第五話 黒騎士は自分が強くなる事に重きを置く
フォルサスの王都は、リンデリア国境に近い所にある。
元々、魔石を輸入する事が前提で出来た王都であり、魔石の為にはリンデリアとの友好関係は保たなければならないらしい。なので、フォルサス王家からリンデリアへはお姫様が嫁ぐ事が多いのだとか。
「お姫様が人質みたいな、生贄みたいな」
おっさん達に聞こえない程度の声で呟けば、ヴィーには聞こえたようで。
「それくらい重要なんだよ」
「……個人的な悪戯に使用してスミマセンでした」
気軽に使っていた事を何となく詫びれば、ヴィーはくすくすと笑っていた。
クズ魔石ってのは一応魔石扱いではあるけれど、リュクレースでは子供が魔法の練習用に使ったりできるお金で売買されている。駄菓子と同じ扱い程度って言えばいいのか。だから、私の悪戯の為には重宝してたんだけど。
「いちるの考え付いた物のお蔭で、付加価値が出来て高値で売買できるしね」
「え……、あれ、売ってたんですか」
「まあね」
くそ。気が付かなかったっ!
「その売り上げは開発者に還元されてもいいんじゃないですかね?」
「してたよね?」
「いえまったく」
「いちるが破壊した訓練場の修理、いちるが破壊した城下大通りの路面の修理、いちるが破壊した」
「わかったっ!わかりましたっ!」
「そう?」
クスクスと笑うヴィーを畜生この野郎と思いながら睨めば、ヴィーはにっこりと微笑んでくれた。
「ところでおっちゃん」
「……なんだ?」
「第三王子は何であそこに来たんだい?」
「さあな。あの方の考えは我々にはわからん」
「変わり者扱いなのか」
そう言って笑えば、おっちゃん達は無言のまま笑い合ってた。
どうもフォルサス王家ってのは、変わり者が集まっているっぽいな?ま、それ言ったら家も人の事言えないんで言いませんけどねっ!
街の外に出た時に索敵の魔法を掛けた時、街道を南東方向に進んだ所にある森の中に割りと人が集まってる所があったんだよね。たぶん、おっさんらはそこを拠点にして私達を待ち受けてたっぽい。
まあ、リンデリアの第一王子が、フォルサスの入国許可証を用意した時点でくせえとは思ってたけどさ。普通は出国許可証と身元証明書だもんな。
あの野郎、帰り掛けに殴って行こう。
「おっちゃんらの隊と合流した後は王都に行くのかな?」
「……別働隊はねえが?」
「へえ?じゃああの森の中にいる人達は関係ない盗賊かな?ついでに討伐してやろうか?」
街道を進んだ先、まだ五キロぐらいは離れている森へと指差して言えば、おっさん達はあからさまにギョッとしたように私を見て来た。駄目だろ、バレバレだぜ。
「……さすがだな」
「なあ、いい加減にしてくれねえかな?これ以上リュクレースを怒らせねえ方が良いんじゃねえの?」
辺りに冷気が漂ったのは、ただ単にヴィーが細かい氷の破片を空気中に散らす魔法を使ったからなんだけど、おっさんらは気付いてないみたいで。
中にはゴクッと音を立ててつばを飲み込んだおっさんまでいた。
「何だっけ?黒き異端者?絶望だっけ?」
そう言いながら睨み付ければ、こくこくと頷いて返して来た。
「まあいいや。その片鱗、見せてやってもいいんだが?」
右手を上げて、掌に炎を出してやれば顔を青褪めさせたおっさんが「待ってくれっ!」と慌てて言って来た。
前に座学で習ったことがある。リュクレース以外の国では、魔法があまり一般的ではない事、魔法を使える者は特別視される事を。なるほど、眼に見える物を解りやすく見せてやれば良いって事かと、軽く笑ってしまった。
「すまなかった。リンデリアから報せを受けたのは少し前で、我々は貴方方を出迎える為にここまで来ていたんだ。だが、第二王女殿下の知る事となり、第三王子殿下、第一王子殿下も加わろうとしていて」
「それはそっちの言い分だろ。リュクレースには関係ない話なんだけど?」
「国王代理である第二王女殿下の命で」
「自分の子供を抑制できなかった国王が悪い。子供の尻を他国に拭わせるなんて有り得ないわ」
