第六話 王城を取り戻せ
「離宮?」
「ああ。王都にはいられなくてな」
第二王女が椅子を奪うのに協力したのが将軍だろうからなあ。まあ、居場所はなくなるだろうな。
「おっさんも大変だね」
「まあな。だが、これを正し終えたら引退するさ」
「問題丸投げかよ」
「ははは、後は若い奴に頑張ってもらうさ」
「まあ、上手くやれば立身出世が思いのままだしな」
そう言って笑えばおっさん達も笑ってた。
「将軍がそれを体現して下さってるからなあ」
「ああ。お前、見て笑うなよ?」
「え……、そう言われたら凄く会いたくなって来たんだけど」
思わず笑い合いながら進み。
互いの剣を合わせてみたのが、明日国王に会えるって前日の夜だった。
「じゃ、やってみようか」
そうして剣を合わせてみれば、さすがに国王陛下の近衛って感じではあるんだけど。
「……ほら、行くぜ?はい右、上、左、右、下」
「な、くそっ」
「はい肩、腹、肩、足」
「くっ」
「はい右、上」
「待ったっ!」
最初に言葉通りの所を狙って剣を出し、次は言葉とは別の場所へと剣を出すってのは、初歩的な訓練の一つだと思ってたんだが。
「おっさん素直なんだね」
剣をぐるりと回しながらそう言えば、おっさんが悔しそうに顔を歪める。
「お、お前、何でそんな器用な真似が」
「慣れだよ、慣れ。それと、相手の動きを見るって基本だろ?」
近衛ってのは基本的に魔獣退治には駆り出されたりしないんだよね。勿論、その魔獣が襲って来た時は別なんだろうけど、王様に辿り着く前に倒すのが基本だし。
「フォルサスってのは、平和な国だったんですか?」
「……逆に聞くが、リュクレースってのはそんなに危険な国なのか?」
おっさんとそんな問答をして互いに首を捻ったら、ヴィーが笑いながら代わりに答えてくれた。
「ヨルガが生息しているかどうかで違うんだと思うよ?」
「あー……、あれか」
「最強種って噂は聞いてるが……」
「すげえですよ、あれは。デカいわ幅あるわ力強いわ風刃使うわ機敏だわ。弱点あるんですかね、アイツ?」
「今の所解っているのは、首の付け根に剣を入れるって事だけだね」
「……それは、どの魔獣でも同じ弱点だな?」
「人間もそうだし?」
「お前でも倒せねえのか?」
「無理だった。黒騎士二人掛かりで命懸け、三人掛かりでやっとだ。隊長クラスで一対一かな?」
「おい……、それでも二人いれば倒せんのかよ」
「倒すんだよ。大発生の時は死者数が凄い事になる」
正直に答えればおっさん達が真剣な顔になって顔を見合わせた。
「……大発生すんのか」
「する。ヨルガがリュクレースにしかいないらしいってのはわかってんだけどね。周辺国と魔獣の情報のやり取りしてんのは、そう言う生態系とかを把握したいからなんだよ」
「……そう言う事か」
「まあね。リュクレースも平和なだけじゃいられねえのさ」
「そりゃ……、あれだけ恩恵に預かってる国もねえからだろう」
「まあな。だからこそ、騎士が強いんだよ」
魔獣から守り、他国から守り。
そうして維持して行く為の力だ。
「さて。もう一回やるか?」
「……止めておく」
「そう?」
「ああ。これ以上国王の近衛として恥ずかしい思いをしたくない」
「ふうん?まあいいけど」
「それに、お前がまだ左の剣を抜いていない事ぐらい気付いている」
「あー、これは予備だよ、予備」
軽く肩を竦めてそう言えば、おっさん達が顔を見合わせ笑い出した。
「形無しだな、コルサ」
「まったくだ。参った、全く敵わねえな」
そうして笑い合ったおっさん達と一緒にスープを飲みながらパンに噛り付く。
「公爵閣下は、夫人より長けていると聞いてるが」
「いえ、いつもやり込められていますよ」
にっこり笑いながらそう返したヴィーに、全員が顔を見合わせて笑い合う。
「あれだな、やっぱ公爵閣下も女房には弱いんだな」
「なんだ、俺達と変わらねえな?」
「どんだけ強くなっても、女房には敵わねえんだよなあ」
そう言って笑い合うおっさん達と一緒に笑い合い。
翌日案内された離宮は、随分と寂しい所だった。
「……第二王女が玉座を取った後、纏めて始末するって手もありますねえ」
「それは楽そうでいいね」
ぼそぼそとそんなやり取りをした後、おっさん達が前に並んだ状態で寝ている国王陛下と謁見した。黒騎士修練服だわ風呂に入ってないわだから、こっちも無理に近付きたくないからね。
でも、国王陛下はそう言う謁見しか出来ない事を詫びた後、今現在の国内情勢についても詫びて来る。不甲斐なくて申し訳ないと言った国王陛下に、おっさん達は黙って唇を噛み締めた。
「トクラノとしては、フォルサスに攻め入る絶好の機会ですから、見逃しては貰えないでしょう」
「そうでしょうね。サスフェースへの進軍と見せかけてこちらに来るでしょう」
「はい……。全力でもって事に当たらねばならぬ時に……」
「国王陛下、玉座に戻られては如何ですか?」
ヴィーの言葉に、はっとしたような顔をしたおっさん達が私達に注意を向けながらも国王陛下の言葉を待った。そうして、少しの間何の物音もしない中、やっと国王陛下が口を開く。
「……そうですね。最期まで座り続けていた方が良いのかもしれません」
「陛下っ、我ら全員、その時までご一緒させて頂きたくっ」
