第三話 選べるデザート付きフルコース
綺麗に微笑んだヴィーに飲まれたリットさんは、色んな事をゲロッてくれた。
ちょっと、哀れに思わなくもない。
「じゃあ明日行く商談とやらは、この国を行き交う商人達の寄り合いのような物だと」
「はい……、その通りです……」
「商隊は国内だけでなく国外へも行くが、南方及び西方のみである?」
「そうです……。一応その先の国まで国交はありますが、そこまで行くには力不足で」
「深い谷を越える術を持たないから、だったね」
「はい、その通りです……」
聞き出した情報を整理しながら確定して行くのを聞きつつ、部屋の外の気配を探っていたんだけど、中々出て来ないリットさんを心配してか、アルグさんが階段を上がって来た。
左手を少し上げてヴィーに合図をすれば、会話を切ってリットさんに微笑んで見せる。
「リット。色々教えてくれてありがとう」
「ああ……、いや……」
「じゃあ、明日の朝待ってるよ」
「あ、ああ、うん」
「リットさん、ありがとうございました」
「……ああ」
フードを被りながらそう言えば、リットさんはそう言って立ち上がり、おやすみと声を掛けてから部屋を出て行った。途中でアルグさんと一緒になって階段を降りて行く音を聞いてから、私も椅子に腰を下ろす。
「色々聞き出せましたね?」
「そうだね。まあ、耐性が無かったみたいだから」
「こっちの人って、魔力があんまりないみたいですからね」
「ほぼ無いと思って間違いないね。少なくとも、この街の人達はと言う意味だけど」
「そのようですね」
どうやらこの部屋は監視をする為の部屋のようだし?
「……向かいの窓から二人」
「たぶん、通りにもいるんだろうね」
「でしょうね。リットさん、必死に合図出してましたけど何の合図ですかね?」
「たぶん、手出し無用、かな?」
「なるほど。一応ヴィーの顔と私の黒髪は明らかにしましたけど、どう出ますかね?」
「いちる、楽しそうだね?」
「まあ、最近ちょっと運動不足かなって」
「明日、楽しめるといいね」
「そう願ってるんですがねえ」
やれやれと溜息を吐きながら部屋の明かりを消し、荷物の整理をした後窓から通りを見下ろしたり、向かいの宿から覗いている奴らを少しの間眺めてたんだけど。
「……素人集団かっつうの」
「よくて街の自警団って所かな?」
「てえ事は、この街はもしかして、商隊の護衛頼りですかね?」
「頼りに出来るほど商隊が出入りする街、となると」
「コルディックのような位置づけですね」
ここを通って国内を行き来するのが前提なら、ここはこの国の中心となっているって事だけど。
「出来れば、商隊である事が確定ならいいんだけどね」
「……他の可能性って言うと、もしかして」
「まあ、たぶん、いちるがもっと楽しくなるかなあってね」
「それってもしかして、盗賊団って事ですか!?」
思わず嬉しくなってそう聞けば、ヴィーは苦笑しながらこくりと頷いた。
「元々は盗賊団が隠れ住んでた所で、そこが街になった、なんてね」
「なるほどなるほど。けど、それなら見張りが素人っぽいのが腑に落ちますね」
リットさんはまあ、勉強中って感じっぽいけど剣の腕はありそうだったもんなあ。
ま、何が出てきても良いように剣の手入れだけは欠かしちゃいけないよね、やっぱさ。
「……って、私、剣を使っても大丈夫ですかね?」
「少なくとも、ジャッハなら大丈夫だろう。たぶん」
「ああ、やっぱりたぶんなんですね」
「うん」
向かいの窓から覗いてた奴らの姿が消えたのを確認し、通りにいた奴らと合流して何処かへ歩き去っていくのを眺め。
「取り敢えずこっちは終わりにするみたいですけど……」
「裏通りが確認できないのは面倒だね」
