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第三話 面白いの定義がずれたようです

「無事に戻ってリンデリアにも情報をくれ」

「考えておきます」

「そんな事を言うなら、もしどこかが攻め入って来たら素通りさせるぞ?」

「それ、楽で良さそうですね?」

「なに?」

「共に滅ぼしてしまえば楽ですね?」


 ヴィーが笑いながらそう言えば、第一王子が気まずげな顔をして視線を逸らし。


「……旅の無事を祈っている」

「ありがとうございます」


 互いに笑い合って挨拶をし、そうしてヴィーと二人でリドルを操って第一王子の離宮を出た。リンデリアは、この第一王子がいる限り良い国になるだろうなあと思う。

 離宮沿いにある森へと抜け、そちらから街道へと出てからリドルを軽く走らせた。

 

「いちる、仕方ないから少し働いてから行こうか」

「ああ、魔獣倒しますか?」

「少しね。リンデリアの南西にあるカララエの森って所が、昔から魔獣が発生しやすいんだよ」

「へえ。本当にフォルサスへの入国許可出たんですか」

「まあね。あの方は、国益の為には何処にでも潜り込む」

「油断しちゃ駄目だって分かってても、つい許しちゃうって言うか。変な人ですよね」

「そうだね。まあそれも、王族としては必要な能力だね」

「……確かに」


 次期国王として、かなり優秀とわかる方だ。

 第四王子が異を唱えた事があったらしいけど、まあ、それがきっかけとなって第一王子の次期国王の座が確約されたらしいし。

 あの時はリュクレースでも楽しませて貰ったからな。


「そういや、第四王子ってどうなったんですかね?」

「さあ?ただ、噂ももう、聞こえなくなったね」

「まあ、そうでしょうね」


 第四王子の独断で行われた事とはいえ、国を違えた時点で国同士の事柄に変わるからな。そこをちゃんと理解出来なかったのが、第一王子との差で。それが同じ兄弟とは言え、雲泥の差を付けてしまった。


「ヴィーは、王様になりたくなかったんですか?」

「そうだなあ……、宰相辺りなら考えたかな?」

「あー、何かわかる気がします」

「そう?」


 クスクスと笑えばヴィーも笑って返して来た。

 

「さて。いちるの腹が大人しい内に魔獣狩りをしようか」

「はい」


 黙って国を通らせてくれる対価として、カララエの魔獣狩りくらいならお安いもんだ。

 

「あ、リンデリアにはヨルガはいませんよね?」

「たぶん?」

「ならいいや。ヨルガが出るとキツイですからねえ」


 アイツには何度も苦戦させられてるからなあ。

 本気でアイツの大繁殖防ぎたいんだけど、中々上手く行かずにいる。


 私の言葉にふふっと笑うヴィーを眺めていると、ヴィーが何でもないよと返して来た。


「……ヴィー、そう言うのって突っ込み入れられるのを期待してるんですか?それとも、放置プレイがお望みですかね?」

「んー、いちるが相手にしてくれるのならどっちでも良いかな?」

「そ、そう言う事言って誤魔化そうってパターンですかっ!?」

「違うよ。いちるは変わらないなあって思っただけだよ」

「またそうして莫迦にする!私だって成長してますっ!」

「うん、そうだね」

「な、なんですかその軽いあしらい方はっ!」


 結局いつもこうして私がムキになってしまうのがお決まりのパターンだ。


「あしらってる訳じゃないよ。ただ、改めて思ったんだよ、いちるが来てくれて良かったってね」

「……改めて妻を口説くとかっ」


 本当に、本気で嬉しそうにそう言ったヴィーに、何も言えなくなった。

 リドルにしがみ付いて赤くなった顔を隠せば、リドルが『ぬううっ』と鳴く。


「いちる?折角だから顔を上げて欲しいな」

「…………行きますっ!」


 いつだって一人で余裕扱きやがってと思いながら顔を上げ、じろりと睨み付けた後リドルの腹を蹴った。リドルのいつもの速さからはまだ余裕を持った速さで走らせたって言うのに、カララエの森まで競争になったのは私のせいじゃないと思う。


「さて。数を減らしておこうか」

「八つ当たりしておきます」


 そう言いながら抜剣してリドルを操れば、ヴィーが後ろから笑いながら着いて来た。


「今の時期に繁殖してるって言うと、イエードですかね?」

「そうだね。あれは集団で動くし、巣穴も集団で固まるらしいから繁殖しやすいみたいだしね」


 イエードってのは猪によく似てると思う。ただ、猪よりもっと頑強でヤバいし、防御の魔法が使えるからそれを纏って突っ込んで来やがる。コイツが大繁殖すると、村とか街を襲うんだよね。防御壁を作ってもそれを壊して入って来るからなあ。


「通常の繁殖と大繁殖の、その違いというか時期が分かればいいんですけどねえ」

「次期も一定じゃないし、気温差による物とも違うらしいからね。中々難しい」

「ですねえ。食べ物の差でもないようですから何が大繁殖に繋がるのかが解らない」

「……イエードが通った所には、何も残らないからね」

「…………はい」


 リュクレースの一般騎士が国中の色んな所に配属されるのは、町や村を守る為だ。出来れば家や農地も守りたいけど、まずは命を守るのが先になる。そう言う、命の危機が常にある世界だからこそ、奪い取る事を考えてしまう人が出て来る。

