第九話 将軍のパンツに乾杯
夜の内に片を付けたかった事もあって色々と急ぎ足でやってしまったんだけれど、陽が出て来て朝日が差す中、王都に国王陛下が戻って来た。
「……これは……」
破壊された王城は、朝日の中きらきらと光って見えて、これはこれで綺麗だと思ってしまう。
「……コルサ。城下の民は」
「地下水道に避難していたので、今誘導しています」
「そうか。ここで働いていた者達は」
「第二騎士団の活躍により、全員が脱出済みです」
「……怪我人は」
「将軍の親衛隊全員が何らかの怪我を負っておりますが、全員命に係わる怪我ではありません」
「……第二王女は」
「無傷です。王城内に残った一室に隔離しております」
国王陛下の口からは、最後まで将軍の事は出て来なかった。
一番最初に口に出たのが城下の民か。まあ、良い王様って訳じゃないけど悪い王様では無さそう。
壊れた王城を片付ける為に、第二騎士団や近衛隊が動き回っている中、勿論私達も掃除に参加しておりました。
「……元通りに戻す事も可能ですが、どうしますか?」
こっそり国王陛下に聞いてみたら、国王陛下が物凄く驚いてこちらを凝視して来た。
「それは……、あの、魔法で、ですか?」
「はい。その代わり、大量に食事を用意してくれるとありがたいんですがね」
「……いちる様、部分的にお願いする事も可能でしょうか?」
「勿論です、国王陛下」
そして、頼まれた一部ってのがお城で働いている人達の住居部分だったとか。
うん、やっぱこの王様、好きだな。
「ヴィー、元はと言えば張り切り過ぎたこっちが悪いですから」
「そうだね」
「じゃあ、二人でキリキリ働きましょうか」
「……わかった」
そして、ゼルス君とコルサさんを呼び、城から全員を外に出すように頼んだ後、それが終わるまで国王陛下と談笑する。
「一度破壊してしまった物を元に戻すと言う魔法は、リュクレースでは当たり前なのでしょうか?」
「いえ、一般的ではありませんよ」
そう言ってクスクスと笑ってヴィーと顔を見合わせた後、国王陛下に話しをする。
「実は以前、夫婦喧嘩で城を半壊させたことがありまして。その時にこっぴどく叱られたんですよね」
「……夫婦喧嘩で、ですか?」
「ちょっと派手にやり過ぎちゃっただけですよ。それで、最初は手作業で修繕してたんですが、段々面倒になって来たので修復の魔法を編み出してみました」
「勿論、だからと言って誰でもできるかと言えばそれは無理でして」
「え、ええ……、そうでしょうね」
そう言った生真面目な国王陛下は、何やら考え込んでいたけれど。
「さすがはリュクレースですね。我国との違いを思い知らされるばかりです」
「だけど、フォルサスも良い騎士が揃っているではありませんか」
「……ありがとうございます」
将軍はあれだし、その親衛隊もあれだけどさ。国王陛下の近衛隊や騎士団は腐ってなかったもん。
そうして、ゼルス君とコルサさんが避難させたと報告に来た後。
興味津々で全員が眺めてくる中、ヴィーと二人でフォルサス王城に修復の魔法を掛け捲った。お詫びの印に頼まれた一部だけじゃなく、全部を直していく為見る見る内に元の姿に戻って行く王城に、全員がぽかりと口を開けたまま見上げ続け。
「うおおおお、腹減ったあああああああっ!」
終わった途端にそう叫んだ私に、コルサさんが思いっきり笑い出し、ゼルス君がクツクツと笑い、ユラエさんはスープを作りながら笑ってた。
城の中庭でそのまま食事をしつつ、足りねえと言いながらユラエさんやコルサさんから携帯食を奪い取ったら、第二騎士団から携帯食が貢がれ。
「破壊と創造が出来るなんて、まるで神だな」
「伏して崇め奉れいっ!」
「いちるを拝んだら邪神崇拝と言われそうだな?」
「悪魔信仰ですかね?」
「生贄は大量の食事、かな?」
コルサさんの軽口にユラエさんが乗り、ゼルス君まで乗って来る。
「何その連係プレー。上手く決まってる辺りがムカつくんですけど」
「まあそう言うな。これでも感謝してるんだぜ?」
「全然そう見えないんだけど」
「ははは、夕食はもっと用意できるから期待しててくれ」
そして、国王陛下とコルサさん達が第二王女に会いに行くのを見送った後、ゼルス君の案内で城の中に入った。リンデリアの騎士達は白き悪魔団って事になっているので、一応それなりの待遇を受けられるらしい。
リンデリア騎士団で一番偉いのはユラエさんじゃなくグリッド君なので、グリッド君だけは私達の近くの部屋を与えられた。
「グリッド君、第一王子はどんな命令出してたんかな?」
「公爵閣下のお力になるようにと」
「……それだけ?」
「はい。公爵閣下が戦争に介入されるのであれば、必ずお守りするようにと」
「ほう。それは近くで剣技を見て学んで来いって事だよね」
「この度、公爵閣下の戦い方をお近くで拝見させて頂き、圧倒的その力に驚くばかりでした」
「……だろうねえ」
ヴィーに視線を向ければ、ヴィーはついっと視線を逸らした。
おや、珍しい。