「ちょっと屋根に上がって覗いてきますよ」
「俺も行こう」
「いいっすねえ」
そうして窓から屋根に上がり、月明かりを浴びながら裏通りを見下ろせば、そこにはジャッハさんが五人の男達とたむろっていらっしゃった。
思わずニヤリと笑ってしまえばヴィーが苦笑しながら肩を竦める。
暫く眺めてたんだけど、明日の為に休んでおこうかとヴィーが言うので、こくりと頷いて部屋へと戻る。
「随分楽しそうでしたねえ、ジャッハさん」
「そうだね」
「どうします?明日大勢に囲まれちゃったりしたら」
「そうだなあ、その時は一気に行こうか」
「え、いいんですか!?」
「いいよ。リットとジャッハを確保した後、逃走しよう」
「完遂しますっ!」
要するに、囲まれたら魔法で蹴散らした後即逃げようと言う。何とも楽しそうなその案にワクワクしながら眠りに付いた。
翌日、陽が出るか出ないかぐらいに起き出し、姿を消して屋根の上から警戒していると、昨日ジャッハさんの商隊だと挨拶をしてくれた男達がやって来て、宿から少し離れた辺りでだべり出した。
なるほどなるほどー。
「表に五人、裏に三人か」
「剣の腕はそこそこですかね」
「そのようだ。どこに招待してくれるのか、楽しみだね?」
「物凄く」
「ジャッハとリットは俺が捕縛するから、いちるは思うようにやっていいよ」
「ふふふ、それなら何の心配もしなくて大丈夫ですねっ」
魔法を使う上でヴィーの事を心配する必要はないと、実戦で良く理解してる。
黒騎士一番隊の奴らは私の魔法をひょいっと避けるけど、ヴィーは正面から受けてもまったく効かないんだよなあ。どんな仕組みなのか全く分からないけど、取り敢えず魔法はヴィーには効かないって事だけは理解してる。
なので、遠慮なく魔法をぶっ放せるって事なんですよ、ええ。
「この街最高ですねえ。周辺にはアルノが生息してて料理美味しいし、お楽しみがいっぱいなんてフルコースです」
「デザート付き?」
「しかも選べる感じです」
表通り、ジャッハさんのお仲間さんとは別っぽい男達がコソコソと隠れているのを発見したのでそれを教えれば、ヴィーの口角が持ち上がった。
建物の陰に隠れ、ジャッハさんのお仲間さんに見付からないようにしているようで、ちらちらと表通りを覗き込みつつ、この宿屋を見上げるのである。これまた楽しみ増えたなあ、なんて思いながら裏通りへと視線を移せば丁度リットさんが歩いて来る所だった。
「リットさんが来たようです」
「ああ、そのようだ」
そのままリットさんを追って視線を動かせば、リットさんは裏通りにいた三人の男達と何か短く会話を交わした後、ぐるりと回って表通りへと回り、そちらにいた五人組と会話をし。
「戻りますか」
「そうだね」
リットさんが宿へと足を向けたのを見て、ヴィーと二人、部屋の中へと戻ってリットさんが来るのを待った。アルグさんとも何か打ち合わせがあるのかなあと思っていたけど、それ程待つ事無く上がって来た足音を聞くに、アルグさんは戦闘要員ではないようだ。
控えめのノックが聞こえてリットさんの声が聞こえ。
「おはようございます、リットさん」
「おはようございます」
「今日はよろしく頼む」
「はい」
昨日すっかりヴィーに飲まれていたリットさんは、どうやら一歩引いてこちらを観察する術を覚えたらしい。学習能力が高いようだ。
「……楽しみです」
「そうだね」
フードを深く被りつつそう言えば、ヴィーも仮面のリボンを縛りながらにこりと笑って頷いた。何が楽しみなのかは、人それぞれだよねえ。
「行こうか」
「はい。下で朝食を摂ってから出ましょう。食べている間にジャッハも来ると思います」
「うん、そうだな」
そうして階段を降りて行けば、アルグさんが早速朝食を出してくれたんだけど。
