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第七話 無能の烙印

 今回の会合に集まるのは、三十二の商隊だと言う。

 これだけ大規模な集まりは滅多に無い事なので、これが最後のチャンスだと。


「んでも私達、ジャッハさんのメインの荷物みたいですけど?」

「なんだ、解っていたのか」

「……奴隷制度があるのか?」


 ヴィーのその問い掛けにルシェが顔を顰める。


「この国の東にある国では、ある」

「国交がないと言っていたが、商隊の行き来はあるのか?」

「表立っては無いがな」


 なるほど、そう言う事か。


「この国の北東にあるカルッチェと言う国は、この辺りの国々の中で一番国力があるんだ。今回やって来る商隊の中で、ダジェスと言う男が仕切っている商隊が、カルッチェの者だと言う噂があってね」

「ダジェス、ね」

「どうしてもコイツを捕えたい」

「……捕えた所で、カルッチェに切り捨てられて終るんじゃないのか?」

「いいんだ、それでも」


 ルシェのその言葉に、要するにちまちまと国力を削いで行く戦法なのかと納得する。

 ちらりとヴィーを見上げれば、ヴィーはこくりと頷いた。


「それで?俺達に何をさせたい?」


 一番国力がある国が隣にあるって、常に緊張状態なんだろうなあ。考えてみれば、日本は島国だからそう言うのと縁遠かったし、リュクレースは脅威を与えてる国だから知らないんだよね。

 国を維持して行く上で、国力がある隣国って怖いだろうなあ。


「出来れば、会合に集う商隊を全部把握したんだよね」

「……してないのか?」


 ルシェ、割りと上の方に食い込んでると思ったけどそうでもなかったんだろうか?


「出来なかったんだよっ!」

「なんだ、無能だな」

「無能って言うなっ!」

「なら聞くが、どれぐらいの期間潜り込んでいるんだ?」

「…………三年だ」


 三年って。

 思わずヴィーと顔を見合わせてしまったら、ルシェがまた切れたんだけどリットさん達が必死に宥めすかしてた。

 三年掛かっても出来ないって、正直使えなさ過ぎる。


「……黒騎士が有能過ぎるのか?」

「いやあ、そんでも三年掛かっても把握できないってのはよっぽどじゃないかと」


 他国にまで迷惑掛けてるってのに、三年掛かっても解決でき無さそうってどうなの?

 

「これじゃカルッチェにも舐められて当然じゃないですかね?」

「黙れっ!」

「ルシェ。この件で動いているのは君だけなのか?」


 ヴィーの問い掛けにあちらの五人が顔を見合わせた。

 通常なら、国を挙げて取り組むべきことのはずだけど。


「……国王陛下は、私にこの件を預けて下さったのだ」

「取り潰しでも狙われてるのか?」


 たかが公爵家に一任する事じゃないだろう、これ。

 これじゃ確かに三年掛かっても無理だろう。


「……あんた、何者だ?」


 リットさんのその問い掛けに、顔を見合わせて。


「…………ここから北方にある国の元第三王子だ」


 リットさん達の動揺っぷりと何故かどこか納得したようなその顔に、何となくその気持ちは良く解ったと言うか。


「なるほどな。やけに国の上層に詳しいと思ったんだ。それに、偉そうな態度」

「ルシェには負けるさ」

「…………やっぱりお前、ムカつく!」


 一度戦わせろと言うルシェに、ヴィーがこくりと頷いた。

 剣を抜いて対峙した二人を眺め、軽くあしらわれながらも必死な顔で剣を振うルシェをを生暖かく見ていたら、リットさんが話し掛けて来る。


「お前らの国の名前を教えてくれないか?」

「それはあの人に聞いて下さい」

「……剣は、国で習ったのか?」

「勿論です。私の質問にも答えてくれますかね?」

「……何が聞きたい?」

「ジャッハさんはどっち側の人ですか?」


 私の問い掛けに軽く笑ったリットさんが、答えてくれた。


「あの人はこの街の顔役のような人だよ。会合を取り仕切る五人の中の一人で、ここに集う商隊の中じゃ上の方にいる」

「って事は、敵か」

「まあ、うん、そうだ。アンタらは、気付いてたくせにどうして大人しく着いて来たんだ?」

「そりゃ楽しそうだからですよ」

「……楽しそうって」

「ちゃんと最初から名乗ってたじゃないですか。食欲魔人二人組って」

「いや……、まあ、そうなんだが」

「それに、あの恰好ですよ?楽しんでるからこそだと思いませんか?」


 何事も楽しんでこそ勝ちだぜ?


