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第五話 初めて聞いた声

「……アタシに逢いに来てくれたんですよねええええっ!!!」


 酒場の扉を潜った途端に中にいた人達の視線を一斉に浴びたと思ったら、その叫び声と共に女の子が飛び出して来てヴィーに抱き付こうとしてさっと躱され。女の子そのまま店を飛び出ちゃったんだけど、もしかしてあの子、宿に突撃した子じゃないかな?


「あの、」

「放っておけ」

「……へいへい」


 慌てて女の子を追った男が二人出て行き、私達は店中の剣呑な視線を浴びながらカウンターに腰を下ろした。


「お勧めの食い物と酒を」


 カウンターの向こうのおっさんは、無言のまま頷いて木のコップを出しながら瓶から酒を注ぎ始めた。私達の前にその木のコップが置かれたのと同時、酒場の扉が開いてさっきの女の子を抱えた男が戻って来る。

 そのまま私達の方へと歩いて来て、ピタリと足を止めた。


「……兄さん、女の子相手に酷くねえか?」

「勝手に転んだのを俺のせいにしないで欲しいな?」

「受け止めてやるのが男の務めだろう」

「生憎、俺が受け止めるのは一人だけだからね」


 肩を抱き寄せられ、思わずぶほっと酒を吹き出した私に、店内中の視線が集まった気がする。まあ、ざっと見た感じ、女の子の怪我は大した事が無さそうだしなあ。


「…………いや、いいんですよ別に。コイツが?とか、このレベルで?みたいな顔で注目浴びるのは慣れてますからね。でもやっぱりムカつく事はムカつくんですがね?」

「あ……、いや、悪い……」

「顔を逸らしながら謝られると余計惨めなんですがねえっ!?」


 カウンターをバシバシと叩きながらそう言えば、女の子を抱えた男が気まずげな顔をしながらもう一度謝って来た。


「……怪我は?」

「手の平と、膝を怪我したらしい」

「じゃあ医者に連れてってあげてよ。後、酒飲ませ過ぎだろ」

「……昼間、アンタに振られたのがよっぽど悔しかったみたいでな。そん時からずっと飲んでんだよ」

「おっと、それも俺のせいにするつもりかな?」


 バチバチッと火花が散るような睨み合いをした男達に、これは楽しい事になるかなあと思いながら酒を煽れば、店の奥から声が掛けられた。


「いい加減にしな、バウィット」

「っ!!」

「そっちの兄さん、悪かったね」

「いや……」

「詫び代わりに酒を奢るから、一緒に飲まないかい?」

「飲みます」


 ヴィーが答えるより早く私が返事をすれば、ヴィーは肩を竦めて苦笑し。

 どうやら眠り込んでしまった女の子を抱えた男達は、店の奥へ頭を下げた後出て行った。


「こんばんは。私はいちると言います。こっちはリー」

「アタシはハッチェ。騒がせて悪かったね」


 同じテーブルに着いてた男達が席を開けてくれたので、遠慮なく腰を下ろした。

 ハッチェさんはどうやら、姐御らしい。


「ふうん……、確かに良い男だね。アタシと寝てみるかい?」

「遠慮しておきますよ」

「へえ。アンタ、愛されてんだねえ」

「まあねっ!」


 ハッチェさん、すんげえ派手系の美人で、豊かなおっぱいの持ち主だ。凄く、すごおく羨ましいぜ、ちくしょうめ。


「……慎ましやかな方が好きなのか?」

「私はハッチェさんの胸に一目惚れしましたけどね?」


 何て言うか、凄く触ってみたい。


「どっちでもいいよ、いちるなら」


 クツリと笑って答えたヴィーに、ハッチェさんが口を開けてじっと見つめた後、ニヤリと笑いながら私へと視線を向けた。


「すごい惚れられようだね?」

「そりゃ魅力的ですからね、私」


 にっと笑いながら答えれば、ハッチェさんは間抜けな顔をして私を見つめた後、ぷっと吹き出してからお腹を抱えて笑い出した。


「いいね、いいよ、あんた達!」


 そう言いながら散々笑った後、良い気分だと言って次々に酒を飲み始め、その内飲み比べが始まり、店内中を巻き込んで大騒ぎになり。

 全員がテーブルに突っ伏した所で、ハッチェさんにちょっと突っ込んだ話を聞いてみた。


 へべれけになって呂律が回ってないから、聞き出すのに苦労したけど。


 この国では、女の子が生まれにくくなって来ているらしい。

 なので、女の子が大切にされ、子供を産めるようになった途端に子を産むのが当然だそうだ。増えすぎた男の子は、小さな内に周辺国へ売られるらしく、それがこの国の財源にもなっているとか。


