第二話 仲良くなる為には堪えなきゃいけない事がある
「な、なんだその格好はっ!お前達、名を名乗れっ!」
「ふっ。よくぞ聞いてくれましたっ!私達は故あって旅をしている二人組ですっ」
「その名も、仮面の貴公子とっ」
「黒の魔導士っ!」
「以降、よろしくお願い致します」
次の街ってのが大きいと聞いていた通り、どっかの城下町のように確かに大きくて、塀に囲まれた門にきちんと門兵がいるような所だった。お蔭で仮面の貴公子と黒の魔導士ルックは当然怪しまれて、こんな風に足止め喰らってるんですよ。
「……駄目でしたかね?」
「やっぱり決めポーズはこっちの方が良かったかな?」
「じゃあ私、今度はこうしてみます」
ヴィーと打ち合わせ通りに決めポーズを決めて門兵に向かってキラリと歯を光らせたってのに、更に怪しまれて今にも剣を抜かれそうなんですよねえ。
なので、敵意はありませんと示す為に、二人でああでもないこうでもないとポーズを変えていたら、どうやら門兵さん、わりとノリが良いらしい。
「いや、俺が言ってるのはそう言う事じゃなくてな」
「え、やっぱりこっちのポーズの方が良いですかね?」
「……怪しい奴のポーズならこうして含み笑いじゃねえの?」
「だから怪しくないんですってば。私達、食欲魔人ですからっ!」
「…………食欲?」
「はいっ!この街には美味しい物があるに違いないと思ってですね、この街に入りたいんですよ」
あのアルノが生息しているのだから、アルノの肉を使った料理があるに違いないと思うんです。
「是非とも食させて欲しいのですっ!」
「そうなんだよ。あるよね、美味しい物?」
「あ、ああ……、まあ、あるっちゃあるが……」
「うっ……、そりゃお兄さんは当たり前のように食しているでしょうけれど……」
「俺達……、あまり食に恵まれていない所から来て……」
「うう、羨ましいです……、美味しい物を当たり前みたいに食べてるなんて」
「仕方がないよ……、せめて、この門の近くで香りだけでも嗅がせて貰おう……」
「ですね……」
悲壮感たっぷりなそんな会話を聞かせ、そして騙されたお兄さんは私達を門の中へと入れてくれた。
「ついでに案内してくれるなんて、何て良い人なんでしょうっ!ね、リー?」
「そうだね、良い人だね」
「あー、いや……。だって、アンタらその格好、止める気ねえんだろう?」
「何故この格好を止めなきゃならないんです?」
「これは俺達の伝統衣装なのに」
「あ、いや……、わ、悪い。それがいけないって訳じゃなくて、だな」
門兵のお兄さんとやり取りを交わしている内に、どうやら交代の時間になったらしくて家に帰るついでだからと、美味しい物を出してくれる食堂へ案内してくれる事になった。
いつも食べてる所でいいのかと聞いて来るので、勿論ですと答えれば微妙な顔をしながらも私達をこうして案内してくれていた。
「ついでで悪いけど、宿屋も教えてくれるとありがたい」
「ああ。宿なら、俺の友人が営んでるからそこでいいか?」
「ありがたい」
こくりと頷いたヴィーに、お兄さんは再び凄く微妙な顔をした後、さて行こうかと促した。そこから少し歩いた所にあった食堂に入り、お兄さんのお薦めを頼み。
「賑わってますね」
門で換金してくれたので、一応懐事情は良い方だと思う。
まあ、旅にはあんまり大金が必要って訳じゃないから、ある程度貯まったら使ってんだけどさ。
「大抵、外で食事を済ませてから帰るからな。何処の食堂もこんなもんだ」
「へえ……」
女の人もいる事から、わりと治安は良い方なんだろうと思われた。
「ん?あれ、ジャッハさん!」
「おお、リット!お前もここで食、事……」
「あー、ええと、こっちの二人は旅人で」
「食欲魔人二人組ですっ」
「仮面の貴公子と」
「黒の魔導士っ!」
「………………だそうです」
お兄さんの知り合いらしいおじさんは、名乗りを上げてポーズを決めた私達をマジマジと見下ろした後、唐突に笑い出し、お兄さんの肩をバッシバッシと叩いた後、一緒に食べようと言って同じテーブルに誘ってくれた。
「いやあ、リットにしちゃあ珍しい友人を連れてんなあと思ったよ」
「リーと言います。こっちはいちる」
「俺はジャッハってんだ。この辺を周って商売してるんだ」
「ああ、じゃあ商隊を率いているんですか」
「そうだ。この辺の奴らが俺の商隊だな」
ジャッハさんの言葉に周りのテーブルの人達が手を挙げて挨拶をしてくれた。
同じように手を挙げて挨拶を交わし、ジャッハさんとリットさんのお薦めの食事を注文する。
「それにしても、あんたの髪の色、珍しいなあ」
「そのようですね」
「……切る予定はあるか?」
「え?」
「いや、その髪、売れる気がするからなあ」
そう言いながらヴィーの髪を手に取ってじいいいっと見つめるジャッハさんに、ヴィーが仮面の奥から睨み付けると、ジャッハさんはあっと言う間に顔を青褪めさせて悪かったと謝っていた。
「……アンタら、なにもんだ?」
リットさんがすいっと目を細めてこちらを睨み付けて来たけど。
「最初に言ったじゃないですか、食欲魔人だって。んじゃ、頂きますっ!」
丁度運ばれて来た食事に早速フォークを持って食べ始めれば、リットさんは仕方なさそうに自分の分を食べ始めた。
