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第五話 打てば響くこの反応

 ヴィーに肩を抱かれて歩くのは、そう言えば初めての事ですよ。

 何て言うか、凄く恥ずかしいけど嬉しいって言うか、えへ、えへへへへへへ。


「…………歩きづらくないの?」

「全然。今二人の世界なので放っておいて下さい」

「ああそう」


 ぎゅっとヴィーに抱き付いたまま歩いている私と、私の肩を抱いたまま歩いているヴィーにフェルクトさんがげんなりした顔でそう言って来たけど気にしないっ!と言うより気にならないっ!

 むしろ邪魔すんな!と威嚇したくなる。


「悪いね、ルクトさん」

「……それはどういう意味かな?」

「いや?意味なんてないよ」

「ああそう」


 奥歯を噛み締めたフェルクトさんに、仮面の奥のヴィーが綺麗に微笑んだ。


「……リットッ!店はまだっ!?」

「えっ!?あ、その、先を曲がってすぐですっ」

「早くしろっ!店を連れて来いっ!」

「そ、そんな無茶な」

「ルクトさん、折角だからのんびり歩きたいんだが」

「鬱陶しいんだよお前らっ!」

「そうか、それはすまないね」

「全然そう思ってないだろお前っ!悪いと思うなら離れろよっ!」

「俺は離れてもいいんだけどね」


 ぎゅううっとしがみ付いてフードの奥からフェルクトさんを睨み付ければ、フェルクトさんは思いっきり顔を顰めた後舌打ちをする。


「いちる、離れろ」

「うるさい黙れ。リットさんとくっ付いてろよ」

「男とくっ付いても楽しくないだろう!?」

「くっ付いた事あんのかよ。試してから言ってみろってんだよ」

「ふざけんなっ!いい加減離れろって言ってんだよっ!」

「いちるに暴言を吐くな」

「っ!?お、前、僕に言う前にいちるに言うべきだろうっ!?」

「あれは暴言じゃない、進言だ」

「……おい」

「いちる、大丈夫か?」

「ルクトさん怖いですぅ」

「よしよし。いちるはしがみ付いていればいいよ」

「はいっ」

「…………だから、それ止めろって言ってんだよおおおおおっ!!!」


 ふふ、フェルクトさん面白い。

 やっぱヴィーの方が上手(うわて)だったか。だよなあ、これ以上の人がゴロゴロいたら怖い世界になっちゃうもんなあ。


「リットさん、行こうか」

「は、いや、あの、」

「ルクトさん、置いて行くよ?」

「ふざけんな」


 フェルクトさんは自分の拳を建物に叩き付けてたけど、ヴィーの声に即反応して見せた。やっぱ動きが違うんだよなあ、この人。


「…………いちるがお前に引っ付いているなら、僕はこっち側に」

「断る」

「空いてるだろうっ!?」

「男に引っ付く程飢えてるのか?」

「そ、そんな訳ないだろうっ!?自惚れんなっ!」

「じゃあ一人で歩けば?」

「歩くに決まってるだろうがっ!」


 ひょいっと軽く乗せられたフェルクトさんの負けって事で。

 笑いを堪えつつ、怒ったフェルクトさんがリットさんをどつきながら歩き始めたのを眺めつつ。


「面白い人ですね」

「そうだね」


 どつかれてボロボロになったリットさんを、ちょっと哀れに思わなくもないけど。

 どうやら死ぬ前に店に辿り着いたらしく、泣きそうな顔をしながらドアを開けてくれたリットさんにお礼を言う。


「大変だね」

「ええ……、まあ……」


 ヴィーの言葉に口元をひく付かせながら返事をしたリットさんをさらっと流し見た後店内に足を踏み入れればそこは、まるで宝石屋さんのようでした。

 

