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第八話 そりゃ笑うって

 フォルサスのゼルスさん、リンデリアのユラエさんと私の三人で話しを始める。


「そういや、将軍ってすげえ格好してんだって?」

「……そこには触れないで頂けるとありがたいのだが」

「何だよ、一緒に指さして笑ってやろうぜ?」

「…………しかし」


 ゼルスさんは、必死に笑いを堪えながらそう言い募る。

 ユラエさんは「そこに突っ込み入れるって、鬼畜ですよね」なんて呟いてたけど。


「まあいいか。どうせその内会えるだろうし。つうか、会いに行くしっ!」


 コルサさんの反応も面白かったけど、ゼルスさんの反応もこれって事は、期待しちゃうでしょ、普通にさあ。


「……ところで、何故フォルサスにリュクレース公爵ご夫妻が?」

「通り掛かり。つうか通り過ぎる予定だったんだよね」

「……我国はリュクレースにとって取るに足りないと?それとも、トクラノを煽るつもりで?」

「ゼルス君、その質問はご尤もだ。だけど両方不正解だ」


 じろっと睨んで来るゼルス君の肩をポンポンと叩きながら話し続ける。


「この大陸を横断したいだけなんだ」

「……大陸を、横断?」

「そ。だからそのついで。リュクレースにとってもここはフォルサスであり続けてくれると嬉しいんだよね」

「……それは、どんな理由で?」

「そりゃ魔石の新たなルートを確保し、その安全の確認に手間取るぐらいなら、元々取引のある国の方が楽だろ?」

「……まあ、確かに」


 じいいいっと疑いの眼差しを向けて来るゼルス君に、「やだ、惚れちゃった?」と聞いてみたら、戸惑うような顔をした後真剣な顔で「申し訳ありません」と謝って来たので、ごつっと拳骨しておいた。


「ゼルス君はどうやら、将軍の言う事聞いてる振りしてたタイプだね?」

「…………はい、その通りです」

「国王陛下への反逆だって事は理解してるんだよね?」

「…………勿論です」


 なるほど。第二騎士団はまともっぽいな?


「ゼルス君、なんで将軍に従ったのさ?もしかしてここで将軍達を足止めする役目担ってたとか?」


 途端に驚嘆に目を見開いたゼルス君に、なるほどねえと呟き。


「離宮の国王陛下を守る為?それとも、国境線に行った第二王子殿下を守る為かな?」

「……それと、城下の者達を」

「第二騎士団だけ?」

「第一と第五は、国境線に赴きました。第三、第四は国境付近の住民たちの誘導を行っているはずです」

「……王城の中は将軍の親衛隊、とか?」

「はい。我々は城外とここで働く者達の安全を確保しておりました」

「じゃあここにゼルス君たちが来たのは、ご家族さんを守る為だった?」

「……その通りです」


 なんだ、フォルサス、大丈夫じゃん。


「余計な事してごめんよ」

「いえ。元々、私達の騒動に巻き込んでしまったようですし」


 何となく笑い合った後、ゼルス君の部下達の捕縛を解き、怪我をさせた事を詫び。

 回復術を掛けるかどうか聞いてみれば、掛けてくれとワクワクしながらお願いされたので遠慮なく掛けてやった。ぐらっと傾ぐ身体に慌ててたけど、体力奪われてるだけだから寝転がっていろと告げる。傷が塞がり、流れ出てしまった血を急速に作るのだと説明すると、皆が慌てて寝転がった。


「……リュクレース黒騎士団の噂は聞いた事がありましたが。やはりお強い」

「そりゃどうも。でも、第二騎士団も強いよ。すげえと思ったわ」

「…………笑顔でそう言われては、こちらの立つ瀬がありませんね」


 ゼルス君がそう言って苦笑し。

 

「白き悪魔団の方も、やはり腕が立つのでしょうね」


 そう言ってユラエさんへと顔を向けると、ユラエさんはその視線を受けないよう顔を逸らした。私は顔を逸らして笑いを堪えてて、やっと収まって顔を戻せば、ゼルス君に怪訝そうな顔をされ、ユラエさんには睨まれていた。