「美味しいですね?」
「そうだね、美味しいね?」
「リットさんのお蔭ですね」
「そうだね、ありがたいね」
まあ、リットさんが私達を案内してくれてるのは単なる親切心じゃないって事ぐらい理解しているつもりだ。食事に齧り付きながらヴィーとアイコンタクトを取り、宿屋に着いてから正体を現す事を決めた。
「肉料理でのお勧めはどれでしょうかね?」
「え、まだ食べるの?」
「当然ですっ」
「後五人前は行けるかな?」
「色んな料理を平らげたいですね!」
「そうだね。リットさん、良かったら教えて下さい」
「え……、本気で?」
そう言いつつも、肉料理ならこれとこれ、魚はこれが良い、スープはこっちなんて教えてくれる辺り、本当に良い人だと思う。
ジャッハさんとリットさんがげんなりした顔で私を見るようになった頃、やっと私の胃袋が満足して来た。
「はー……、幸せです、私。やっぱりこの街には美味しい物がたくさんあるみたいですね」
「そうだねえ。本当に美味しかったね?」
「はい。果物から作ったお酒も最高ですねえ」
「そうだね、これも美味しいねえ」
ヴィーは仮面を付けたまま、私は黒いフードを被ったままで食事をしているんだけど、結局ガツガツと平らげて行く私に、食堂の中の緊張感はとっくに解れてた。
「……よく食ったな?」
「本当ならもう少し食べたい所ですが、今は持ち合わせがあんまりないし、お酒も頂きたいのでこれくらいで止めておきます」
「もっと食えんのかよっ!?」
「ふふふふふふふ。だから言ったじゃないですか、食欲魔人だと」
「ああ、うん、確かにそうなんだが」
信じられない物を見るような目で見て来たリットさんとそんな会話をして、後は美味しいお酒を頂いて宿へ行くつもりだ。
「いちる、満足した?」
「しました。明日も堪能したいですねえ」
「そうだね、歩き回ってみるのもいいかもね」
「是非!」
「なあ、まだこの街にいるのか?」
「はい、その予定ですが」
うんざり顔のリットさんと一緒に立ち上がり掛けた私達に、ジャッハさんが話し掛けて来た。
「なら明日は俺に付き合わないか?」
「……えっと、折角お誘い頂いたのに残念ですが、私はこの仮面の貴公子と結婚しておりますので」
「おっと、期待させたならすまないが、そう言う色っぽい話じゃねえのさ」
「いや、そう真顔で返されると恥ずかしいんですが」
「お?あー、悪かったな」
いえ、別にいいんですけどね、なんて小さく返した。
ジャッハさんはワイルドなおっさんで、商隊を率いているだけあるのかやたらとゴツクて厳つい顔をしている。たぶん、一睨みでその辺の雑魚程度なら蹴散らすだろうと思う。
「実はな、この街で明日商談があんのさ。面白いから見に来ねえかと思ってな」
「商談……」
「ジャッハさん、そんな大切なもんに」
「リット、お前も来るだろ?」
ニヤリと笑いながらジャッハさんがそう言うと、リットさんがぐっと詰まり、ちらりと私達へと視線を投げた後、黙ってこくりと頷いた。
ふふふ、やっぱり見張りか、リットさん。
「おし、決まりだな。リット、宿はアルグの所なんだろ?」
「ええ、その予定です」
「なら朝迎えに行くからな」
「送迎までしてくれるなんて、ジャッハさんて親切さんですねえ」
「まあな。アンタら、面白そうだからな」
「おや、気に入って下さったようで嬉しいですよ」
「ははは、アンタらみたいなの、そうそういねえだろ?」
「地元にはいますがね」
「……へえ?アンタらの地元っての、いつか行ってみてえなあ?」
「是非来て下さいよ。その時は私達が案内しますからっ」
何となく握手をした手をぶんぶん振って別れ、リットさんの後をくっ付いて行って宿に案内して貰った。
「こりゃあ、また……」
「部屋は一つでいいのか?」
「勿論です」
「アルグ、空いてるだろ?」
「……あ、ああ」
リットさんの言葉にアルグさんが頷き、ゴソゴソとカウンターの下から鍵を取り出して渡してくれた。
「二階の、一番奥の部屋だ」
「どうも」
「あ、リットさん。良かったら部屋でこの街の事を教えて貰えませんか?」
鍵を受け取ったヴィーを見ながらリットさんを誘ってみれば、リットさんはこちらを窺うようにじっと見た後、こくりと頷いて見せた。
「美味しい食事処と、美味しいお菓子があるなら教えて欲しいんですよねえ」
「……菓子、か」
「ええ、お菓子です」
アルグさんに挨拶をした後、三人で階段を上がって部屋へと入り。
「……ええと。まずは私達の顔を明らかにしましょうかね?」
ヴィーを見上げながらそう言えば、ヴィーがこくりと頷き仮面のリボンを解いて顔を晒し、私もフードを降ろして顔を露わにした。リットさんはヴィーの顔を見て目を見開き、私の顔を見て更に目を見開いた。
いや、顔じゃなく髪の毛か。
「………………なるほどな」
「やっぱり驚きますか」
「まあ、な」
「……ちなみに、どっちの方が驚きます?」
「えっ!?え、あー、いや、その、」
途端に動揺し出したリットさんを椅子に座らせ、私はドアの前に陣取った。
「さて。話をしようか、リット」
リットさんの目の前に座ったヴィーが綺麗に微笑んで見せると、リットさんの身体が硬直したけどまあ、仲良くなる為の儀式って事で許して貰おうと思う。




