第二話 年寄りの言う事は聞いとくもんだ
通りをふら付きながらお菓子を買いこんで食べてみては、何か少し物足りないと言いつつ、中々『美味い!』と言える食事やお菓子を発見できない事が残念でならない。
「あれですよ、リュクレースは食事事情も良かったですよね」
「そうだね。これも出て見ないと解らない事だね」
「本当ですよね」
そうして昨日の酒場に入り、適当に食事をしながら酒を飲んでいると昨日のおっちゃんがやって来た。そのまま同じテーブルに付き、真剣な顔を向けて来る。
「あれ、失敗した?」
「いや、違う。あれな、すげえ効果あった」
「おー、それは良かった。夫婦円満だな」
「ああ、本当だぜ。お蔭で今日一日中女房の機嫌が良い」
「いいねえ」
「でな、相談なんだが」
「一本銀三枚。それ以下にはならねえし、以下で売る気はねえよ?」
そう言うと、おっちゃんが目を剥いて私を凝視して来る。
「おい……、あんなにすげえ効果なのに、そんだけでいいのか?」
「勿論。実は訳ありで早いとこ金に換えたいのさ」
「よし、買った。五本くれ」
「毎度!」
こそこそとそんなやり取りを交わし、おっちゃんが期待通りに酒を奢ってくれる。
「いやあ、本当に良いもん貰ったわ」
「張り切り過ぎんなよ?」
「おうよ」
うふふー。
まとめ買いを想定して安くしておいて良かった。
「つうかオメエ、こっちの色男と何かあったのか?」
「ん?」
「攫って逃げてんじゃねえだろうな?」
「んな訳ねえだろ。夫婦だよ」
再び目を剥いたおっちゃんの肩をどつき、お詫びの印にもう一杯酒と肴を奢ってもらう。
「悪かった、訳ありって言うからよ」
「だからってなんで攫ったになるんだよ」
「いや、なんか旦那がやたらと綺麗だからな」
おっちゃんのその言葉に、やっぱりヴィーの綺麗さってのは他国でも通じるのかと思うと、すげえ羨ましくなるわ。
「まあでも、綺麗だからって油断してると痛い目見るけどな」
「ああ、腕は立ちそうだからな」
「……へえ?見てわかんの?」
「そりゃな。俺は魔獣狩りを専門としてるからな」
「専門?」
「おうよ。ここら一帯で仕事してるんだぜ?」
へえ、そんな仕事があるのかと思いながらヴィーを見れば、ヴィーもおっちゃんの話しに耳を傾けてた。
「魔獣が出たら狩りに出るのかな?それとも、その前に?」
「この近辺で襲われたって話しや見掛けたって聞いてから出る。まあ、街ってのは人の出入りがあるから、魔獣もわかってて来るからな」
「なるほど……」
「毎日街の周りを回って警戒はしてるんだが、やっぱり襲われるな」
「確かに、そこが難しい問題ですね」
「ああ。襲われる前に何とか出来りゃ一番だがな」
やっぱり魔獣の発生を予測する事は無理か。
だよなあ、それが出来れば一番良いんだよなあ。
「さて。そろそろ行くわ」
「ははは、奥さんと仲良くなー」
「おう!」
軽く片手を上げて店を出て行くおっちゃんを見送り、後の二人を待っていたら、客を連れて来てくれた。へへへ、ありがたいこって。
「よお」
そう言いながら腰を下ろしたおっちゃんと、お仲間さん達は作ったみるみる勃った君を全部お買い上げして下さった。
「いやー、良い人達!」
肩を組んで酒を飲み、大いに盛り上がってご馳走になり。
そして明け方、さっさと街から出た。
「どうして逃げるように出るか聞いてもいいかな?」
「やだなあ、途中の街道で襲われるからですよ」
「……確定事項?」
「勿論!酒場でおっちゃんらの影でコソコソ動いてたコズルそうな男、見ませんでした?」
「うん、いたね?」
「ソイツ、絶対途中で待っててくれます!」
「……なら、別の道を行った方がいいんじゃないかな?」
「何言っちゃってんですか!稼ぎ時ですよ、ヴィー。キリキリ働いて下さいね?」
「…………うん、いちるはそうだったね」
酒場で次は王都に行くって宣言したし、王都に行くにはこの道を通るって事もちゃんと聞いておいたし。ふふふふふ、こんなチャンス逃して堪るかってんですよ。
「あ、ヴィー、おやつ食べます?」
ワクワクしながらリドルに跨り、そうしてのんびりと街道を移動して行く。
「よお。随分荒稼ぎしたじゃねえか」
「来たあああああああああっ!おせえぞこの野郎っ!」
おやつ代わりの干し肉を咥えながらそう言うと、おっちゃんらが変な顔をしながら顔を見合わせてた。人数は集めたみたいで二十五人。
「一つ聞いていい?おっちゃんらの中に賞金首はいる?」
「…………賞金首?」
「なんだ、小物か」
あからさまにガッカリした私に、ヴィーがクスクスと笑ってた。
「テ、テメエら、俺達はなあっ」
「そういうのどうでもいい。じゃ、始めようか」
「な、なにっ!?お前、俺達が怖くねえのかっ!」
「怖い?なんで?」