「あー、こほんこほん」


 わざとらしい咳ばらいをし。

 周りを見てみれば、第二騎士団の人達とコルサさんの家族達は、笑顔で会話をしてた。

 そっか、ゼルス君の言う事は本当の事だったかと軽く息を吐き出した後、ユラエさんへと視線を移してニヤリと笑う。


「さて。皆さんは第二騎士団にお任せしてさ」

「……はい」

「将軍閣下に会いに行こうっ!」


 そう言ってみると、随分私に慣れたらしいユラエさんが、軽く溜息を吐いてくれた。


「それ、笑いに行くって事ですよね?」

「わかんない。すげえ格好って話ししか聞いてないし。ね、どんな格好だと思う?」

「さあ……。全く想像できないので困っています」

「やっぱさ、見るしかないよね?」

「……見た瞬間に笑ってしまったらどうするんです?」

「やだなあ、指差して遠慮なく大笑いするに決まってんじゃん」

「だと思いました。一応、他国の将軍閣下ですから、遠慮した方が良いと思うのですが?」

「もう将軍じゃないだろ?」

「……それは、そう、ですか?」

「そう、だと思うが?」


 ユラエさんがゼルス君に質問を流せば、ゼルス君は戸惑いながらもそう答えて来た。


「私の希望としては、今の格好のまま将軍でいてくれてもいいけどね」

「それは、ちょっと」


 即ゼルス君がそう言って来たのを聞き、思わずニンマリとしてしまった。


「聞いた?やっぱすごい格好なんだよっ!これはもう見なきゃ損だろっ!」

「いちる様、ですが私達はここでご家族の方々をお守りするよう、公爵閣下より命を受けております」

「硬い事言うなよー、ちらっと覗いて来ようぜー?」

「駄目です。たぶん、これを見越して我々に『必ず守り抜け』と申し渡されたのだと」

「んー、ほら、臨機応変?」

「その必要ないですよね?皆さんここにいらっしゃいますし、ここにマクガイア騎士団長がいらっしゃいますし」

「それだっ!ゼルス君、全員でさ、追いかけっこしようぜっ!」


 眉間に皺を寄せたゼルス君と、盛大に溜息を吐いたユラエさんを交互に見ながら、やらないなら全員拘束して空中に吊るした後一人で行くと言ってみたら。


「わかりました。では、ご家族様と怪我人はこちらに残し、マクガイア騎士団長と行かれては如何ですか?」

「え、ユラエさんは来ないの?」

「私は結構です」

「……見たら笑っちゃうから?」

「ぐっ、わ、笑って、いえ、私は決してそのような」


 顔を逸らして行くユラエさんをじっと見つめていると、「もう勘弁して下さいっ!」と言って両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。ちいっといじり過ぎたか。


「じゃ、ちらっと覗いて帰って来るからっ!」


 そう言って片手を上げた後、ゼルス君と一緒に空に浮かべば、物凄く顔を青褪めさせたゼルス君に取り敢えず笑わせて貰い。

 ぎくしゃくと動くゼルス君にくっ付いて行って、空から見下ろしてみた。

 王城の謁見の間の天井は崩れ落ち、たぶん、第二王女だろう女性と抱き合ってしゃがみ込んでいる人を見て。


「ぶははははははっ!何あれ何あれ、なんだそりゃああああああっっっ!!!」


 夜空に響き渡った私の笑い声に、皆が慌てて空を見上げて来たと同時に、ヴィーの魔力縄で引っ張られて落ちた。一応、ゼルス君がそっと降ろされたのを見てほっとする。


「やべ、カンダタ、なんで、ここでカンダタッ」


 こっちの世界ってゴムが無くて、パンツが紐なんだよね。男も女もおんなじで、男の場合はあんまりパンツ履いてる奴がいないんだけど。特別に作らせたのかわかんないけど、その逞しい身体付きにぴったりフィットしてる黒い紐パン履いて、軍人の籠手とブーツ履いてた。何がどうしてそうなったかは聞きたくもないけど、よりにもよってパンツ。

 

