第一話 私の出番ですっ!
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここにあるこの泥汚れの酷い洗濯物。いつもの石鹸で洗っても汚れが落ちなくて困っちゃいますよねえ」
はいはい、おばちゃんよく見てね。
「そこでこの魔法の粉の出番です。これを桶の中に入れて洗濯物を一擦り!どうです、この汚れの落ち具合っ!」
「……え、本当に?」
「本当ですよー?何なら試してみますか?」
はいはい、どうぞどうぞ、お試しくださいと言ってみれば、おばちゃん達は戸惑いながらも試し始め。
「これ、入れるだけなの?」
「勿論です。ほんの少し混ぜればあら不思議。綺麗さっぱり汚れが落ちます!」
「……いくら?」
「ふふふ、今日は初めてここに来たので大特価!この魔法の粉がこれだけ入って何と、たったの銅八枚っ!」
「買ったわっ!」
「ありがとうございますっ」
ふ……、ふふふふふ。色んな魔法を試しておいて良かった。
芸ある者は身を助くって奴ですよ。
「はい、ありがとうございます、ありがとうございますっ」
と言いながら、小瓶に分けておいた魔法の粉を売りまくり。
良い稼ぎになりましたとさ。
「……いちるは、何処ででも生きて行けそうだね」
「ふふふ。本格的な商売はこれからですよ、ヴィー」
「……何を売るつもりかな?」
「えへへー。まだ内緒です」
元々の洗濯粉に魔法を掛けただけなんだけど、これ、リュクレースでも重宝されてたんだよね。やっぱ汚れが落ちないってのは全世界共通の悩みだし。黒騎士共に使わせて、改良に改良を重ねた代物です。
そうして、稼いだ金で昼食を摂る。
「洗濯粉を買い込んだ時はどうするのかと思ったけど。なるほどねえ」
「ふ……、ご協力ありがとうございました」
「いや、いいんだ。いちるのその発想力は本当に面白いし、俺の練習にもなる」
「微力な魔力を出すって、本当に難しいですよね」
「まあ、いちるはね」
「む。どうせ大雑把ですよ」
フォルサスを離れ、モルト河沿いの国に入ったはいいけどそこもあんまり良い国とは言えず。再びモルト河沿いを南下中です。今はサスフェースから三つめの国、カカラって国にいます。段々暑い国になって来たのと、初めて見る魔獣に襲われたりしてますが、概ね順調に旅を続けています。
「やっぱ街に入らないと色んな話し聞けないですからね」
「街に入るのに金が必要だなんてね」
「そりゃそうでしょう。それもまた街を守る為に必要不可欠でしょうし」
「……考えた事が無かったからね」
「リュクレースは魔獣が強くて気軽に他の村や町に行けないですからねえ。けど、将来的には考えた方が良いのかもしれませんね」
「だけど、緊急の場合はどうするんだろう?兵の移動や住民の移動は?」
「兵士はたぶんただですよ。住民は移住を禁じているのかも」
「……移住を禁じる?」
「はい。確か、そう言う処置を取る所もあったと思いますよ?」
もううろ覚えな知識だけど。
「商人の出入りの場合は、税率を変えたり。物流を活発にさせる為にはそれも有りですよね」
「……魔獣に襲われはしないんだろうか?」
「たぶん、リュクレースが特殊ですね。他国はリュクレース程魔獣がいない」
「うん、それは確かに」
「豊かではありますけど、人の出入りを考えると他国の方が豊かになりそうですね」
「……そうだね」
他所から人が入って来るって事は、同時にその知識も入って来る。今ある物に改良が加えられれば、更に良い物が出来上がる。
「さて。次なる物を作り出しましょうか」
そして、いつものように三人前を平らげた後、酒屋で安酒を二本買い込み宿に戻った。
コルクで蓋が出来る小瓶を買い込んで、そこに安酒を移していく。
「……今度は何を?」
「ふふふ、今度は夜のお友達。その名も『みるみる勃った君』ですっ!」
「…………まあ、いいか」