干し肉が硬いだけであんまししょっぱくないなあと思いながら聞いてみれば、おっちゃんらがまた顔を見合わせてる。なるほど、取り敢えず人数だけ集めてみましたってだけか。
「なあおっちゃん。悪い事は言わねえ、荒事に慣れてねえなら有り金全部置いてきな」
「……こっちが追い剥ぎか」
「失礼な。金で解決してやるって言ってるだけですよ」
やれやれって感じで呟いたヴィーに反論し、にやっと笑いながらおっちゃん達を見下ろしてた。何か、頑張ってんなあ。
「戦った方がわかりやすいのならそうするけど?」
顔を見合わせたおっちゃん達は、それぞれに持ってる武器を構えてこっちを睨み上げて来たので、ついニヤリと笑ってしまう。
「いいねえ。じゃ、やっとくか」
この間拾っておいた木の棒を取り出してそれに魔力を載せ、リドルから降りる。
「ヴィーも」
「はいはい」
そうして二人で木の棒を構えると、おっちゃん達がニヤニヤし始めた。
ふふふ、こういう奴ら大好き。
「何だか、凄く罪悪感に苛まされるんだよね」
「それは考え方を変えればいいんですよ。事前に悪を滅ぼせるなんてお助けヒーローより凄いですからね」
「……そうかなあ?」
「そうですよ。それに、おっちゃんらだってこれを機に真面目になるでしょうし」
「ああ……、そうだろうねえ……」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえっ!」
振りかぶって振り下ろされたそれは草刈り鎌。農民が無理しちゃいましたーって感じが痛々しいんだよなあ。
ひょいっと避けて鎌を持ってる右手を叩けば「いってえええええっ」なんて叫んで転がっちゃうし。やる気が削がれちゃうよねえ。
「……おい、お前」
「ひっ」
「そう、お前だよ。おっちゃんら唆したのはテメエだろうが。テメエが来いや」
「わ、私は、そんなっ」
「テメエが昨夜酒場にいるのは見てたんだよ。金になるとでも言ったんだろう?」
「ち、ち、」
「出て来いっつってんだよっ!」
こう言う裏でコソコソする事しか出来ねえ奴が大嫌いだ。
大概碌でもねえ奴なんだよなあ。
「やるならテメエが先頭切ってやれや。私はテメエみたいなのが一番嫌いなんだよっ!」
魔力縄で縛りあげて先頭に引き摺り出し、思いっきり拳骨してやった。
クラッとしたようで足元ふらふらだったので、膝の後ろを蹴ってその場に正座させた。
ポケットを弄って金を出してみれば、本当にショボイ金しか入ってなくて。
「まあいいか。なあおっさん、これ治療費な?」
「あ?」
「これやるから帰れ。あんたらこう言うの向いてないだろ?」
再び顔を見合わせたおっさんらは、放り投げた巾着袋を手にしてこちらをじっと観察した後。「悪かったな」と言って帰って行った。
一人残された正座した奴は、「待ってくれ、置いて行くな」と言ってたけど。
「……なあおっさんよ」
怯えた顔で私を見て来るおっさんは既に涙目で。
「悪い事考え付いた時はな、自分が表に立たなきゃ駄目なんだぜ?」
「わ、わ、べ、別に」
「考えた奴が責任取らなきゃ、誰も着いて来ないだろ?」
「重みがある言葉だねえ」
「実体験ですからねえ」
クスクスと笑いながらそんな事を言い合って。
「だからな?おっさんは悪い事考えてもそれが出来るほどの器じゃねえの。身の程を知って大人しくしといた方が身の為だぜ?」
たぶん、言われ慣れてるだろう言葉を掛ければ、怒気を孕んだ目で睨んで来た。
「あんたさあ、莫迦にされんのが嫌みたいだけど、それに伴う努力はしたか?それもせずにただ酒飲んでくだ巻いてただけだろ?そりゃ強くなれるはずねえよ」
「黙れっ!何も知らないくせにっ!」
「ははは、それを言って許されるのは子供の内だけだぜ、おっさん?」
「何も、何も知らないくせにっ」
「何も知らないけど、あんたが努力してねえって事だけは解るわ」
「お、俺だって」
「したって言う奴に限って中途半端なんだよな。あんた以上になってる奴は皆、あんたよりずっと努力してんだよって、これも言われ慣れてるか。ま、おっさんにとっちゃ全部今更な言葉だけど、それを言われるくらい成長してねえって自覚しろよ?」
そう言ってパシッと頭を叩いて終わりにする。
「ま、また女のとこでも行って慰めて貰って忘れろ。そんでもう二度とこういう事すんなよ?今度は命奪われても知らねえからな?」
既にリドルに跨っているヴィーを見上げ、にっと笑い合って。
じゃあなと声を掛け、リドルを走らせてから魔力縄を解いた。
「……ワクワクしたのになあ」
「残念だったね」
「まったくですよ。せめてもう少し普通の盗賊だったらなあ」
「その内会えるよ」
「是非お会いしたいですねっ」
ま、ばあちゃんからの説教って事で、軌道修正してくれりゃあいいんだけどなあって思いながらヴィーと二人で王都への旅路をのんびりと楽しんだ。