 だからこそ、私は剣を握り締めて来た。


「いちる」

「はい」

「大丈夫だよ。黒騎士の強さは守る為の強さだ」


 剣柄を握っていた手を放し、顔を上げる。


「当然です。守り抜かなかったらぶっ飛ばしますし」


 ヴィーも私も、黒騎士共を信じて国を出て来た。

 アイツらなら、ちゃんとリュクレースを守り切れるって、信じてるから。


「ヴィー、そろそろ出て来そうじゃないですか?」

「そうだね、イエードが好みそうだねえ」

「国を違えど魔獣は関係ないですからね」


 イエードの好みの巣穴ってのは、たくさんの腐葉土があったり枯れ木があったりする場所だ。水場からそんなに離れていないってのも条件の一つ。

 ただし、守りの魔法に徹するだけあって、魔力検知をすると一発でバレるおまけ付き。


「どうします?」

「リドルの足音は感じているだろうから、たぶん、これ以上進めば出て来るね」

「ですよねえ。ってか、ボコボコ穴開いてるから繁殖してますね」

「……半数に減らそうか」

「わかりましたっ」


 減らし過ぎず増やし過ぎず。

 全滅を避けるのは当然として、穴一つで大体六から七体。見える範囲で言えば穴の数は三十近かった。


「イエード百体か。一人五十なら余裕」

「怪我はするなよ?」

「莫迦にすんなよ?」


 リドルから降り、拳を軽くぶつけあった後抜剣する。

 

「行きますよ?」

「いいよ」


 軽い返事のヴィーに苦笑しつつ、魔力検知を掛ければ巣穴からあっと言う間にイエード達が飛び出して来て、一気にこちらに向かって走って来た。

 一撃で殺す為には額に剣を突きさすのが一番早い。最初から双剣で戦いながら、イエードの突進を避けつつちらりとヴィーを窺えば、相変わらずな瞬息剣を振ってた。

 あの野郎、いつかあの剣超えたいわ、ちくしょうめ。

 

 一度私を通り越して行ったイエード達が、反転して戻って来る。魔獣の癖にちゃんと突型で突っ込んで来る所がすげえよ、ホント。学習能力がある所が怖いんだよなあ。


「よっしゃっ!」


 イエードに突っ込んで行きながら自分も防御魔法を展開し、薙ぎ払いながら数を減らして行けば、ヴィーが私の防御魔法を強化しつつ取りこぼし分を切ってた。

 そうして二人で二往復した辺りで空に舞う。


「そろそろいいですかね?」

「そうだね。目標数は倒したよ」

「ですね」


 イエードだけは前もって減らしておかないと、本当にヤバいからなあ。

 空に浮かせておいたリドルまで浮き上がり、そうして跨って空を駆け、カララエの森を離れてから下に降りた。


「義理は果たした。今日中に国を出よう」

「ですね。これ以上世話になると今度は何を押し付けられるか」

「そうだね」


 顔を見合わせ苦笑した後、入国許可を貰ってあるフォルサスへの最短を駆け抜け、夕方にはフォルサスへと入る事が出来た。


「どうでもいいけどお腹減った!」

「そろそろ言うと思ったよ」

「最初の街で何か食べますっ!決定ですっ!」

「村が二つあるはずだけど?」

「村じゃ食べ物無くなっちゃうじゃないですか」

「……なるほど」


 そう言ってクツクツと笑うヴィーとリドルを走らせ、暗くなる前に街に辿り着けたのはリドルのお蔭だ。お腹が減り過ぎてヤールさんが用意してくれたパンは喰い尽しちゃったし、ここで新たに調達しておいた方が良さそうだ。


「何が食べたい?」

「なんでもいいです。とにかく噛り付ければそれで」

「なら食堂と宿が一緒になっている所にしようか」


 こくりと頷き返しながら、宿屋を探して当ててさっさと部屋を取り、食事にありついた。味的には大した事無いけど量があるならそれでいい。出された傍から空になる食器に、定食屋にいた人達が目を丸くして眺めてたけど。


「ふいー。取り敢えず落ち着きました」

「良かったね」

「はい。明日は焼き菓子でも見付けに行きましょう」


 笑いながら頷くヴィーと、次は酒と肴だと注文すれば「まだ食うのかよ!?」と食堂内から声が上がり、何故か酒を奢って貰ったり、肴を奢って貰ったり。やっぱり酔っ払いのおっちゃん達は何処の国でもあんまり変わらないですね。


「なあ兄ちゃん、こんなに食う女、何処で見付けたんだよ」

「拾ったんですよ」

「落ちてたんか」


 そう言ってどわっと笑ったおっちゃん達と乾杯しながら笑い合う。

 フォルサスまではリュクレースの名は通じるけど、この先はもう無理だろうなあ。リュクレースの名前が通じるって事は、まだ栄えている方って事だ。

 

「大量に食うから捨てられたのか?」

「食い扶持稼いでも稼いでも足りなそうだもんなあ」

「しかも酒まで飲むと来ちゃあ、大変だろう」

「違いねえ」


 おっちゃん達はどうやら私の食いっぷりと飲みっぷりを気に入ってくれたようだ。こういう人達は大抵良い人だ。


「どっから来たんだ?」

「リンデリアからですよ」

「へえ?何でまた隣国から」

「色んな国を見聞したくて」

「そらあまた、酔狂だな」

「ははは、良く言われます」


 笑いながらそう返せば、おっちゃん達の何人かが顔を見合わせてた。

 なあんか、楽しい話が聞けそうだなあって期待しちゃうのは職業病ですかね。


「……ここから何処へ行くつもりだ?」

「決めてないです。お勧めはありますか?」


 今度はおっちゃん達全員が顔を見合わせるのを、つい、ニヤ付きながら眺めてしまって慌てて顔を引き締める。目の前で変わらずに微笑んでいるヴィーを見習わねば。


「一つ、忠告しておいてやるよ」


 そう言って声を潜めたおっちゃんに、真剣な顔を作りながら顔を突き合わせた。


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