「……いちる、どうしてここに来た」

「皆さんの安全を確保。こちらはフォルサス第二騎士団団長、ゼルス君です」

「フォルサス国第二騎士団団長、ゼルス・マクガイアと申します」


 ヴィーの前で膝を折って挨拶をしたゼルス君を見下ろし、笑い続ける私に視線を降ろす。


「公爵家私兵、白き悪魔団のユラエを代表として置いてきました」

「……わかった」


 一応報告した後、再び振り返って黒いパンツで座り込んでた将軍を見て、もう一度笑った。


「何でパンツだけ、しかも籠手とブーツ、ふはっ、やべ、覆面被って欲しい」

「……いちる、そんなに笑ってやるな」

「だって、パンツですよ、パンツ!股間を誇張するってどんだけ自信あんだって感じですよ、笑えるっ」


 遠慮なく笑っていたら、ヴィーの後ろにいたフォルサスの騎士達が徐々に顔を逸らして肩を揺らし始め、コルサさん達は微妙な顔になりながら顔を逸らして行く中。


「頭に花飾ってネクタイすれば完璧ですよっ」


 そう言いながら親指立ててやったら、たぶん、想像しちゃったんだろうな。

 全員が笑い出してしまって、止まらなくなった。


「き、貴様、いきなり現れて愚弄するとはっ」

「なら愚弄されないような恰好しろよ、みっともない」

「みっ」

「良い事教えてやるよ。あのな、男同士じゃデカい方が勝ちみたいな所あるけど、女からするとデカけりゃいいってもんじゃねえのさ。その辺で行くとあんた、下手そうだよな?」

「なっ、へ、下手っ」

「すっげえ自分勝手に腰振ってそう。いいだろ、気持ちいいだろって言いながら腰振るだけっつうか。能無しテクなし良いとこ無しだな」

「…………」

「って想像したんだけど、実際のとこどうよ、そこのお姫さん?」


 言った途端に全員の視線が集まったお姫様は、しがみ付いていたカンダタもどきと目を合わせた後、そのまま視線を逸らして行った。


「あ、もう一個ついでに教えてやる。あんたのより、家のギルニット隊長の方がデッ」

「そろそろ止めようね、いちる」

「ふぁい、ふいまえんえいあ」


 隣からそりゃあもう遠慮なく頬を抓り上げられたので、そこで止めたんですが。

 微妙な空気が流れる中、コルサさんがわざとらしくコホンコホンと空咳をし。


「あー。その、国王陛下より沙汰があるまで、貴方方を拘束します」


 何故か男共がとっても同情的な眼差しで将軍を見つめながら、第二王女と将軍閣下を拘束してた。


「……いちる、どうしてここに来たのかなあ?」

「いやあ、さすがにヴィーを止めないとなあって思ったからですが何か?」

「…………うん、やり過ぎたかなって思ってる」

「ねえ?やっぱ他国の王城破壊ってどうなんですかね?」

「……どうしようかな?」

「あれじゃないですか?とんずら」

「おい。聞こえてるが」


 コルサさんの声が割って入り、ちっと舌打ちをして視線を投げる。


「まあ、王城は破壊する事前提だったし構わんがな」

「怪我人はいませんかね?」

「それは大丈夫だ。近衛隊から連絡を受けた後、将軍の親衛隊以外には逃げるよう伝えてあるし、始まった時に残っていた者達は避難させた」


 ゼルス君がそう答えてくれて、ほっと胸を撫で下ろす。


「張り切り過ぎちゃったですね、ヴィー」

「そうだね。いちるを見習おうとして失敗したかな?」

「あれ?おかしいな、私もう少しお淑やかですけど」


 元々、フォルサス王城は古く、修繕費が高くなって来たので建て替える予定があったそうだ。今現在国王陛下がいらっしゃる離宮を王城として、徐々に王都を移行させようとしてたって話しで。


「近衛隊の皆さん、早く家族の無事を確認したいでしょうから」


 そして、第二王女と将軍を捕えて縛り上げた後、その場をリンデリアの騎士達とゼルス君に任せ、近衛隊の皆さんを空に舞い上げて戻りました。

 家族の無事を確認したコルサさん達は、泣きながら再会を喜び合い、硬く抱き合うのを眺め。


「……笑い声が響いてきましたよ」

「すごかったよ、本当に。あれは一見の価値ありだね!」

「そのようですね。ですが私は」

「よし、見に行こうぜっ!」

「……また仲良くなってるんだね」

「何言ってんですか。白き悪魔団代表のユラエさんに向かって」

「その白き悪魔団って」

「家の私兵の名前ですが何か?」


 ニヤリと笑いながら見上げれば、それは綺麗な顔で微笑み返してくれました。

 天空の麗人の守り人ってのも良いかもしんない。


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