飛ばされる世界を間違えたようです
さて、自分には一人血を分けた家族がいる。いや、両親も健在だが、血の繋がりが一番強いのは間違いなく一人だ。つまり、自分は双子なのだ。二卵性のため少しはずれているが、それでも一番自分に近い存在は相手だと胸を張って言える。だからこそ、思うのだ。
―――あの、呼ぶ方間違えてないですか?と。
田坂美和と田坂和樹は双子の姉弟だ。二卵性であるため多少の外見の違いはあるが、それでも並べば家族であると誰もが納得して頷くだろう。また外見だけではなく、内面もよく似通っていた。それはそうだ。生まれたときより常に並んで動いて経験してきたのだから、似てくるに決まっている。
年頃という多感な時期になりながらも、美和と和樹は普通の姉弟とは違い性差で気まずくなる事もなく、今日も仲良く並びながら家路を歩いている。
「和樹和樹!さ、急いで本屋行くわよ。今日は?」
「もっちろん、新刊の発売日だろ!」
「一人で買い揃えると財布的にもきついけど、ああもう、同じ趣味趣向のの弟がいてよかったわー」
「こっちこそ財布に優しい姉がいてよかったよ」
互いに半額ずつ出し合い、共同の本棚を作成して自宅の土地をだんだん侵食している姉弟は楽しそうにそうして言葉を交わして。
ずるりと同時に足を滑らせた。
「――え?」
「は?」
一瞬、何か地面に落ちていた紙か金属の板でも踏んだのかと思った。何せここ数日は晴天。水溜りですべるなどもコンクリートのためありえないからだ。
うわ、漫画みたい、と後ろに倒れている自らの体を思い、そうして全く自分と同じ動きで倒れていく片割れを見て、二人は同時に思った。
―――双子だからって、同時に滑るとか、不運すぎるだろ、と。
誰かこのシーン撮影してくれないものかなあ、と暢気なことを二人は考えていたが、いつまでたっても衝撃がこない。
あれ、と思い両者とも閉じていた瞳を開けると。
頭から謎の空間を落下していた。
「…?」
「はい?」
想定外の現状に戸惑った双子は、とりあえず誰よりも信頼できる片割れに手を伸ばそうとして。
瞬間、視界が真っ白に染まった。
―――で、今に至るわけだけど。
もはや日常になっている現実逃避を終え、田坂美和は閉じていた瞳を開け、変わらない現実にため息をついた。
「ちょっと!何ため息をついてるのよ!もっとやる気出しなさいってば!」
「――五月蝿い」
美和の冷たい言葉に、きらきらと輝く金の髪をツインテールにした気の強そうな顔立ちの少女は、何ようと目元にわずかに涙をにじませた。
「わ、私間違ったことなんていってないじゃない!」
「まあまあリリーナちゃん。ほら、笑顔笑顔ー。女の子はあ、笑顔が大事よう?」
叫びを上げた少女を、薄水色の長い髪のお姉さん風な女性はのんびりと諭す。それに対し少女はむむ、と眉をしかめた。
「貴女も美和も!のんびりしすぎなのよ!私たちには陛下から頂いた大事な使命があるんだから!」
声を上げる少女と、あらあらと笑う女性。そうして少し離れた位置で本を読みながら歩く不思議系の少女。前方には、このグループの先頭を歩き周囲への警戒を怠らない女騎士。
ああ、なんて個性豊かな面々か。
異世界から呼ばれた私は、今こうして美女や美少女たちと旅をしている。それにしても、どうして異世界から人を呼ばないといけないような任務だというのにメンバーは女ばかりなのか。
異世界トリップ、勇者召喚系。
過去読んだ小説たちを思い返し、美和は瞳を閉じた。
普通、呼び出された選ばれし者は、女なら逆ハー、男ならハーレムではないのだろうか。
―――これ、逆じゃね?
この立ち位置を喜びそうな弟の姿を思い返しながら、美和は理不尽であるとまたため息をついた。
美和は正真正銘の女なので、こうして個性豊かな女性人に囲まれても嬉しくもなんともないのである。
ちなみに、遠い世界で弟の和樹は個性豊かな美青年美少年パーティに囲まれ、くしくも姉とほぼ同時に「これ逆じゃね?」と呟いていた。
ちなみに弟の周りは美形で個性豊かな従者(男)がそろっており「どこの乙女ゲー?」な状態で、姉の周りは美形で個性豊かな従者(女)がそろっており「どこのギャルゲー?」な状態です。