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第六話 愛だと思うんです

※二話同時にupしていますのでご注意ください

「もう、行っちゃうのね」

「……はい。他の国も見てみたいですからね」

「そう……」


 翌日、午後になって仮面が出来たと知らせを受けたので、早速受け取りにやって来た。

 装飾品の類が一切付いていないその仮面は、凝った模様が彫刻されていてヴィーに似合っていた。

 出会った記念にと、潤汁と勃った君をお姉さんに安めに売り渡し、食料と水を買い込んでさっさと王都を出立する。地図を描く都合上、本当なら周辺国を回る予定だったんだけど。


「たぶん、戦争になるから」


 悲しそうにそう言ったヴィーの言葉に従い、夜を待って空へと駆け上がり、そのまま数か国をすっ飛ばした。山あり谷ありの道中を駆けなくて済むのは便利でいいんだけど、如何せん、魔力が尽きるのが早い術なのでキツイんだよね。


「さて。空から見た感じでは何となく大陸中央に入った感じだったね?」

「ですねえ。わりとデッカイ大陸だった事に驚いてますよ、私」

「ははは、それは俺もだよ、いちる」

「ああ、そっか、そうですよねえ」


 そんな会話をしながら、何となく二足歩行の狸っぽい魔獣を捕まえたので、そいつを焼いている最中だ。山を三つ超えて来たので、随分魔獣の種類が違って来てる。


「……短毛、模様無しで色は深緑、か。見た目は不味そう」

「ふふ、いちるはそう言いながら食べるよね?」

「そりゃ食えるかどうかは重要ですからね」


 そう返せばヴィーが苦笑しながら、剥いだ魔獣の皮を魔法で燃やした。


「……火の色は変わらないね」

「緑色の炎が出たら面白かったのに」


 大きさは私の膝より少し上ぐらいで、前脚が凄く短くて、後ろ足がやけに発達してた。顔が横長で目が大きいから狸っぽいと思ったけど、やっぱ色がなあ。


「森の中にしか生息していないのかもしれないね」

「ああ、そっか。だから深緑色なのか」

「たぶんね。そして、木の上には天敵がいるって所かな?」

「でしょうね。登る必要が無い進化の仕方ですからね」


 そんな事を話しながら、ヴィーはこの魔獣の特徴と推測した事を書いて行く。

 いい加減、ヴィーの書き付けやら私の書き付けやらが増えて来たなあと、荷物を見ながら苦笑してしまった。


「どうした?」

「いやあ、この書き付けだけでも凄い量だなあって。帰ってから整理するの大変ですね、これ?」

「勿論、一緒にやってくれるんだよね?」

「ええと、帰ったら私、大怪我する予定なので」

「じゃあその前に頼むよ」

「えー、やっぱり大怪我するの前提ですか」

「まあ、一番隊から逃げ切ったからねえ。待ち構えてるだろうなあってね」

「ですよねー、だと思いましたー」


 笑い合いながら焼けたお肉に噛り付き、やっとお腹を満たす事が出来た。


「……この国は、どんな国ですかねえ?」

「美味しい物がたくさんある国だといいね」

「ですよねえっ!そろそろリュクレースを超える物を食べたいですっ!」


 そんな話しをして笑い合いながら、森の中で何日か過ごしつつ、近くの村や町までちょこっと出ては路銀を稼いでた。相変わらず黒髪がいないので、変に目立ってしまう為、こんな風に様子見をしなきゃいけないのが面倒だけど。


「逆に目立ってしまおうか?」

「え?」

「ほら、いちるが言ってただろう?仮面の貴公子と黒の魔導士って」


 ヴィーの言葉に逡巡し、ああ、そう言えばそんな事を言ったなあなんて思い出し。


「……本気ですか?」

「いいんじゃないかな?どうしたって衆目を集めるのなら、派手に集めてしまえば逆に目立たずに済むと思うけど?」

「で、でもそれだとヴィーが今以上に目立ちますけど」

「そうだね。けど、いちるの黒髪は隠せるだろう?」

「それはそうですけど、それじゃ本末転倒ですよ。私が隠したいのはヴィーですからね」

「俺が隠したいのはいちるなんだけどね?」


 ………………ん?


「え?私?え、なんで?」

「いちるが目立つと俺が困るって事」

「……ああ!黒髪って事からもしかしたらリュクレースまで辿り着くかもとか?」

「その理由は髪の毛一本分ぐらいかな?」


 ん?


「いちるが目立ってこれ以上ファンが増えるのは困る」

「………………ファン?」

「ああ。リュクレースでのあのモテっぷり、自覚無しか?」


 モ、モテ……?


「いや、あれは都合良く使われてるだけって言うか」

「全く、老若男女を誑し込んでて良く言う」

「……で、でもそれ言ったらヴィーの方がすげえじゃないですか」

「それはね、いちるの夫だからだよ。いつだっていちるの添え物だからね」

「いやいや……、いやいやいや」


 そりゃ確かに何処に行っても『いちる』と呼ばれて声を掛けられるし、黒髪のお蔭でリュクレースじゃ私の事を知らない人はいないって言われてたけどさ。

 やらかした事がやらかした事だから、威張れるもんじゃないって事はちゃんと自覚してるし。それに、黒騎士だからそれも含めて厄介事を押し付けられてるだけだと思う。


「俺が何人潰して来たか、教えてやろうか?」

「……えー?いや、それ、ヴィーの勘違いじゃないですかね?」

「そう思う?」

「勿論ですよ。だって、私、そう言う色っぽい誘いは一度も無かったですからね」

「それを俺が許すと思う?」


 あー、そりゃ絶対無理って言うか。

 いや、けど、ええ?