「……最低な話でしたね」

「まあ、そうなんだけどね」

「国策としては間違ってないって言いたいんでしょ?」

「…………まあね」


 思わず溜息を吐きながらコップを握り締め、残っていた酒を一気に飲み干した。


「それでも、女の子が産まれなくなったらどうするんでしょうね?」

「いちる。怒りが収められないなら直ぐにこの国を出るよ?」

「………………解ってますよ」


 ガンッと音を立ててテーブルにコップを叩き付け、立ち上がってカウンターへと行く。


「おっちゃん、お代わり」

「……おい、まだ飲む気か?」

「飲むよ。あ、金の心配かな?」

「……まあ、それもある」

「じゃあ今までの飲み代払うよ」


 やれやれって感じで隣に腰を下ろしたヴィーが、革袋から金貨を取り出して支払いを済ませた後、もう一杯だけってお願いして酒を出して貰った。


「……おっちゃんは、子供作ったの?」

「まあな」

「ふうん」


 ゴクリと音を立てて嚥下すれば、今までのより強い酒で喉が熱い。


「……アンタら、旅してんだろ?」

「まあね」

「悪い事は言わねえ、早くこの国出た方が良いぞ」

「……だろうね」


 はっきり言って末期に入りつつある国だって事だけは理解した。

 

「子供を産むと言う国策を取るようになったのは、いつ頃かな?」

「さあな。俺が産まれた時には既にそう決まってた。俺は偶々この国に残って子を残す事も出来たが……」


 おっちゃんはそう言って溜息を吐いた後、この酒は奢りだと言ってコップに注ぎ足してくれた。そのまま無言で酒を飲み、ハッチェさんを放って行っても大丈夫なのかと問えば、その内男達が起きて運ぶから大丈夫だと聞き。


「ご馳走さんでした」

「ああ」


 店から出れば既に暗闇に包まれていた街中を、ヴィーと二人で宿まで歩く。

 解っている。

 周辺国に男の子が売れるのは、長生きしてないからだって事ぐらい。


「……仮面、いつ出来上がりますかね?」

「急いで貰おうか」

「そうしましょう。胸糞悪過ぎて、殴り飛ばしたくて仕方がないんですよ」

「じゃあ、殴っておく?」

「は?」

「相手になるよ?」


 ジッと真剣な顔で見下ろされ、私も真剣な顔で見詰め返し。


「……お願いします」

「うん。じゃあ、行こうか」


 そうして、王都を出てすぐにあった平原で、殴り合いの試合を始める。

 怒りに身を任せて思い切り拳を振っても、一発も当たりゃしないって言うね。

 まあ、最初から解ってたけどやっぱりムカつく。


「避けんなっ!」

「当たったら痛いじゃないか」

「男なら我慢しろよちくしょうっ!」

「やだよ。いちるが傷付くからね」


 勢いを付けて殴り掛かったはずの拳は、ぽすっと力なくヴィーの手の中に吸い込まれた。

 そのまま抱き込まれ、子供をあやすように背中を撫でられる。


「……いちる。どうする事も出来ないよ」


 優しく諭すようにそう言うヴィーの言葉が耳に突き刺さる。


「解って、ます」

「あんな話、聞かせたくなかったよ」


 ぎゅっと抱き締められた腕の中、この国の未来に幸多かれと願う。

 解ってる、私はスーパーヒーローでも何でもないって事ぐらい。


「……いちるには、こう言う汚い所を見せたくないし、聞かせたくないと願ってるんだけど。飛び出して行ってしまうからね」


 そう言いながら私の頭を撫でるヴィーの手は、相変わらず温かかった。


「……はっ!私を閉じ込めようなんて百万年早いんですよっ!」


 ヴィーの胸元から睨み上げつつ気勢を上げれば、ヴィーがふっと笑う。

 相変わらず綺麗なその微笑みに、私も思わず笑ってしまった。


「そうだねえ、何故か無理矢理こじ開けてしまうからね」

「ははは、鍛え上げたのは自分でしょう?」

「ああ……、そうだね、その通りだ。でも、違う方向に育ったのは何故だろうね?」

「おかしいなあ?ヴィーの思惑通りに育ったつもりなんですがね?」


 互いに含み笑いをしながら見つめ合った後、どちらともなくぷっと吹き出して笑い合った。笑いながら抱き合い、そうして見つめ合う。


「愛しているよ、いちる」

「……私も、愛してますよ、ヴィー」


 出会ってから既に百年とちょっと。

 その間、本当に色んな事があったけど。

 それでも。


「ヴィー。これからも、変わらぬ愛を捧げます」

「……いちる」

「苦しい時こそ、共に歩ませて下さい」


 ぎゅうううっと抱き込まれた腕の中は、私が私でいられる唯一の場所だ。

 最初からヴィーは、そうして私の居場所を作ってくれた。


「いちる、ありがとう……」


 ほんの少し、涙声になったヴィーの声を、初めて聞いた気がする。

 だから、背中に回していた手でそっと撫で続けた。


 ずっと、ヴィーの背中を追い続けて来た。


 背負い込んでいる物の大きさに圧倒されながら、少しでも力になりたくて。

 胸を張って隣に並び立ちたくて。


「「 愛してる 」」


 重なった声と唇は、随分長い事くっ付いたままだった。


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