第六話 そういや、なんで狸って言うんだろう?
「いちる、これが似合うんじゃないかな?」
「きゃあ、リーったら!これ着けて悩殺しますよ?」
「して欲しいな」
うふふふふーと笑い合うのは何故かと言えば、フェルクトさんがくっ付いて来てるからである。リットさんが案内してくれた衣類を売っているお店は、下着からドレスまでやけに品揃えが良すぎる店だったんだよね。
そして、この地方で作っていると言う割に生地の素材も違えば、刺繍のパターンも違うし、ドレスの形も違い過ぎた。
こりゃ盗品だなあ。
「ああ、これもいいな。外しやすそうだ」
「あ、じゃあリーはこれなんてどうです?」
きゃっきゃうふふと笑いながら、互いの下着を選んでいるとフェルクトさんが近寄って来て、私を頭の天辺から足元まで五度は視線を往復させ。
「お前は胸が無さそうだから着けなくても問題な「チェストオオオオオッ!」いぎゃっ!」
ゴスッと音を立ててフェルクトさんの側頭部にめり込んだ私の踵は、そのままフェルクトさんを下着の山の上に突っ込ませた。
おっと、やっちまったい。
「ごめんなさい、商品汚しちゃいましたっ!」
「明らかにそっちじゃないよね?謝るなら僕の方にだよね?」
「いちる、その汚物を早く避けた方が良い」
下着の山の中からフェルクトさんの声が聞こえたけど、ヴィーの言葉にそれもそうですねと言って、右手でひょいっとフェルクトさんを持ち上げてリットさんへと投げ付けた。
ぐしゃぐしゃになってしまった下着の山を丁寧に畳み直して、もう一度ごめんなさいと謝る。
「おい……」
「まったくもう。飢えてるからって下着の山に頭から突っ込むなんて最低ですね」
「仕方がないよ、選んでも着けてくれる人がいないんだから」
「ぷふっ、寂しい人生ですね」
「そうだろうね、俺には想像する事しか出来ないけど」
どうやら切れたらしいフェルクトさんが店内で暴れ始めたので、後はリットさんにお任せしてさっさと店を出る。
「ここから国中の店に売り付けるっぽいですね?」
「そのようだ。一度この街に集めて、それぞれに持って出るのか。効率的だな」
「その辺は一応商人って事なんでしょうねえ」
「うん、そうだな」
何気なく辺りを見回せば、ジャッハさんのお仲間さんが立ち話をしながらこっちを見張ってた。そして、その人たちを避けるようにしている三人組もちゃんといた。
「あれ、もしかしてこの国の騎士じゃないですかね?」
「そうみたいだね?」
「って事は、会合が見張られてるんでしょうかね?」
「違法な取引があるんだろうね。ルクトはどちら側だろう?」
「あの人素直過ぎますよねえ?」
「……いちるはリットをどう見る?」
「え?えー、何事も中途半端過ぎて怪しい人です」
「うん、俺も同じ意見だ」
「ああ、じゃあリットさんは騎士ですかね?」
「たぶんね。だからルクトはリットの上司じゃないかと思ったんだけど」
「………………もしかしてそれって」
「この国の王子じゃないかな?」
ヤベエ。
「今すぐトンズラこきますか?」
「大丈夫だよ、いちる」
「で、でも遠慮なく踵をめり込ませましたけど」
「そんなの当然だろう?それに、女性を貶めたから蹴られましたなんて、公言する方が莫迦だ」
「…………大丈夫ですかね?」
「大丈夫だよ。駄目なら全員ぶっ飛ばして逃げればいい」
ニヤリと笑いながらそう言ったヴィーに思わず笑ってしまう。
「旅、楽しんでますか?」
「当然」
「テメエら、逃げてんじゃねえぞコラッ!!!」
うふふと笑い合い、見つめあっていたら店のドアが開いて殺気を篭めた視線で私達を睨みながら怒鳴って来る。
「おや、落ち着いたのかな?」
「ルクトさん、お店で暴れちゃ駄目ですよ?」
「恥を覚えた方が良いんじゃないか?」
プルプルと右手を震わせていたフェルクトさんは、後から出て来たリットさんに宥めすかされ、何とか怒りを抑えたようだ。
「……お前達に聞きたい事がある」
ニヤニヤとした顔や、ヴィーに乗せられて莫迦を晒してた顔とは違い、真剣な顔でそう言ったので、こくりと頷けば着いて来いと言って歩き始める。
広い通りから細い通りに入り、あちらこちらへ曲がって尾行を撒いたフェルクトさんは、路地の更に奥へと入り込んでから、廃墟の更に奥へと私達を連れ込んだ。
そこにいたのはジャッハさんのお仲間さんから距離を取っていた三人組。
ああ、やっぱりヴィーの予想通りだったか。
「今から僕の素性を教えてやる。だから」
「興味ないです」
「そうだね、どうでもいいよ」
怒りと憎しみを篭めた視線を飛ばすフェルクトさんと、リットさんと三人組の反応が面白い。ま、取り敢えず三人組の素性の確認って所で。
「どうしてもって言うなら聞いてもいいですけど」
「条件がある」
「……条件、だと?」
「そっちの素性を明かしたからこっちの素性を明かせってのは無し」
「ふざけんなっ!それじゃ全然意味ねえだろうがっ!」
「でも別に興味ないし」
「聞かなくてもこちらは困らないからね」
「どうでもいいですし」
再び「あああああああっ!」と叫びながら両手で頭を抱えて悶え始めたフェルクトさんは、リットさんに慰められてた。
どうせ協力しろって事だろうから、先に上下関係ははっきりさせておかないとねえ?
