第四話 ぶっ飛ばしてえ
フォルサスの南にはトクラノと言う小国があると言う。
魔獣の被害は少ないけど、替わりに恩恵に預かる事の無い何も無い国らしい。
「まあ、恩恵と魔獣ってセットですからねえ」
「おうよ。ま、モルト河の支流あってこその恩恵だからなあ」
「そっすねえ。でも、魔獣がいないってのは割りと魅力的ですよね」
「まあな。だがそれは資源があっての話だろ?」
「確かに」
確かにおっちゃんの言う通りなんだけどさ。
「……昔はな、トクラノって所とその東にあるサスフェースは、一つの国だったのさ」
ニヤリと笑ったおっちゃんが何を言いたいのか、良く解ったわ。
「トクラノが戦争準備始めてるって事ですか」
「そう言うこった。巻き込まれたくねえなら、こっから南西のハシャケラの方へ抜けた方が良い」
「勿論、引っ掻き回してえなら南に行けよ?」
「そんな面倒な事ごめんですよ」
「ははは、そうか。そりゃ残念だ」
よおく解った。コイツラ全員狸だ。
「戦禍に巻き込まれたくないなら、きっちり働けや、おっさん」
「やっぱバレタか。黒髪の姫が暴れてくれりゃあ、こっちまでは来ねえかなと思ったんだがなあ」
「働いてやってもいいですけど、それは報酬次第です」
「ほう?黒髪の姫は何を望むんだ?」
「そりゃあ勿論、」
「フォルサスの王位継承に口を出す権利。何てどうですかね?」
私の台詞を横から掻っ攫ったヴィーに注目が集まり、そしておっちゃんらに剣呑な眼差しを向けられる。
「……その報酬は高過ぎるよなあ?」
「そうでしょうか?我々には全く関係の無い事ですから、このまま素通りしても良いのですがね?」
「だ、だから無理にとは言ってねえさ」
「リンデリア第一王子から、現国王代理である第二王女にくれぐれもよろしくと言付けを頂いておりますが」
しれっとそう言うヴィーに、いつの間にそんな事になってたのかと思いつつおっちゃんらを眺めてた。フォルサスに入った時から見張られてたのか、それともここで待ち構えられてたのか。
「……ちっ、仕切り直しだ」
「いいでしょう」
おっちゃん達が食堂を出て行く時に「ご馳走様でしたっ!」と声を掛け、私もヴィーと二人で食堂を出て部屋に入り。
「野宿は狙われそうですね」
「狙って来ない方がおかしいと見るね?」
「ですよねえ……。要するに戦争に介入させたいって事でしょうからね、あれ」
「あわよくば利を得ようとしているし」
「まあ、それは国としては当然っつうか」
「そりゃ自分達だけで片を付けるなら何も言わないさ」
そこまで言われて気が付いたんだけど。
「もしかして、リンデリアの第一王子も関わってます?」
そう聞くとヴィーがふふっと笑って見せた。
あの野郎。
「まあ、リンデリアもフォルサスが戦争状態になれば色々と困る事になるからね」
「それはそうですけど」
「……フォルサスの現国王は今、病床に着いている」
「なるほど、それでか」
「王位争いに加わっているのが、第一王子と第二王女、そして第三王子」
「第三王子ってのはやっぱり腹黒いんですか?」
「やっぱりってどうしてかな?」
「いえ、ただ何となく?」
ま、そんな面倒な時に私が来たなら利用したくもなるって事か。
『黒髪の姫』なんて呼ばれてたけど、実際は違う呼び名なんだろうな、やっぱり。
「さっきのおっさんらって騎士ですよね?」
「だろうね」
「黒髪の姫って呼びましたけど、アイツら本当は何て呼んでんですかね?」
「……知りたい?」
「勿論」
ニッコリ笑ったヴィーを見てやっぱり知ってんのかと思いながら頷いた。
「黒き異端者」
あちゃーと言いながら片手を瞼の上に当てて空を仰いだ。
「もう一つが、黒き絶望」
「うわあ……、付けた奴の顔が見てみたいですね」
「そう?」
「はい。まだ悪の大王とか権化の方がマシですね」
何つう恥ずかしい二つ名を付けるかな。
「で?ヴィーは何て付けられてんですか?」
「……無いよ」
「へえ?」
返事をした後じいいいいいっとヴィーの顔を見ていたら、軽く溜息を吐き出して両手を上げた。
「…………天空の麗人」
宿の部屋がしんと静まり、微妙な気持ちになったのは何故なのか。
「いや……、何て言うか……」
「何も言わなくていいよ」
いや、だってさあ、何か『ああ、わかる』って思っちゃったんだって。
ま、この先ヴィーの綺麗さ加減が通じるかどうか知らないけど、他国でも異名を持つってある意味すげえじゃんかと笑ってしまった。
「どんな異名でも、他国にまで轟いてるとは思いませんでしたけど」
「……そうだね」
そう言って溜息を吐いたヴィーを見ながら笑みを作る。
「ところで私、面白がって噂を広めそうな奴を一人知ってますが」
「うん、間違ってないよ」
「やっぱりかあのクソ王子っ!」
あの野郎、牽制の為に色々吹き込みやがったな?
