてんだけど、そんな事にも気付かないから笑える。
「並の男なんて目じゃねえのさ。これ以上の男を連れて来いってんだ」
ニヤリと笑いながらそう言った後、ヴィーが頷いたのを見て拘束していた男を投げ飛ばせば、先輩達も同時に男達を投げ飛ばし、そして捕り物劇が始まった。
騒ぎに紛れてダジェスを殴ったのは、行き掛けの駄賃って奴。
オゴノにもきっちり制裁をと視線をやれば、丁度ヴィーの蹴りが顔面に入った所だった。やだ、夫婦愛?
「野郎……」
『捕縛』
魔力を載せた言葉は、あっと言う間に周囲の男達を縛り上げた。
ついでに先輩達も紛れるようにしたんだけど、やっぱりあっさり躱された事に舌打ちする。
「テメエ、俺達も纏めて縛り上げるつもりだったな?」
「気のせい気のせい。纏めて縛り上げられたら指差して笑ってやろうと思って」
バシッと小気味良い音と共に頭を叩かれ、それにひどく懐かしさを覚えた辺り、私はもしかしたらマゾなのかもしれないと真剣に悩んでしまった。




