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第三話 女装、見たかったです

「おー、割りと華やかですねえ」

「そうだね。少し驚いた」


 城門の警備を掻い潜る為に、夜になってから忍び込み、朝になってから行動を開始したんだけど。朝から王都の大通りは賑やかに人が行き交ってた。


「すげえな。リュクレース並って感じですかね?」

「そうだね……」


 考え込んだヴィーを軽く首を傾げて見上げた後、取り敢えず美味そうな匂いをさせている店を探してた。考え込んでるヴィーをそのままに、何かの串焼きの露店に行って、そこのおばちゃんに聞いてみる事にしつつ。


「おばちゃん、串焼き五つ頂戴!」

「はいよ!」

「ってか、何の串焼き?」

「……知らないで買おうと思ったのかい、アンタ」

「ははは、まあねえ」


 なんて、おばちゃんと串焼きの話しをしながらお勧めの定食屋とか宿屋の情報を聞き出して振り返ってみれば、ヴィーが女の子達に囲まれてた。おっと、相変わらずモテモテですねえ、本当に。


「そうなんだ、それはありがとう」

「いいんですっ、あの、それで」

「ああ、連れが来たようだ。失礼します」


 え、そこで終っちゃうとか。私すげえ睨まれてんですけど。


「いちる。何でいなくなるかな」

「いや、考え事してたから」

「声を掛けてくれてもいいだろう?」

「いやだって、直ぐそこの露店にいたんですよ?」


 そう言いながら露店を指せば、はあ、と溜息を吐き出した。

 

「どうぞ。ラクウって言う魔獣の肉だそうです」


 串焼きを一本出しながらそう言って渡せば、眉間に皺を寄せながらも受け取って噛り付く。まだ睨んでいるお嬢さん方をそのままに、おばちゃんから聞いた定食屋の話しと宿屋の話しをしながら歩いてたんだけど。


「着いて来てますけど」

「……なんでだろう」

「ええと、『あの女なら私勝てる!』状態かと」


 うん、あの眼はそう言う眼だ。狙いを定めた肉食獣の眼だ。


「なんでそうお構いなしなんだ」

「いいじゃないですか、可愛くて」


 おばちゃんがお勧めしてくれた定食屋を見付けてから、宿屋を見付け。


「二人部屋一つ。朝食五人前で」

「え?」

「えっと、朝食は五人前で計算して欲しいんです」

「え?後から誰か来るのかい?」

「いえ、泊まるのは二人なんですけど、食事は五人分欲しいんです」

「……でも、家は他と比べて量が多いんだよ?」

「大丈夫ですっ、残したりしませんから!」


 この辺では商人が行き交うので大体大きな街には宿屋がある。

 で、朝食をこうして頼むんだけど、いつもこのやり取りって言うか、まあ、仕方がないんだろうけど。

 訝る宿屋のご主人にお願いして、部屋の鍵を貰って部屋に入り。


「……すげえ、まだいる」

「しつこいなあ」

「一緒に酒飲んでみたら分かり合えたり」

「しない」


 はあ、と溜息を吐き出すヴィーにクスクスと笑った後、着替えだけが入ったバッグを置いて外に出る。


「さて。お勧めの定食は美味しいといいなっ」

「いちる、離れるなよ?」

「はいはい、大丈夫ですって」

「俺から離れたらあの女達の命の保証はないからな?」

「はいはい」


 ここに来るまでもあちこちで狙われたヴィーは、とことんうんざりしきってた。まあ、若い内ならあれだったかもだけど、今ってほら、百超えてるからね。

 その間ずっとこう言うお嬢さん方に狙われ続ける人生送ってれば、こうなるって言う見本みたいな感じですかね?


「いっその事お面でも被ってみます?」

「……そうしようかなあ」

「え、本気ですか?じゃあ街中にいる時だけ付けてみます?」

「そうだね。何かあればいいんだけど」

「任せて下さい。いいもの選んで」

「いや、自分で選ぶからいいよ」


 ちっ。

 

「売ってるかな?」

「さあ?ああ言うのって特殊でしょうからね」

「そうだね」


 そんな話しをしながら定食屋に入り、お勧め定食を頼んだ後、店の女の子にお勧めを聞いてみると、魚料理をお勧めされたのでそれもお願いし。

 ヴィーを見て頬を赤らめながらカウンターへと駆けて行く女の子を見送り。


「何て言うか、初々しい反応ばっかりで懐かしいって言うか」


 リュクレースではもう見られない反応ばっかりで、懐かし過ぎて逆に新鮮だった。

 割りと楽しい。


「俺は懐かし過ぎてうんざりしてるよ」

「まあまあ。けどまあ、いいんじゃないですかね?ここではヴィーも一般人ですし」

「……そうだね」

「はい」


 一般人だからこそ、出来る事もある訳で。

 定食屋の中まで入って来たお嬢さん方に敬意を示しつつ、五人前を平らげる私に、見せ付けるように『はい、あーん』を繰り返し、時にハンカチで口元を拭うヴィーに苦笑しつつ。激甘な顔で微笑んで見せるヴィーを、本当に久し振りだと思いながら眺め。