おっさんの言い分をバッサリと切り捨てれば、おっさん達は何も言えなくなった。
「あのさあ、隣国が今にも戦争仕掛けようとしてる、この国にも飛び火しようとしてるって時にさ、椅子争ってるような王様、必要なの?」
「わ、我々はっ」
「あんたらの言い分は聞いてられんわ。諌める奴はいねえのかよ」
「……第二王子殿下に着いた方が宜しいのでは?」
ヴィーのその言葉におっさん達がバッと顔を上げて凝視した後、全員が項垂れてしまった。なるほど、色々あんだねえ。
「王位争いに第二王子殿下の名が上がらないのは、トクラノ国境にいらっしゃるからでしょう?誰が国を守ろうとしているのか、何故騎士であるはずの貴方方が理解出来ないのでしょうね?」
「……現国王陛下を病床から引き摺り出し、采配を振るわせろ」
「ふざけるなっ!陛下は、」
「お前らは諌める相手を間違えているっ!国に殉じる気概があるならば間違えるなっ」
正直、面倒な事にしかならないから口出ししたくない継承争いだけど、こっちを利用する気満々の奴らには、説教位してやるわ。
「家族でも人質に取られてんの?」
おっさん達にそう聞くと、おっさん達は顔を上げて私を見上げた後、すぐに視線を逸らしてしまった。なるほどね、そう言う事か。
「……わかった。さて、いいですかね?」
「いいよ。リュクレースの怒りを買えばどうなるのか、思い知った方が良い」
「ははは、賛成です。じゃ、ちょっくら盗賊退治して来ますっ!」
「怪我はするなよ?」
「莫迦にすんなよ?」
黒騎士のリドルは、乗り手の気持ちを察する事が出来る。
その場で前傾姿勢になった私は、走り出す為に頭を下げたリドルに軽く笑い。
「はっ!」
軽く腹を蹴っただけで勢い良く走り出したリドルは、あっと言う間に森の中へと到着して慌てふためく男達を次々と踏み付けたり蹴倒したり。
「……なあ、私の出番が無いんだが」
『ぬううううう』
倒れた男達を見て不満を漏らせば、勝ち誇った声で鳴き返された。
いいけどさ。いいんだけどさ。
痛みに呻いている男達を尻目に荷物を漁りまくり、縄を取り出して男達を次々に縛り上げ、抵抗した奴には気絶の魔法を掛けて黙らせ。ついでに金めの物をポケットにしまった。よし、これで食いっぱぐれは無いな。
「さて。戻ろうか」
『ぬうう』
木に繋がれていたリドル達と縛り上げた男達を連れて戻れば、おっさん達が驚嘆しながら私を見て。
「お、おい……、さすがにそれはどうかと思うぞ?」
「なんだよ、お優しいんだな?」
地面を引き摺られて来た男達に同情の眼差しを向けるおっさん達にそう答え。
リドルに蹴られた傷跡と、私に引き摺られた傷で呻く男達に、仕方が無いので回復術を掛けてやった。これで体力は奪ったぜ。
「で?国王陛下の元へ案内してくれるかい?」
連れて来たリドルに跨ったおっさん達にそう言うと、笑いながら頷く。
「勿論だ」
ずっと引き摺って行くと死んでしまうので、仕方なく魔法で浮かせて連れて行く事にしたんだけど。
「おっさん、国王陛下がいるのって、こっから近い?」
「そうだな、リドルが手に入ったから三日もあれば」
「マジかよ……。途中に町はある?」
「どうした?」
「腹が減ったから」
「もう!?え、お前四人前食ってたよな?」
「あれ我慢した方。いつももう少し食べてる」
おっさん達全員が、あんぐりと口を開けて私を見てた。
「あれ?契約では働く代わりに一日中の食べ物くれるんですよね?」
笑いながらそう聞けば、おっさん達は口を開けたまま顔を見合わせ、そして顔を青褪めさせた。
「……撤回したくなって来た」
「残念、もう働いちゃったし。報酬はきっちり払って貰おうか」
「大丈夫ですよ。食べ物だけでいいのでまだ軽い方です」
「そうそう、これに飲み物も足しておけば良かったなって思ってるくらい」
ヴィーの言葉に付け足せば、おっさん達は更に顔を青褪めさせ。
「残念だなあ、酒樽五つはいけるんだけど」
「それくらいなら、ポケットの中身で行けるんじゃないかな?」
「…………何の事かなあ?」
「何の事だろうねえ?」
ちっ、バレてたかっ!
