少年と松田さん
学年末テストという
最後の仕事を終わらせていました。
咲子さんと蒼くんを
長い間、放置してすみませんでした。
「どのような御用件でしょうか?」
松田さんは
痩身で頼りない体つきだったが
その目は鋭く
口もへの字で頑固そうだった。
今だって
言葉使いだけは腰が低いが
その語気は強く怒られているようだった。
私は
悩みに悩んで
直球で勝負することにした。
「神隠しの件です」
すると
松田さんは口元を緩めた。
それが笑ったのだと
分かるのに長いことかかった。
「あんたもそれか」
「そういうことですか」
「あれだろ。
私が神隠しにあった子と
何らかの関わりがあると思っているんだろう」
「関わりといいますか・・・。
松田さんはその子を虐待から救ったんですよね」
「何も知らないよ。
まして救ってなんかいないさ。
あれを見つけたのは私の妻だ」
「松田さんの奥さん?」
「もっとも、愛想をつかされ
5年程前に出て行かれたがね」
「奥さんも松田さんと同じ職業なんですか?」
「いや、妻は専業主婦だよ」
「どうして虐待なんか分かったんです?」
「それを君に説明する義務があるのかな、私に」
松田さんは
鋭い眼差しで私を睨みつける。
い、いかん。
ここで弱ってしまっては。
蒼くんも
不安そうにこちらを見ている。
「私、神隠しについて知りたいんです」
「何で?
君はこの街の人間じゃないだろう。
困るんだよね、好奇心でそういうの」
「いえ、違います。
頼まれたんです」
「誰に?」
「幽霊です」
「・・・はぁ?」
蒼くんも
同じような表情を浮かべる。
「ねぇ、咲子さんて
どうしてそんなに馬鹿なの?」
う、うるさいわね。
理由なんてそれだけよ。
「幽霊ってどんな?」
完全に馬鹿にした口調で
松田さんは私に尋ねる。
「えっと、浮幽霊で。
10代後半くらいの男の子です。
見た目だけは男前ですかね」
私は隣にいる
蒼くんの特徴を事細かく説明する。
「あと、学ラン着てます。
学生で死んだんですかね」
松田さんは
しばらく黙ったあと
「私たちの家とその家族の家は近所で、
昼間に子どもが訪ねてきたそうだ」
「なんて?」
「お母さんに殺される、てな」
息を飲んだ。
蒼くんは
顔を伏せて何か考えている。
「ノイローゼだったんだ。
そのお母さんも悪くはなかった。
子どもを一人亡くしていた」
「事故ですか?」
「さぁな、詳しくは知らんよ。
妻は私に相談してきた。
それから、私はその子に家に行って
虐待されいるか調査してきたんだ」
「それで・・・?」
「それがなぁ、痣は確かにあったんだが。
児童福祉に掛け合わせたら、
虐待にする材料には足りないという判断でな」
「保護されなかったということですか」
「あぁ。上にしてみれば厄介だしな。
しかも、こんな小さい街だ。
設備もほとんどない」
「子供が神隠しにあったのは?」
「それから数ヶ月後だよ」
松田さんは
遠い目をしていた。
辛いのかもしれない。
保護できなかったことが。
「あの、あとの2人については
知っていますか?」
「神隠しにあった?」
「はい」
「んー、知らねぇなぁ。
聞けばどうだい、自分で」
「神隠しにあった家族にですか」
「あぁ。
場所なら分かるぜ。
小さな街の事件だから話題になったんだ」
松田さんは
住所を書いて渡してくれた。
「あ、そういえば。
その虐待にあってた子、名前は?」
「優衣ちゃんだよ、山本」
「山本優衣・・・分かりました」
お辞儀をすると
早々に他の2人をあたることにした。
「まぁ、お嬢ちゃん。
あんま深追いはやめたほうがいいかもしれねえかもな」
窓の外に見える
名前を聞き忘れた女性を見る。
彼女は霊感があるなどと言っていたが
あながち嘘ではないのかもしれない。