「これはですね、黒騎士共に飲ませた所、一晩中効果がありましてですね」
「飲ませたの?」
「はい。効果は実証済みです」
「……いちる。自分が襲われるって心配はしなかったの?」
「そんな物好きな奴いませんよ。花街に駆け出してましたし、それに私、その頃にはヴィーと一緒にいましたからね」
「………………そうか」
「はい」
そして、小瓶に移した安酒にヴィーを扱き使って魔法を掛けて行く。
「魔力は少しにして下さいね?そうしないと三日くらいヤバイらしいので」
「それも黒騎士達が?」
「はい、実証済みです」
最初の頃はどれくらいの魔力を載せればいいのか解らなくて、何度も試作品を作っては黒騎士共を騙して飲ませてた。その内警戒されるようになって、花街の姐さん達に協力して貰ったんだよね。売り上げに貢献してくれるならってんで、黒騎士達の財布の中身が寂しくなってたけど、まあアイツらも喜んでたし。
「ぽわんって、泡が一個出ればオッケーです」
「へえ……」
そうして宿屋の一室で作り出したみるみる勃った君を三本ほど持って、酒場に繰り出した。そして、酔っ払ったおっちゃん達と仲良くなり、みるみる勃った君の話をする。
「……本当に効果あるんだろうな?」
「まあまあ、ただでいいから試してみてよ」
「毒じゃねえだろうなあ?」
「飲んで見せようか?」
ニカッと笑いながらそう言ってみると、おっちゃんはじっと私を見た後、よしと言いながらそれをポケットに入れた。
「おっちゃん、明日もここで待ってるよ」
「おう」
ヒラヒラと手を振って、帰って行くおっちゃんを眺め。
ふふふ、これで顧客ゲット。
「……逞しいとは思ってたけど、ここまでとはね」
「ま、あの国じゃなきゃこんな発想出て来なかったですけどね」
「……そう、だね」
「はい。魔力があってこそですからね」
そうして他二人のおっちゃんにも小瓶を渡し、満足して宿に戻り。
「昼の内に残りの洗濯粉を捌いちゃいましょう」
「わかった」
今の所まだ、国外まで商売してる国ってのが無くて、共通のお金が無いのが幸いしてる。持ってるお金の重さで換金して貰えるのが救いかな。
「もう少し先に行くと、もしかしたら共通のお金が出回ってるかもしれませんね」
「ああ、そうか、そうだね」
「はい。国内では商人が行き来するのが当たり前になってますから、そろそろ出て来ると思うんですよねえ」
「……商人に紛れ込ませて貰えれば出入国は楽そうかな?」
「そうですけど。でも紛れ込むと面倒増えますよ?」
「そうかな?」
「……ヴィーはもう少し自分の顔がどう見られているのか考えるべきですね?」
それでなくても注目の的になるってのに、商隊に入ったりしたらヴィーの争奪戦が起きちゃう。それはそれで面白そうだけど、面倒にしかならないからな。
「何て言うか、ごめん?」
「……鼻毛書きますか?」
「ああ、そうだね、そうしようかな?」
そんな事を言って来るヴィーと笑い合い、そして次の日。
通り沿いの空いてる場所を陣取って、昨日のように商売を始めようと思ったら、口コミを頂いたのか、並べる前からおばちゃん達が来てくれて買って行ってくれました。
値段を上げようと思ってたんだけど、そのまま銅八枚で売ってもぼろ儲けは出来るので、そのままで売る良心的な私。
「……儲けの総額は?」
「そうですね……、銀六枚って所ですかね?」
あっと言う間に捌けた事を祝って宿に戻り、そうして換算する。
元々の洗濯粉は一袋銀一枚。それを小瓶に分けて小瓶のお金と合わせても、一つ銅五枚は儲けがある。通りで商売する為に顔役に話しを通して場所借りて、その場所代も引いてみれば儲けはそんな感じだな。
「よし。これで夕食まで行ければ、酒代はおっちゃんに奢ってもらうとして」
「奢ってもらうんだ」
「当然です。みるみる勃った君の恩恵に預かれるんですからね」
「……販売金額は?」
「銀三枚。おっちゃんらもこの辺りが限度と踏みました」
