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第四話 祝! 初モテ期!

 リドルの数は解らなかったけど、荷車の数は全部で二十六台あった。

 一つの商隊で一台で換算すれば二十六人。連れが最低五人で計算すれば既に百人越えだ。

 さてさて。


「よーお、ジャッハじゃねえか」

「おお、シルゼ!おいおい、久し振りじゃねえか!」

「久し振りにこっちまで足を伸ばしたんだ。ついでに会合に顔出しとこうと思ってな」


 軽く抱き合って互いにバシバシと背中を叩き合うおっさん達を眺め、その後ろに控えている厳つい男達を眺めていると、向こうもどうやら私達を訝しんでいるようで、さっきから上から下まで視線が三度は往復している。

 まあ、仮面を付けた男と黒いフードとマントで全身を隠している女なんて、怪しい事この上なしと判断されても仕方のない事なんだけどさ。


「んで?リットは判るが……」

「ああ、コイツラは俺の連れだ」

「ふうん……」


 シルゼさんがそう言いながら私達を無遠慮にジロジロと見まくった後、ジャッハさんと挨拶を交わして別れ、ジャッハさんは私達を部屋の一つに案内してくれた。


「実は遅れてる奴がいてな、会合は明日からって決まったんだ。だから今日はここで寛いでくれ。リット、悪いが面倒見てやって欲しい」

「わかりました」

「悪いな。俺は他の奴に挨拶して来るからよ」

「行ってらっしゃい!」


 そうしてジャッハさんが部屋を出て行くのを見送った私達は、部屋の中をぐるりと見回した。簡素な部屋で本当に寝泊まりする為だけの部屋と言うか、まあ、安宿よりはマシな造りの部屋だった。


「……リットさん、今日暇なら街へ出たいのですが」

「え」

「だって、会合は明日なんでしょう?それなら、今日は街中を散策したいのですけど」

「ええと……」

「リット。案内してくれるだろう?」


 ヴィーにそう言われたリットさんは、三歩後ずさってから「ちょっと待ってくれ」と言って部屋を出て行った。それに合わせて姿消しの魔法を掛けて後を追う。

 リットさんは私に気付きもせず、そのまま廊下を駆け抜けて階段を駆け上がり、三階にあった一室の前で立ち止まって深呼吸を繰り返した。


 ノックの後、ドアから顔を出したのは昨日表通りにいた一人。

 リットさんが中へと招き入れられた後、私はそのまま盗み聞きをする為にドアに耳をくっ付ける。


「どうした、リット?」

「あの、あの二人が会合が無いなら街を案内しろと」


 しんと静まった後、ジャッハさんの声が聞こえて来る。


「……どうする、アイツを待たずに始めるか?」

「まあ駄目だと言えば不審がられるだろうからな」

「ちっ。朝から食わせれば大人しくしてると思ったんだがな」

「ああ、すげえ食うって話しは本当なのか」

「見てるこっちが吐きそうになるぐらいな」


 そこまで聞いた所で、誰かが上がって来る気配にドアの反対の壁際に身を寄せる。姿が見える事は無いけど、さすがに触れればバレるからねえ。

 上がって来たのはこれまた厳つい男が二人。

 見た事が無いので誰かの連れなのか、ここで働いている男なのかはわからない。ただ、盆の上に軽めの食事と、お茶を淹れる為のカップが置いてあったので数を確認しておいた。

 

 どうやら部屋の中には最低でも六人いるらしい。


 ノックの後顔を出したのは先程と同じ男で、盆を持った男達を中へと招き入れる。ドアが開けっぱなしだったのでこりゃありがたいと中を覗き込み、人数と顔ぶれを確認したんだけど。

 思わず誘われるように中に入ってしまうかと思ったってえの。


 何ですか何ですかあの凶悪な胸はっ!!!


「ジャッハ。持て余してるなら私がお相手するけど?」


 是非!おっさんより美女!そして私に胸が大きくなる方法を伝授して下さいっ!