「いちるはどうしたい?」
「リュクレースまで来るってんなら相手になります」
「……さっきアイツらに言おうとした報酬は何だったんだ?」
「お?珍しいですね、解らなかったですか?」
「食べ物で受ける依頼じゃないからねえ」
「え、この国滞在中の全食事代を持って貰うつもりだったんですが?」
そう言うとヴィーが眉間に皺を寄せた。まあ、言いたい事は解るけど。
「……と言う事は、あの人達を鍛えるつもりだったか」
「くそ、やっぱ想像付いちゃいましたか」
にこりと笑うヴィーを見ながらそう言えば、ヴィーが頭を撫でた。
「尻を蹴り上げる予定だった?」
「いえ、尻穴を広げる予定でした」
バシッと頭を叩かれる。
「はい、お約束どうも!」
「……はあ。そうだね、いちるはそう言う奴だったね」
「いつだって全力でお相手しますよっ!」
「うん……、そうだね、全力でお相手しようか」
「はい」
はい、ヴィーのスイッチ入りました。
駒はヴィーと私で二つもありますからね、充分じゃないでしょうか。
「幸い、ここはまだリンデリア国境に近いからね」
「存分に扱き使いましょう」
そうして翌日。
朝っぱらから宿の前が騒がしく、アイツら他国に頼る気満々かよと朝食前のおやつを食べながら思う。
「おー、あれって第三王子ですかね?」
「そうだね」
「腹黒だったら面白いのに」
「そうだね、それなら楽しいのに」
って事は腹黒だけどヴィー程じゃないのか。残念だ。
「挨拶しといた方が良いですか?」
「面倒だから放置。会いたいのは第二王女だ」
「へいへい」
宿屋の屋根の上から眺めていた私達は、そのまま隣の屋根に移って行き定食屋の前で降りた。定食屋は朝から営業してたからラッキーって感じかな。
「仕事熱心ですね?」
「昨日のアイツらも見習えばいいのにね」
「ですよねえ」
そんな事を言いながら店に入れば、そこに昨日のおっさんらがいるって言うね。
「あら?」
「……よお」
おかしいな?この人達が第三王子に知らせたのかと思ったんだけどな?
「宿屋のあの騒動とは別部隊ですか?」
「まあな」
「へえ。あ、朝食ご馳走様です」
「…………代わりに今日付き合ってくれるんだろうな?」
「そうですねえ、一日中私に食べ物与えてくれるならいいですよ?」
そう言うとおっさん達は顔を見合わせた後、懐から巾着袋を出して中身を見せ合い。
「いいだろう」
「乗った。ごっさんですっ!」
満面の笑みでそう返し、定食屋のおばちゃんにお勧め五人前!と頼んだ途端、おっさん達はもう一度顔を付き合わせて巾着袋を見せ合ってた。
おっさん、勘違いしてる。
『一日中』ってのは食事代だけじゃなく、『おやつ代』も含むんだぜ。
「さて。おっさん達は何処に所属してんのさ?」
「……国王陛下だ」
声を潜めた問い掛けに、同じように声を潜めて返して来たおっさんにやっぱり手馴れてんなあと思う。運ばれて来たお勧め定食をあっと言う間に平らげ、もう一つぐらい食べようかなと言った私を、おっさん達は急かして店を出る。
「勘弁してくれよ」
「冗談だろ?手え出して来たのはそっちが先だ。非礼を詫びるってんなら話しは別だが」
「……頼む、大袈裟にしないでくれないか?」
「既に第三王子が動いた。これはフォルサス王家の意向と見做す」
ヴィーの前でそう言うと、おっさん達が顔を見合わせやり取りを交わし始めたので、畳みかけた。
「そちらは出し惜しみをするくせに、リュクレースの公爵をフォルサスの使者に仕立て上げようとしたその傲慢さ。見逃すと思ったか!」
そう言った私を宥めるように肩に手を置き、後ろへと追いやったヴィーが口を開く。
「それで?国王陛下はどちらに?」
ここまで言って動かないなら、フォルサスを見殺しにするつもりだった。
リンデリアに戻って、モルト河沿いから南下しても構わなかったんだけど。
「……ご案内致します」
おっさん達が相談した結果、こうなったらしい。
どうやら、リンデリアの出番は無くなったらしいけど。たぶん国境付近に第一王子の配下が潜んでんだろうなあと思うと、帰り掛けにも寄って行こうと思う。
「楽しみですね?」
「そうだね」
そんなやり取りを交わした後、おっさん達と一緒に町を出た。