「なるほど」
いくら安酒と言えども一本銀五枚したのだ。コルクで締められる小瓶は高い方で、これが一つ銅五枚。洗濯粉を入れた小瓶が銅一枚で買えた事を考えれば、そう安くは出来ない。ついでに言うと、変な奴に目を付けられる物だから、さっさと売り払って金にしたら次の街に逃げる予定。
「……王都に寄って花街行きますか」
「花街なら、ここにもあるんじゃないかな?」
「規模が小さくて。もう少し大きくないと困るんですよね」
「……何故困るのか聞いてもいいかな?」
「花街の姐さん相手に『潤汁』って言う物をですね」
「ちなみにそれも試し済みかな?」
「勿論です。元々は花街の姐さんの悩み相談から開発した物ですから」
「……へえ」
「そして、それを使った姐さんと黒騎士の感想から更に改良を重ねてですね」
「待て待て待てっ!黒騎士の感想?」
「はい。ほら、女はこれで良いとして、男はどうなのかなって」
ぎゅっと眉間に皺を寄せたヴィーがじっと私を見て来る。
「……それは、一体どういう意味で?」
「要するに、女の欲が高まって男を離せなくなるかな?と思ったので、黒騎士を提供して試して貰ったんですよね」
「提供?」
「はい。店ん中に放り込んで楽しんでるとこ覗いてました」
ニカッと笑って親指を立てて見せれば、ヴィーが長々と溜息を吐き出した。
「そういう……」
「姐さん経由で私を貸すように要望出たでしょ?」
「ああ、来ていた」
「それです。女の依頼だから男寄越すなってあれです」
ふう、と溜息を吐いたヴィーが先を促す。
「まあ、張り切り過ぎちゃって次の日には搾り取られてカスッカスの状態でしたねえ」
「……それは、どうなんだろう?」
「いや、だから魔力の調節で一気に行ったんですよ。微量に混ぜた潤汁から、濃い魔力を載せた潤汁までを使ってみました」
「それでカスッカスか」
「はい。第三段階の魔力ぐらいが丁度良かったみたいで」
また警戒されて花街まで来てくれなくなると困るから、姐さん達にお願いして準備して貰って、十人くらいで一斉にやれるよう取り計らって貰ったんだよね。
まあ、お蔭で役に立ったよ。
「……気付かなかった」
「ふふふ、さすがに花街の中はヴィーの監視も無理でしたよねえ」
「そのようだ」
「花街の姐さん方、連係プレーで監視の人を店ん中に引き摺りこんでましたから」
「そうなのか?」
「はい。お蔭でこっちはのんびりやってましたよ」
長く溜息を吐き出したヴィーの肩を軽く叩いて慰め。
「王都の花街も、コルディックの花街も、女の園です。あそこで生きる女達の結束は固いんですよ」
「……そのようだ」
「はい。だからこそ、医薬品の充実と医務生の貸し出しを積極的に行うようにって進言したんですから」
「偶にジグルドが行っていたのは」
「身一つで戦う女を助けに。ジグルドおじいちゃん、そう言うの放っておけない人でしたから」
「……うん、そうだったね」
花街を清潔空間に変えたのは私だ。
貴族が通うような高級系の店を作る案を出したのも私だ。
お蔭で、好き者の貴族が奴隷に手を出すのを止めたくらい。奴隷商人の根絶を図るなら、買う奴を減らせばいいって思ったんだよね。今じゃリュクレースでは奴隷を買う貴族がいなくなった。
「確かに、いちるが色々と変えてくれて、そこから変わって行ったね」
「はい。ですけど、大公妃殿下が力添えしてくれたのが大きかったんですよ、あれ」
「……母上?」
「はい。花街の現状を話した所、貴族から寄付を募ってくれまして」
「そう、だったんだ」
「はい。まあ、寄付してくれた奥様の旦那様が花街に通う時には色んな意味で修羅場見ましたけど」
奥様からしたらふざけんなっ!て感じになりますからね、あれ。
「さて、そろそろ行きますか」
夕方になり、食事も兼ねて酒を飲むべく宿を出た。
昨日のおっちゃん達は、楽しんでくれただろうか?