「はっ、莫迦な事言ってんじゃねえよ、横取りチェスカ。テメエの魂胆は見え見えなんだよ」

「やだジャッハったら。まだあの事根に持ってるの?」

「うるせえよっ!」

「ははは、まさか女を女に盗られるなんてなあ」

「そりゃ作りモンには負けるだろうよ」

「具合よく作られてるらしいからなあ」

「うるせえって言ってんだよっ!大体、あの女は元々捨ててたから別に」


 皆に笑われているジャッハさんを眺めていたら、仕事を終えた男達が出て来てドアが閉じられてしまった。二人が階段を降り始めたのを確認してから再びドアに耳を付ける。


「おいリット!」

「はいっ」

「黙らせとけっ!」

「ジャッハ、リットに八つ当たりしない」

「そうそう。それに、リットじゃ無理だって」

「ならやっぱり私が」

「いや。僕が行こう」


 初めて聞く声が名乗りを上げると、部屋の中が静まり返る。

 これで力関係は把握できたけど。


「い、いや、さすがにそれは」

「何故?」

「だ、だって、フェルクトさんがわざわざ相手をするような奴らじゃ」

「そう?でも面白そうじゃない、仮面と、黒いフードなんて」

「それ!それですよ!この辺にはそんな習慣のある所なんてないですし、怪しいなんてもんじゃないんですから」

「だからこそ面白いんだろう?一体どこから来たんだろうね?」


 ……ヤベエ、こいつヴィーと同じタイプだ。

 キャラ被ってるからキャラ替えろや。


「ねえリット、その二人の事もう一度話してくれる?」

「は……、はい……」


 男の方は金色の髪で整い過ぎた顔立ち、眼の色は綺麗な青。女の方は見た事も無い黒い髪で、顔は地味ですと言ったリットさんを、後ろから拳骨してくれようかと思ったわ。

 いいけどね。いいけどね、別にっ!


「男は剣を持ってますが、女の方は持ってません」

「と言う事は、男の剣の腕は相当なんじゃないのか?」

「だな。荒らしてる俺が言うのも何だが、この辺はかなり物騒だぜ?」

「あ、何かアルノを知ってたんで、たぶん果樹園の方から迷い込んだんだと」

「……どういう迷い方をしたらこちらに来るんだ?」

「あそこからなら、プーレンの街に行こうとしてたんだろうが」


 ほう。アルノを追っている間にどうやら迷子になっていたらしい。

 

「恰好があれだったんで、中に入れないようにしようと思ったんですが」

「確か、あまりにも哀れで入れてやったらしいな?」

「だ、だって、腹を鳴らすんですよ!ぐぎゅるるるるるって。何か、可哀想になっちゃって」


 その言葉に一斉に笑い出した声達に、今に見てろよこの野郎と心に誓った後。

 どうやらキャラ被りが案内してくれるっぽいと踏んでその場を後にし、部屋に戻ってヴィーに報告する。


「なるほど、ジャッハの商品は俺達か」

「むしろメインですね」

「……やっぱり盗賊の街だったか」

「いつの間にか迷子になってたみたいですからねえ」

「ある意味当たりだね」

「ですよねえ。全員賞金首なら尚良しなんですが」

「それはどうだろうね?国でも利用しているかもしれないからね」

「あー、やっぱそうですかー。ヴィーなら利用する事考えますよねえ」

「いちるでも考え付いた事じゃないのか?」

「そうなんですけどね。でも利用するには数が多過ぎませんかね?」

「一部じゃないかな?」

「……なるほど。ここに集まる奴らもやっぱただもんじゃなかったですね」

「どれが賞金首だろう?」

「そう言う時は全員ふんじばって連行すりゃ、どれかは当たりますよ」


 そう言うとぶはっと吹き出し、「そうしよう」と言うのでいざって時の行動は決定したようだ。丁度二階からリットさんともう一人が降りて来る気配があったので、ヴィーと二人で待ち構える。