「さて、行きましょう」
そうして、おっさん達六人とヴィーと私、捕えた男達八人での珍道中と相成りました。おっさん達は途中で何か吹っ切れたようで、涙目になりながらも私に食事を提供し、自分達は携帯食を齧ると言うそんな一日でした。
街道沿いの森の中、野宿をする為の焚火の傍でそういや捕縛した男達をどうするかで話し合いをする事に。
「今んとこ気絶させたままなんで静かですけど、どうしますか?」
「このまま国王陛下の所に連れて行けばいいんじゃないかな?」
「……それもそうですね。あっちに丸投げって事で」
「充分だよ。それに、第二王女に会う口実も出来たしね」
「知らぬ存ぜぬを押し通すと思いますけどね?」
「ふふ、出来れば良いね」
む、こう言うって事は何か動かぬ証拠があるって事か。
「あっちに捕えられてるらしいおっさんの家族はどうします?」
「国王陛下次第だね。突き放すようで悪いけど」
「……近衛の家族も守れない国王じゃあ、期待できそうにないんですがねえ」
私の夜食を準備する為に動き回っているおっさん達に聞かれないよう会話して、溜息を吐き出した。フォルサスの国王って、随分前にあった事があるだけだからなあ。
リンデリアの夜会に出た時に紹介されて、挨拶はしたけど。
厳めしい顔つきでにこやかに挨拶する、クソ真面目そうな人だった記憶が。
「言うなればフォルサスの恥部を晒してるって、理解してますかね?」
「無理じゃないかな?恥ずかしげもなく第三王子が宿屋に供を引き連れて来ちゃうぐらいだからね」
「あー……。何つうかカモーン状態にされちゃうと萎えますよねえ……」
足広げて股間晒して言われると、逃げたくなるっつうか。
「……いちる、言わないでくれないかな?」
「あ、想像したでしょ、今!やだなあヴィーったら」
ぷぷぷと笑いながらそう言えば、ヴィーが溜息を吐き出す。
「ちなみに、男でした?女でした?」
バシッと後頭部を叩かれ、ペロッと舌を出した。
「あんたら、本当に仲が良いんだな」
「まあねっ」
おっさんがからかおうとしたんだろうけど、即肯定してやれば「ちっ」とわざとらしい舌打ちをしてその場から離れて行った。こちとらそんな揶揄慣れてるもんで今更なんですよ、ええ。
「第二王子殿下って、どんな人なん?」
焚火でスープを作り始めたおっさんに話し掛けると、おっさんが暫し手を休めて考え込み、そうして口を開いた。
「公明正大であると思うが……、それを他に強要するから上層部に嫌われている。今回の王位継承で名が上がらないのはそれが理由だと思う」
「じゃあ軍人全員で第二王子殿下に着けばいいのに」
「……残念なんだが、将軍が第二王女殿下の夫でな」
「軍人が地位を求めるんか。すげえな」
「そうだな。俺もそう思うよ」
まあ北にリンデリアがあって、魔石の都合上このリンデリアを無視できない。南方はいつ戦争始めるかわかんない不穏な国となれば、確かに軍人の出番は多いだろうし、その関係で地位や権力が手に入りやすくはなるだろうけど。
「……俺は黒騎士達に感謝するよ」
「あー、みんな本当に興味ないですよね、そういうの」
「そうだね……」
「自分を鍛える事にしか興味向かないみたいだし。人より剣を上手く扱える事に夢中だし」
「……いちるも、いらないって言ってたよね」
「まあ、人の上に立つって向いてないんで」
そう言うのは、頭の良い人に任せるべきだと思ってる。
私には何人もの命を預かって、それを切り捨てなきゃいけない時があるとか無理だし。
その辺は、ヴィーが徹底してるから私が感情に走っても問題ないからな。つうか、それ見越した命令出してくれるから動きやすいし。
それに、そういう面倒くさくて大変なヴィーを見てたからこそ、そこには立ちたくねえって思っちゃうんだけどねえ。
「良く王位が欲しいなんて言えますよねえ」
「ふふ、それはね、何も見ていないからこそ言える事だね」
ヴィーがそう言って笑ってたけど。
それって、重い言葉だよなあって思ってしまった。