「あ」


 眺めていたヴィーとルシェの試合は、ルシェの剣が弾き飛ばされた所で終ったようだ。

 頑張ったなあ、ルシェ。


「なんで……、剣まで……」


 ぜえはあと息切れしてるルシェを涼しい顔で見下ろすヴィーは、私を見てにっこりと微笑んで見せた。


「そこ、くっ付きすぎ」


 剣を向けられたリットさんが慌てて私から離れて行き、それを見て思わず笑ってしまうとヴィーがむすっとしながら歩いて来る。


「何を話してたんだ?」

「ジャッハさんがどっち側なのかを聞いてました」

「ああ、どっちだった?」

「あちら側の上の方の人らしいですよ?」

「やはりか。ならシルゼと言うのもそうかな?」

「恐らくは。ルシェも上の方に入っているようですから、会合を取り仕切る五人の内三人は把握できましたね?」

「そうだね。残り二人の内、一人が到着していないって所か」

「盗み聞きした内容が正確ならば、ですけどね」


 頽れていたルシェを気遣う四人を眺めつつそんな会話をし、今後どうするかを考える。

 このままルシェの手伝いと言うか、協力をしてもいいものかどうか。


「この国は、この街をどう思ってんでしょうかねえ?」

「たぶん、兵力で負けてるんじゃないかな?」

「……盗賊団に負ける兵力しか持たない国か。どうしようもねえな」

「各国の武器が集まってると考えた方が良いかもしれないね」

「ああ……、そう言う……。ならこの国の鉄鋼技術は下の下ですね」

「たぶんだけど、その技術の向上を阻害している何かがあると思うんだ」

「……それがこの街、ですかね?」

「たぶんね」

「ざっと見た感じでは、そう言う店は無かったですよね?」

「この街、もう一つ門があるんじゃないかな?」

「あー、そうか、そう言う事か」


 だから見張りがくっ付くのか。

 なるほどなるほど。


「カルッチェって国は、どんな国なんでしょうねえ?」

「これが終わったら行ってみよう」

「ですね。面白そうですし」

「やっぱりそこが判断基準なんだ」


 苦笑しながらそう言うヴィーに、当たり前ですと答え。


「楽しく旅を続けるなら重要事項だと思いませんか?」

「うん、そうだね、そう思うよ」

「おし。そうとなったらさっさとこの件片付けましょうか」

「そうしよう」


 そうして、打ちひしがれていたルシェを煽って色んな話しを進めて行き、ルシェ達の動き方を聞いておいた。邪魔をしないようにするには、動きを把握しておく必要があるからね。


「さて。そろそろ戻ろうか」

「そうですね」


 ルシェとリットさんがそう言って、騎士三人組と別れて歩き出した。

 

 聞いた話では、一つの商隊で荷車は最低一つ。大きな商隊で三つからと言う。

 だから荷車の数が合ってなかったのかと納得しながら話しを聞いていた。

 まだ、私達が魔法を使う事は改めて言ってないけど、ちゃんと最初に名乗ってるんだよねえ、黒の魔導士ってさ。

 たぶん、それは流しちゃってるだろうけど、特に言う事も無いかと思って黙ったままだ。


「戻る前に、昼食を摂らないか?」

「ああ……、食欲魔人?」

「まあね。それに、そろそろいちるの腹が騒ぎ出すと思って」


 ヴィーの言葉に答えるように、ぐぎゅうううううっと鳴った私のお腹に、ルシェとリットさんが一瞬呆けた後に笑い出した。

 まあ、ずっと様子を探る為に探索の魔法を使ってたから自分でもお腹が減ったって解ってたんだけどね。


「ここからなら、アッジェトの所が近いですね」

「美味いなら何処でもいいよ」


 リットさんの言葉にヴィーが答え、そうして四人でリットさんの案内の元アッジェトさんとやらの食堂に入り、ルシェが「まだ食えるのか……」とげんなりした顔をしながら私を眺めるのを見て笑いつつ。

 そうして食堂を出れば、ジャッハさんのお仲間さん達が通りで待ち構えていた。


「リット。ちょっといいか?」


 剣呑なその雰囲気に顔を見合わせたけど、リットさんは笑いながらこくりと頷いて見せたので、そのまま見送った。

 まあ、こちらにはルシェがいるから大丈夫だろうと思うけど。


「……制裁とか?」

「お前、物騒な考え方をするな?」

「え、違うんですか?」

「消えていた間の事を聞き出すんだろう?」

「そんだけ?」

「……他に何があるって言うんだ?」


 随分と生温いその考えに、この国が何で弱いのか解った気がした。

 そして、戻って来たリットさんを見て何だか可哀想になってしまう。


「……上が無能だと、働く意欲がなくなると言うのは本当の事だね」

「まあ、仕方がないですよ。選べないですから」

「俺は、間に合った、のか?」

「でしょうね。先輩達のあの懐きっぷりを見るに、ヴィーがいなけりゃヤバかったんじゃないかと思いますけどね」


 黒騎士一期生共のあの崇拝っぷりってちょっと異常だもんなあ。

 盲目的に従ってる訳じゃないけど、ちょっと怖い物があるし。


「おい、何をコソコソと言い合ってる。さっさと行くぞ」

「はいはい」


 そうして街中を軽く散策しながらあの屋敷に戻る。

 ま、お楽しみはこれからですよ。


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