「なあ、話しを聞いてくれないか?」
「む……、仕方ないですね、リットさんが言うなら聞きましょうか」
「なんで……、なんでリットが特別扱いなんだっ!」
「美味しい物たくさん教えてくれるからですっ!」
「当然だな」
ちゃんと最初から言ってたじゃないですか、食欲魔人二人組だってと言えば、フェルクトさんはしゃがみ込んでいじけてしまったけど。
「……これでいいか?」
仮面を外したヴィーとフードを取った私達を、リットさんを除く四人がじいいいいっと穴が開く程見つめ続けてくれた。
「俺の名はルシェ・ウルージ。ルクトと言うのは偽名だ」
「………………えー気付かなかったー」
「偽名だったのかー」
フェルクトさん改めルシェは、私達の反応をじっと待っていたので仕方なく棒読みで返事をすれば、それもまた面白くなかったようで廃墟の崩れ落ちた壁をゲシゲシと蹴る。
まったく、面倒な男だ。
「……お前達は、この街がどんな所なのか気付いているか?」
「この辺の盗賊達の盗品が集まる街」
「そしてここから盗品が売り捌かれている」
「なんだ、やはり気付いていたのか」
「まあ、旅をしてますからそれくらいは」
「それで?周辺国からすれば、この国は危険な立場だと思うけど?」
ヴィーの言葉にルシェが顔を顰め、そうしてこくりと頷いた。
「……この街に中々入れなかった事もあるが。何人かの騎士を入り込ませ、商隊にも潜り込ませ、やっとここまで来た」
「手ぬるいっすね」
「周辺国にも手助けする者がいたのかな?」
ヴィーの言葉に顔を上げたルシェは苦々しい顔つきになったけどまあ、それくらいは誰でも予想出来るだろって。
「招き入れてくれる奴がいるなら、盗むのも簡単ですし」
「それに、衣料品のあの品揃え。名家の物も混じっているだろう?」
「……わかるのか?」
「まあね。伊達に旅をしている訳じゃない」
リットさんの言葉にヴィーが頷けば、あちらの五人は互いに顔を見合わせる。
「食材の豊富さ、調味料の豊富さ。それと調度類もバラバラなんですよ」
「その場所その場所によって素材も造り方も違う物だからね」
「で?私達に何をさせたいんです?」
全てがチグハグなこの街で、この人達は何をしようとしているんだろう。
「……アンタら、剣の腕はあるか?」
「まあ、それなりに」
「確かめさせて貰っても?」
「いいよ?どっちとやる?」
ヴィーの言葉に黒マントを脱げば、再び五人がこちらを凝視して来る。
「旅してんだ、剣が使えて当たり前だろう?」
腰に下がった二つの剣に、リットさんがニヤリと笑った。
ああ、この人、相当な狸だったか。
「私とやりたい?」
「…………ああ」
「んー、言葉だけ聞くと夫としてはもやっとするね?」
「お、おっとおおおおおっ!?」
「そうだよ?あれ、言ってなかった?」
「え、いや、だってお前……」
酷く驚いた顔でヴィーと私の顔を交互に見続けるルシェの顔には、『なんでこんな女と』とはっきりと書かれていた。
「おいテメエ、また蹴るぞこの野郎」
ジロリと睨み付ければ、慌てて言い訳を始めるルシェに、もういいから黙って見てろと言い付けた後、リットさんと対峙した。
「さて。やろうか」
「ああ」
真正面から向き合い、踏み込んで来たリットさんの剣を受け流し、返しながら斬り付ける。さすがにそれぐらいは避けられて、再び対峙し。
「行くぞ」
そう言って踏み込んで来たリットさんの剣は、物凄く重かった。
ラント団長と似た剣の使い方に物凄い懐かしさを覚えつつ、何度か剣を交えた後。
「……なんで、双剣にしない?」
そう聞いて来たリットさんに、これは予備だと答えて踏み込んだ。
風の魔法を纏った私の得意技。素早い踏み込みに着いて来られなかったリットさんの腹を横薙ぎに出来る一撃は、斬る前に止めた。
「……一本」
ニヤリと笑いながらそう言えば、一瞬固まったリットさんが動き出す。右に左に自在に繰り出される重い剣を避けながら一瞬だけ姿隠しの魔法を使って後ろに回り、首に剣を突き付けた。
「勝負あり、でいいかな?」
しんと静まり返った中、リットさんの「負けました」の声に剣を収め。
やっと謎の三人組の素性が明かされ、何だかヴィーの予想通りでちょっとつまらんと思いながらルシェの話に耳を澄ましてた。
「絶対に失敗できないんだ。頼む、協力してくれ」
あ、ルシェは王子じゃなくて公爵家の息子だってのだけ外れたかな。まあ、王子と従兄弟だから似たようなもんだけどね。