とうとう我慢できなくなったコルサさんが、私達に背を向け膝をついて国王陛下に頭を下げていた。いや、気持ち分かるけどそれ、駄目駄目じゃん。まあ、殺す気なんてないからいいけどさあ。
「では、我々を末席にお加え頂けますか?」
「っ!?こ、うしゃく閣下、何を」
「戦争介入をするつもりはありませんが、この国を守って欲しいと、ある図々しい男に頼まれましてね」
ヴィーが溜息を吐きながらそう言うと、国王陛下が気付いたのかくつくつと笑う声が聞こえて来た。
「……あの方は、この国をも……」
「そんなお優しい方ではありませんから、恩に着る必要はないですよ、陛下」
「どうせ利己的な考えからの申し出ですから、陛下も上手く利用すりゃいいと思いますよ?」
ま、あの人が考えそうな事だ。
「国境付近に配下が潜んでましたから、それも戦力に数えていいと思います」
「対外的には、公爵閣下の部下って事で」
「……いや、しかし」
「こちらとしても、今更魔石の流通が止まってしまうのは困りますからね」
そして、笑い出した国王陛下と一緒に笑い合い。
意外とリンデリア第一王子の配下は使える奴らで、王都に噂を流布した後近衛のおっさん達の家族が何処に捕らわれているかまで探って来た。
「王城の地下牢ですね。それと、三日後の襲撃は城下の者達は全面的に協力するとの事です」
「……第二王女って何やらかしてんですかね?」
「見ればわかるよ」
「って事は、ド派手で贅沢な生活って奴ですか」
「それとね、魔石加工の権利を全て取り上げてしまったんだよ」
「……そりゃ駄目ですね」
魔石は宝石代わりに出来るって言うか、回復の魔法を閉じ込めて身に付けておくとか、防御魔法を閉じ込めて身に付けておくとか、色んな加工が可能なんだよね。
リュクレースでは自分の魔力で加工して練り上げた、オリジナル宝飾品が流行ってたけど。あの国以外ではそんな事出来る奴いないだろうし。
加工技術持ってる人は、特別扱いって話しは知ってるけど。
「国王陛下が王都から追い出されてどれくらいなんです?」
「そうだな……、もう三月になるかな?」
「はい。その間全ての政が滞っています」
あちゃー。こりゃヴィーが介入したくなる気持ちが分かったわ。しょうがないわ。
「他の王子殿下方は何してんです?」
「フォルサスは、王子殿下が四人、王女殿下は三人いらっしゃいますが、第一王女殿下は既に降嫁されていますし、第四王子殿下は騎士となっております」
「第三王女殿下は?」
「まだ、三歳になられたばかりですから」
「あー……」
あの国王、割りと好き者だったんだなあ。
「いちる、王族の義務の面もあるから」
「いや、解ってますけど、だからって張り切り過ぎじゃ?」
そう言うとリンデリアの騎士が、顔を赤くして視線をキョロキョロと彷徨わせる。
「おや?何かまだ可愛らしい?」
「いちる、夢を奪わないようにね?」
「やだなあ、いつだって夢を膨らませるお手伝いしてますよ」
はははと笑って見せれば、騎士が視線を逸らしつつもわざとらしくコホコホと咳をしたので、笑ってやった。
「あー、黒髪の姫。あまり、その、国王陛下の事は」
「おっと失礼。つうかその呼び名痒くなるんで止めて下さい。いちるでいいです」
「いや、しかし」
「いちるでお願いします」
コルサさんをじっと見ながら念押しすれば、わかったと頷いてくれた。
「ってかコルサさん、近衛隊隊長だったんですねえ」
「その肩書き、返上したくなったがな」
「ふっ、敗北を認めましたか」
「まあなあ。フォルサス一って自負があったんだが」
「じゃあ敗北を認めた記念に、そこで尻」
バシッとヴィーに頭を叩かれ、途中で切れた言葉にリンデリアの騎士とコルサさんが疑問符を浮かべた顔をこちらに向けたけど。
「何でもないよ」
ヴィーににっこりと微笑まれて、慌てて顔を逸らしてた。
うん、怖かったんだな。
「隊長、戻りました」
「ああ。どうだった?」
「元々の近衛隊は解散し、将軍配下の者が城にいました。騎士達には話しを通しましたので、襲撃は主に城だけにしても良いかと思います」
「……と言う事は、裏切り者がいるのも考慮するべきだね」
「いや、騎士達は」
「コルサさん、甘い汁ってのは一度味わうと二度三度と欲するもんですよ」
やけにあっさり交渉できる時は要注意。
「城下の民は何処に避難する手筈かな?」
「地下水路です。城下全体に張り巡らされているそうですから、全員避難できるそうです」
「へえ?」
「……簡単にフォルサスの秘密を知られちまうな?」
「そりゃ上が守ってくれねえってわかったら、簡単に裏切るわな」
誰だって家族や自分の生活を守りたくて必死なんだから。
「いつから?」
「夜の内に全員が移動を終える手筈です。速やかな移動にする為に何人か残ってます」
「……殿下は、優秀な部下を育てているね」
「恐縮ですっ」
さすがだなあ、あの人。
「コルサさん、国王陛下は開城してから入った方がいいと思う。取り敢えずコルサさん達がメインで頑張ってもらうから、充分な休息をお願いします」
「いや、大丈夫だ。これ以上自分に幻滅したくない」
決め顔でそう言ったコルサさんは、今までで一番カッコよく見えた。