「ま、王城の破壊許可は貰ってたけど、さすがにねえ」
そう言って苦笑した後、グリッド君も休むように伝え。
頭を下げて部屋を出て行った後、防音の魔法を掛けた。
「要するに、剣技を見せる訳に行かなくて魔法をぶっ放したと?」
「……まあね」
「魔力調節が上手くいかなくてこうなったと」
「…………まあね」
気まずげな顔でそう言ったヴィーを見ながらぷっと吹き出して笑えば、ヴィーも笑い出した。
「ヴィーが失敗するとか、すげえ」
「……日本語で魔法を放つと、どうも魔力が出過ぎてしまってね」
「ふふ、ヴィーが、失敗」
「……もう許してくれ」
笑う私を抱き締めてそう言うヴィーを抱き返す。
確かに友好国ではあるけれど、手の内を見せられるような仲じゃないから仕方がない。それでもあのヴィーが失敗する事があるってのが驚きだよ。
「旅に出た甲斐がありました」
「……良い土産話に出来るね」
そう言って笑い合い、キスを交わし。
少し眠ろうと、ベッドに転がって仮眠を取る為に目を瞑る。
「……修復の魔法を編み出しておいて良かったですね」
「何が役に立つかわからないね」
そう言ってクスクスと笑い合った後眠りに付いた。
コルサさんの宣言通り、夕食は物凄い大量だった。なんでも城下の人達も協力してくれたとか。
「食料の流通は戻りそうなんですか?」
「大丈夫だ。一晩のみの避難であったし、城下の者達が戻った頃は王城も元通りだったからな」
「なら良かった。ご家族の方達は本当に怪我、ありませんでしたか?」
「ああ。これも、あんたらのお蔭だ。ありがとよ」
「いえいえ。ご無事で何よりです。第二騎士団の方々が気に掛けて下さったようですよ?」
「ああ、聞いた。俺達は国王陛下と共に王都を追われてしまったからな」
「……なるほど。城下の人達でも人質に取られましたか」
「ああ。見事な手際だったな」
「そん時もパンツで?」
くくくと笑いながらそう聞けば、コルサさんも笑いながらこくりと頷いて来た。
「パンツだったんかいっ!」
「バカ、デカい声出すなっ」
「ぐふ、だって、ふふ、そ、それ、ふふふ、ヤベ、本気でヤベエ」
懸命に声を抑えながら笑っていると、コルサさんも笑いを堪えながら続きを教えてくれた。
「将軍だけじゃなく、親衛隊もパンツだったんだ。お蔭でこのざまだ」
「そりゃ、パンツ軍団じゃ、本気で相手に出来ないでしょ」
「呆気にとられるのもあるし、あの恰好で真面目に剣を構えて来て」
「ぐふふ、そりゃ、駄目、もう、無理」
「また将軍の話しですか」
「いちる様、悪目立ちしてますよ」
「だって、コルサさんが、笑かすから」
「お前が、聞いて来た」
コルサさんと二人で笑いを堪えていたら、ゼルス君とユラエさんがやって来て、二人も笑いの渦に参加して来た。ヴィーは国王陛下と一緒にいるので、グリッド君が付いている。
本当ならそっちに参加しなきゃいけないんだけど、第二騎士団がこっちにいたので、こうして挨拶がてらふら付く私にコルサさんが付いて来てた。
一頻り笑い合った後、コップを持ち上げて乾杯する。
「将軍のパンツに」
「パンツに」
そうしてまた笑い合った後、酒を飲み込んだ。
「あまり公爵閣下から離れませんよう」
「ユラエさんが守ってくれるんだろ?」
「で、ですから、あまり離れませんようお願いしてます」
「酒を飲む時はさ、上司がいない方がいいよね?」
「おっと。それは耳が痛いな?」
「私もです」
コルサさんとゼルス君がそう言ってコップを合わせてた。
「そういや、最初に捕縛した奴らいたじゃんか?あの森の中にいた奴ら」
「ああ、今は地下牢にいる」
「あいつらは親衛隊じゃないの?」
「いや、あれは第二王女殿下の近衛隊だ」
「ああ、そう言う事か。パンツじゃなかったもんな」
互いにくつくつと笑い合い、そしてもう一度コップを合わせる。
「是非フォルサスでずっと語られますように」
「……パンツの将軍ってか」
「戦術的には有ですよね?」
「ユラエさん、パンツになってみて」
「嫌ですよ。いちる様に思いっきり笑われますからね」
「笑わない、約束する」
「信用できません」
「オー、何か悲しき誤解があるようだよ、コルサさん」
「誤解っつうか、確証だよな?」
「そうですね。夜空に響き渡りましたからね」
「いや、あれは覚悟できてなかったから仕方ない。大丈夫、笑わないから」
「嫌です」
「あ、さてはパンツ履いてねえんだな?」
「……履いてます」
視線を逸らしてそう言ったユラエさんは凄く解りやすいと思う。
「正直だよなあ。若いって素晴らしいな」
「か、からかわないで下さいっ」
「もうちょっと女を知ると変わっちゃうんだよなあ。その辺、ゼルス君は黙ってる辺り賢いよね?」
「……その方が得策だと判断したのですが」
「ははは、逃がす訳ねえだろっ」
なんてやり取りを交わしながら笑い合った。
大量に用意されていた夕食は、残す事無く皆で頂き、お酒の大盤振る舞いもあって、随分遅くまでそうして騒いでた。