「いやあ、食べた食べた。美味しかったですね、あの魚料理」

「そうだね」


 通りに出てお面の店を見付けながら歩き、偶に露店で果物を買って食べまくり。


「全部が魔力に変換されるのか。それも凄いな」

「そうなんですかね?自分じゃ良く解ってないんですけど」


 全く膨れないお腹を二人で見ながらそんな会話をし。


「あ。何かそれっぽいの発見しました」

「ん?」


 怪しげな店って感じの外観だけど、どうやら怪しげな下着類を扱っている店っぽくて。


「やっぱお面は特殊ですよねえ」

「……そうだね」


 ニヤニヤしながらそう言ってその店に入った。

 セクシーランジェリーが並んだ店は、すげえ綺麗で美人さんな店員さんがいた。


「いらっしゃい」

「うおおお、綺麗!え、握手して下さいっ!」

「ふふふ、いいわよ?」


 そう言って握手してくれたその手はごつごつしてた。

 おっと、やっぱ色々あんだなあ。


「あの、所で相談なんですが」

「なにかしら?」

「お面って売ってます?」

「あるわよ?」


 ショウウインドウから見えたあの変なマスクがそうなのかと思ったけど、あれはまた別次元のマスクらしい。店の一角へと案内された私達はそこで、凄いお面達と向き合った。


「おおおおおおお。何か、やっぱすげえなあ」

「色々と凝ってみるのが好きでねえ」

「え、もしかしてお姉さんが作ってるんですか?」

「そうよ?良かったらデザインしてみる?」


 そう言われヴィーへ顔を向けると、ヴィーが皺を寄せていた眉間から少しだけ力を抜いてこくりと頷いた。


「飾りは無くていいんだ。ただ、顔の上半分を隠せるような物が欲しい」

「ああ、なるほど。どうやら苦労しているみたいね?」

「まあね」

「ね、あんた達ってこの国の人じゃないでしょ?」

「はい、旅人です」

「じゃあこの国では気を付けるのね」

「それは一体どういう意味で?」

「女が男を選ぶ国なの」

「……えっと、一妻多夫制、とか?」

「それは女王なのと何か関係が?」


 ヴィーの言葉に、そういやこの国は女王様が治めてるって話しを思い出した。

 珍しいなあと思いながら聞いたんだよね。


「気に入った男は奪い取ってもいいのよ」

「そりゃ本能に忠実で面白そうですね?」

「そうなの。だから、この国では貴方みたいな方にはお面より女装をお勧めするわ?」


 そう言ってウインクしたお姉さんをマジマジと眺め。


「……やっぱりお兄さんでしたか」

「まあね。良かったら色々教えてあげるわよ?」

「そりゃ助かりますっ!」

「いちる」

「いいじゃないですか、女装!絶対似合いますって!」

「お面でいい」

「この国にいる間だけでも!」

「お面が良い」


 そう言い張るヴィーに、仕方なくお面を作って貰う事にして。


「それはそれとして、ちょっと伺いたいんですけど」

「なに?」

「花街の姐さん達と接点ありますか?」

「……まあ、こんな商売だからね?」

「うし。実は良い物がありまして」


 そしてポケットから出した潤汁をカウンターに乗せる。


「掌にこれくらい出して股間に塗って欲しいとお伝え下さい」

「……安全なの?」

「効果は抜群、後遺症無しです。けど、信用できないなら使わなくていいですから」

「売り込みたいんじゃないの?」

「そうですけど。でも無理にじゃないんで」

「……ふうん?まあ、話しだけはしてあげる」

「ありがとうございます。お面が出来るまでは『ドレルの宿屋』にいますんで」

「わかったわ。けど、明日もこの店に来てくれる?」

「わかりました」


 そうして売り込んでいる間にヴィーがお面のデザインを書き上げ、ヴィーのサイズを計った後店を後にした。おっと、まだいるぜ。


「獲物を狙う肉食獣は、絶対に獲物から目を離さないんですよねえ」

「俺が餌か」

「まあ、悪目立ちしてますし」


 そうして溜息を吐いたヴィーを更に落ち込ませてあげた。


「お面被ったらもっと悪目立ちしますね!」


 親指を立ててすっごい良い笑顔を作ってそう言ってやれば、べしっと頭を叩かれ。

 盛大な溜息を吐いてくれた。


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