「あの、リットから聞いていたので……、も、もしかして足りなかったでしょうか?」
「……ああ、いや充分だよ、ありがとう」
これでもかって量の朝食が準備されているなんて思ってもいなかったので、テーブルに用意された朝食を見て一瞬固まってしまった。
朝っぱらからこんなに用意してくれてたなんて、アルグさん良い人じゃないですか。
「ありがとうございます」
「あ、いえ。あの、良く眠れましたか?」
「はい、ぐっすりと」
「それは良かったです。どうぞ、今お茶を淹れて来ますから」
そう言ったアルグさんがカウンターの向こうへと姿を消したので、私達は遠慮なくテーブルに着いて朝食を頂く事にした。
「……朝から……」
ぼそりと呟いたリットさんの言葉を無視し、ヴィーと二人でさっさと食べ始めれば、リットさんもげんなりしつつも食べ始めた。
朝から美味しい物食べられるなんて、幸せだよねえ。
ヴィーと二人でこれも美味しい、あれも美味しいと言いながら食べていると、アルグさんがお茶を持って来てくれたのと同時ぐらいにジャッハさんが到着したらしい。
アルグさんが出迎え、ジャッハさんが食堂にやって来てテーブルの上の朝食を見て一瞬固まった後、「朝からよく食うな……」と言いながら同じテーブルに着いた。
「おはようございます、ジャッハさん」
「おう。なあ、これ全部食えんのか?」
「勿論ですっ」
「……ああ、そう……」
テーブルから視線を逸らしながらそう言ったジャッハさんは、アルグさんからお茶を貰ってそれを飲みつつ、私達が食べ終わるのを待っていてくれて。
「ふいー、まさか朝から満足するまで食べられるとは思わなかったです」
「そうだね」
そんな会話を聞いたジャッハさんとリットさんが、テーブルの上に重ねられていたお皿を見て再びげんなりした後、じゃあ行くかと立ち上がった。
「アルグさん、ご馳走様でした。美味しかったです」
「満足して頂けたようで何よりです」
「そんじゃ、行って来ます!」
「はい、行ってらっしゃい」
アルグさんの様子を見るに、どうやらアルグさんはリットさんに利用されてるって感じだろうか。
ジャッハさんの後ろを着いて行きながら観察してるんだけど、ジャッハさん、身のこなしが素人さんじゃないなあと思う。けど、兵士とか騎士とも違うんだよなあ。
つうかリットさん、後ろから観察し過ぎで笑える。
「ジャッハさん、これから行く所ってどんな所ですかね?」
「そうだな、あちこちから荷物が入るからお前らの地元の物があるかもしれないぜ?」
「へえ?それは楽しみです」
隣を歩いているヴィーを見上げながらそう言うと、ヴィーは仮面の奥で綺麗に笑ってた。
おっと、これは気合いを入れておかないとヤバそうですね。
「こう言った集まりは何度かあるのかな?」
「情報交換も兼ねてるからな。月に一度は集まってんだよ」
「へええ。やっぱり商隊を率いるって大変なんですねえ」
「まあなあ。時には商売敵と争う事もあるからな。だからみんな見た目はあれだが、気は良い奴らだぜ?」
「ジャッハさんのように?」
「ははは、まあな」
ふふふふふーと笑い合いながら、ジャッハさんの案内で歩き続けて行き、何やら大き目のお屋敷に辿り着いた。ぐるりと手入れされた庭に囲まれたそのお屋敷は、随分丁寧に手入れされているようで、やけに綺麗だ。
リドルの為の厩舎だろう建物や、商隊用の荷車を停めておく場所まであるのを横目で確認しつつ、門を潜って玄関へとやっと辿り着いた。
玄関ドアの前に立っていた厳つい男が、ジャッハさんに挨拶し、私達へと視線を動かす。
「俺の連れだ」
「…………いいでしょう」
少し目を細めて私達を見た厳つい男は、そう言った後玄関ドアを開けた。