「……私、女の子扱いされた事さえ無いんですけど」


 いつだって黒騎士のいちるとして利用されてたって言うか、利用させて貰ってたって言うか。うん、確実に女の子扱いじゃなかったよ、あれは。


「シュクト子爵を覚えているか?」

「ええ、まあ貴族は一応顔と名前を一致させてます」


 黒騎士として必要な事だったから必死に覚えたよね。

 

「アトレイ伯は?」

「えっと、やたらと気障な人ですよね?」

「ルオイ伯」

「気配を絶つのが巧い人です」

「オバエ男爵」

「ギトギトした感じの人」

「ビバル子爵」

「ひょろっと病弱?」


 ヴィーが出す名前に自分の記憶の中の人物を一致させて答えて行けば、何故かやたらと上機嫌になって来た。何だって言うんだ、本当に。


「そうか、いちるはそう言う認識だったか」

「はい。あの、間違ってましたか?」

「いや、合ってる。そうか、いや、何でもない」


 上機嫌に笑うヴィーに、頭の中が疑問符で埋め尽くされたけどまあいい。

 

「……じゃあ、ライドン伯爵は?」

「あの人は美味しい物たくさん知ってる人ですね。美味しい物たくさん教えて貰いました」

「ふうん……」

「そういやあの人、随分太りましたよねえ。あれきっと食べ過ぎですよね」


 初めて会った頃は確か、随分格好良い人だなあと思ったんだよね。

 何て言うか、顔の大きさと身体の大きさが一致してるっていうかさ。スタイルが良かったのに勿体無い。


「…………ちょっと、反省する」

「え?」

「いや。少し哀れに思えただけだ」

「ああ、そうですよねえ。折角スタイル良かったのに勿体無いですよね」

「……そうだね」


 そして、何故かガックリと肩を落として溜息を吐いたヴィーに、更に頭の中を疑問符が埋め尽くしたけど。

 何も言わなかったのはその方が良さそうだと判断したからだ。


「おやすみ、いちる」

「おやすみなさい、ヴィー」


 良く解らないながら、焚火の傍でごろりと横になったヴィーにくっ付いて眠りに付いた。

 

 リュクレースと比べると、随分温かい気候になって来ている。

 この世界にも太陽があるんだから、たぶん赤道もあるんだろうと思うんだよね。

 って事は、そろそろ黒髪がいても良さそうなもんなんだけどなあ。


 これが中々見付からないんだよねえ。

 

 髪の色は金髪がいなくなって、茶色に変わって来てるし。肌の色だってヴィーの白さは格別で、随分濃くなって来てるのに。

 やっぱり、地球とは違うって事なんだろうなあ。


 そういや目の色も濃くなって来てるんだよね。

 青目はいなかったけど、緑色はいたなあ。一番多いのは淡い茶色だ。

 もう少し南に行けば、黒髪黒目もいるかもしれないなあ。


「……何考えてるの?」

「うお。何ですか、何でわかったんですか」

「ここに、皺が寄ってるから」


 眉間に軽く指を当てられ、何となく自分でも眉間を撫でてしまった。


「……黒髪黒目がいるかもしれないなあって思ってました」

「ああ、そうか、そうだね。そうしたら俺の方が目立ってしまうね」

「ですね。黒髪の中に金髪は目立つでしょうねえ」


 しかもこの顔だしなあ。

 どうやらこの大陸の美的感覚と私の美的感覚は同じらしいし?


「……モテまくるヴィーか。何処行っても変わらないですね?」

「そうとは限らないじゃないか」

「その可能性はゼロですよ、きっと。ああ、私には見える、女に囲まれているヴィーがっ」

「……それはいちるの想像だろう」

「予言です」


 そう言い返すとぶはっと吹き出して笑い出した。


「予言か。なるほど、それは面白いね」

「面白くないですよ。まったく、何処に行っても女に囲まれるってどうなんです?」

「うんざりするよね、本当に」

「…………鼻の下伸ばしてたら殴ります」

「ああ、それは無いよ、断言する」

「そうですかねえ?」

「そうだよ。だって俺の好みは特殊だからね」


 そう言って笑いながら私の頭を撫でるヴィーをじいいいっと睨み付け。


「ん?特殊ってどういう意味ですかね?」


 もう一度声を上げて笑い出したヴィーにつられ、私も笑い出す。

 いつだってこうして笑い合って生きて行きたい。


「……おっぱいが大きかったら紹介して下さいね?」


 旅の途中、豊かな胸を持つ人達に出会う度、好きな食べ物とか何かマッサージをしているのかとか、胸が大きくなる方法を聞きまくって来た。

 まあ、どれも無駄だったんですがね。


「いちる」

「はい」

「そのままは嫌なの?」

「嫌です。無駄な努力は続けてこそ意味があるんですっ!」


 拳を握りながらそう断言すれば、ヴィーは思いっきり笑った後私を抱き締めた。


第二章 終

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