「はああっ!甘い香りに包まれた店内、輝いて誘惑するお菓子達っ!全種類下さいっ!」

「い、いらっしゃ、えっ!?」


 先に入ったフェルクトさんを見た店主が、リットさんと同じように口元をひく付かせながらも挨拶途中で私の言葉に驚きを見せる。


「そうだね、全種類貰おうか」

「二つずつで」


 ニコニコ笑いながらそう言って店主を見つめていると、フェルクトさんが声を発する。


「おい。店の物全部買う。寄越せ」

「は、えっ!?」

「早くしろ」


 そう言った後私達に向かって勝ち誇った顔をして見せ。


「残念だったなリー。この店の物は全部俺が買った」

「そのようだ」

「いちる、食べたかったらこっちに来い」

「いらないです」

「なんだとっ!?」

「食欲魔人ですから、人の食べ物を奪うのは一番やっちゃいけない事だって良く解ってますから」

「いちる、他の店を探そうか」

「はい」

「………………わかった。お前達に譲ってやろう」


 店のドアに向かって歩き出した私達にフェルクトさんが声を掛けて来るので、仕方なく足を止める。


「ただし、条件がある」

「……条件?」

「離れろ。引っ付いて歩くな」


 ジロリと睨みながらそう言うので、ヴィーと顔を見合わせクスリと笑い合ってから離れる。


「あっさり離れんなよっ!」


 地団太を踏むフェルクトさんを横目に見つつ、お菓子を全種類二つずつ買う事に成功した私達は、後であのお屋敷に届けてくれるように頼んでおく。

 見た目裂きイカのようなお菓子だけ持って行く事にして、「もうヤダこいつら」としゃがみ込んでぶつぶつ呟いているフェルクトさんを残して店を出る。


「あんまり人がいないですね」

「そうだね」

「迷子になった振りも出来なさそうだし。どうします?」


 店を出る私達に気付いたリットさんが慌てて後を追おうとして、しゃがみ込むフェルクトさんに足止めされている間に外に出て会話をする。

 互いに、同時翻訳魔法が掛かっているから何を話しているのかはわからないからね。


「……いちる、またくっ付いて歩こうか」

「喜んでっ」


 ガバッと抱き着き、その後ヴィーの背中に手を回して服を握り締めると、ヴィーが肩を抱いて来る。やだ、私達ったら今熱々バカップルですよ、えへへへへへへ。


「離れろよ」

「リットさん、この街の衣類が買える店に行きたいのだが」

「……それならもう少し先に」

「僕を無視するなっ!」


 折角ヴィーと熱々バカップルになっていたと言うのに、丁度店から出て来たフェルクトさんに邪魔をされる。まったく、そろそろヴィーに上手く乗せられてるって気付けばいいのに。まあ、今までそんな扱いをされた事が無いんだろうなあ。


「菓子を譲っただろうっ!?」

「離れただろう?」

「引っ付いて歩くなと言ったんだっ!」

「人がどう歩こうが勝手だと思わないか?」

「目の前でやられると腹が立つから止めろと言っている」


 幾分冷静になった物言いに、仕方なくくっ付くのを止めた。


「………………リット。案内しろ」

「はい」


 私達の前を歩くリットさんとフェルクトさんの背中を見つつ、さっき買った見た目裂きイカのお菓子を取り出して口に入れる。

 ふむ。

 チーズと何だろう、餃子の皮みたいな、春巻きの皮みたいな、小麦系の物を合わせて焼いた感じの味ですね。つうかこの塩は甘みもあって美味いな?


「頂戴」

「はい、どうぞ」

「僕にも寄越せ」

「お断りします。あ、リットさんは食べますか?」


 袋から一つ取り出してリットさんに差し出せば、肩を震わせて怒りを露わにするフェルクトさんに、リットさんは顔を青褪めさせて必死に顔を横に振る。


「おい、何故リットには寄越して僕に渡さないんだ」

「そりゃリットさんには昨日からお世話になってますからね。お礼の気持ちです」

「……リットはいらないそうだ。代わりに僕が貰ってやる」

「お礼の気持ちで渡すのに他の人に渡してどうすんですか」


 そんな間抜けなと言いながらパクリと自分で食べれば、フェルクトさんはギロリと睨んで来たけど、それ以上は何も言わなかった。

 おっと、どうやら急速に学習中らしい。そろそろ方向を変えた方が良いだろうか?


「……衣類を売っている店に行って何を買うんだ?」

「その場所その場所で作られている物に興味があってね。それに、自分が選んだ物を身に付けているのを見るのも良い」

「やだ、リーったら」


 うふふと笑いながらぎゅっと抱き着くと、フェルクトさんが目を剥いて口元をひく付かせ、リットさんの肩を殴ってた。痛がって見せる辺り、リットさんも演技派だな。


「食堂が多い街だな」

「……大抵外で済ませるからな」

「ふうん、そうなのか」

「お前達の国ではどうなんだ?」

「言った通り、食材に恵まれていないからな。食堂自体が無い」

「家で食べるのか?」

「ああ。と言うか、他に選択肢がなくてね」

「……それは、確かに哀れだな」


 そんな国があるなら絶対行きたくないですけどね。

 パクパクとお菓子を食べながら、会話に耳を澄ませていた。


「そんな国、何処にあるんだ」

「北の方だ」

「……絶対北には行かない」

「そうだな、その方が良い」


 フェルクトさんの言葉をヴィーが肯定すると、フェルクトさんは『ふんっ』と鼻を鳴らして顎を上げる。


「惨めたらしい食生活だな!僕ならそんな所堪えられないね」

「だろうな。まあ、だからこそ出て来たんだがな」

「認めるなよっ!そこは反論しろよっ!」

「事実だからな」


 フェルクトさん、偉そぶってるのに何でこんなにノリが良いんだろう。リットさんと言い、何て言うか純朴?って感じ?

 純粋って程じゃないけど、どうも素直に乗せられ過ぎる。これが演技なら相当な狸だ。


「いちる」

「はい?」

「そろそろ……」


 新しい下着を買おうかと耳元で囁いたヴィーの声は、何故かフェルクトさんに良く聞こえたらしく。


「ああああああああああああああああっっっ!!!」


 両手で頭を抱えて身悶え始めたフェルクトさんに、リットさんがひたすらオロオロしてるのをニヤ付きながら眺めてしまった。


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