「待たせて悪かった」


 そう言いながら入って来たのはリットさんともう一人。

 焦げ茶色の髪をした優男風の、整った顔にニヤけた口元をした男だった。

 ああ、やっぱりキャラ被りが来たかと思いながらジッと観察していると、向こうもこっちを無遠慮に眺め回してた。


「あの、この人はジャッハさんの知り合いで」

「ルクトだよ。リットが街に行くって言うからくっ付いて来たんだ。一緒でいいよね?」


 そう言いながらこちらへ近付いて来たので、何気なくヴィーの前に立ちはだかる。


「いちるです。こっちはリー」

「……そう。よろしくね?」

「はい、よろしくです」


 キャラ被ってるだけあるのか、コイツ、危ねえ。

 

「……どんな顔なのか、興味をそそられるね?」

「秘密は誰にでもある物ですよ」

「おっと。じゃあ勝手に想像するけど良い?」

「どうぞどうぞ。何なら絶世の美女を思い浮かべて貰えると嬉しいですね」

「絶世の美女か。へえ……?」


 屈みこんで覗き込もうとするのを阻みつつ、さて行きましょう!とリットさんを急かせば、リットさんが「行きましょう」と促してくれたので四人で部屋を出た。

 玄関の所にいた厳つい男がフェルクトさんを見て慄いてたけど、視線で命令されたらしく、そのまま送り出してくれる。


「何が見たいの?」

「この街のお菓子が食べたいです」

「菓子?」

「はい。あれ、もしかして無い、とか?」

「いや、あるよ。なるほど、菓子ね。リット、知ってる?」

「え、ええ、はい。俺の幼馴染がやってる店があります」

「じゃあそこに行こう。いいよね?」

「お任せします」

「そっちの、リー君はいいのかな?」

「勿論」

「そ?」


 ヴィーを見上げて笑い合い、手を繋いで歩き出す。

 フェルクトさんの事で分かった事は、この人はどうやら纏め役らしいって事と、この街に住んでる訳じゃないって事ですねえ。


「リットさんの友人は、特技がある人が多いようだね?」

「え……?」

「宿屋に菓子屋か。羨ましいね」

「ですねえ。自分で作れるなんて凄いですよねえ」

「君は作らないの?」


 フェルクトさんがそう言いながらニヤリと笑って聞いて来る。


「私達……、食に恵まれない国から来て……」

「そもそもこの街程材料がないんだ。ここは食材が豊かだね」

「ですよねえっ!すごく、物凄おく羨ましいですっ!」

「そうだね、あの肉汁が滴るグレハ、濃厚で飲む程に深みを増すあのルーデ。あっさりとした魚の身に掛かっていたデリンのソース」

「ああ……、最高の食事ですねえ。今日も色々食べたいですっ!」

「リットさん、今日も色々教えて貰えると嬉しい」

「あ、ああ、勿論だ」


 ヴィーと二人で食事の事で盛り上がれば、リットさんはあっさり飲まれてくれたけど。


「へえ、本当に食いしん坊なんだねえ。是非目の前で食べてみて欲しいね?」

「お会計は別々ですよ?」

「ははは、奢ってもいいけど?」

「いえいえ、ご馳走して頂く理由がありませんのでそれは結構です」

「そう?残念だなあ」


 やっぱ油断できねえよコイツはよお。

 

「ねえ、いちる」

「はい」

「今日中に君の顔を見る事が出来たら、一つ僕の願いを叶えてくれないかな?」

「それ、私になんの得があるんです?」

「んー、それは後のお楽しみでどう?」

「お断りです。提示されたお楽しみが私のお楽しみとは限らないですからねえ」

「あれ、随分用心深いんだね?さすが、顔を隠しているだけはあるのか」

「いえ、これは単に勿体ぶってるだけですし」

「じゃあ見せてよ」

「嫌です」

「触るな」


 伸ばされた手を避けるようにヴィーに抱き寄せられたと思ったら、フェルクトさんをヴィーが睨み付けてた。

 あれ、もしかして私、今モテ期!?


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