第08話 冒険者登録試験
冒険者カードというのは、冒険者しか保持することは出来ない。
多種多様に棲息している凶暴な魔物の討伐。簡単な依頼を受けるというだけでも、治安の悪い地域を通るには自衛能力が求められる。
死亡率も非常に高い。
冒険者の多くが、高度な戦闘技術と知識を持っている。だが、それだけ危険な職業であるということだ。
「では、簡単に試験の説明をしますね」
「はい!」
冒険者ギルドの地下一階。
受付嬢のセレカは、レクセイナと名乗った女の子に冒険者登録試験の説明を始める。
特別に、冒険者登録をせずとも、レクセイナに冒険者カードを与えると言ったのは嘘だった。
下っ端受付嬢に、そんな権限はない!
小石どころか、その辺の砂粒よりも小さな権力しか持っていないのだ。
冒険者になる際に必ず通過しなければいけない試験は、危険な冒険者という職業で無駄死をできるだけ減らしたい、冒険者ギルド本部が定めたルール。
一介の受付嬢のセレカが、上が決めたルールを破れるわけなかった。
せいぜい後輩の休憩時間を10分延長するぐらいが、セレカの持つ権力の上限値だ。
虚しい。
偉くなって、サボりたい……。
「あそこに見える、棒が見えますか?」
実際に冒険者になれるかどうかの合否は、向こう側の壁で呑気に座っている契約した冒険者が行うが、試験までの説明は受付嬢の仕事だ。
セレカに冒険者登録試験であることを伏せられて、騙されているとは露知らないレクセイナが、ノリノリの様子で棒が置かれた訓練場の中央に立っている。
僅かに残された純真な心が痛むが、これも自分の昇格のためだ。スカウトした人物が、後々に活躍すれば自分の昇進の点数に加算してもらえる。
騙されて頂きますよ、レクセイナさん。
「試験の内容は簡単です。そこにある棒は、当たった攻撃を測定する魔導具です。そこ棒に魔法でも、剣でも、拳でも良いので、とにかく攻撃をして下さい」
レクセイナがセレカの話を聞いている今でも、明らかに隙だらけの初心者のように見える。とても、なんだか弱そうだ。チンピラ相手に、初心者とは思えない精度の魔法を使ってたけれども。
「合否は、魔導具で測定された数値と、あそこにいる冒険者の試験官が不正がないことを確認して出します」
壁に背を預けながら、気怠げに向こうで座っている試験官の冒険者を指差す。
中年にさしかかった男が、適当に手を振って返した。
立ち上がって、試験を見るつもりはないらしい。
あそこからでも試験は見えるから、動かなくて良いと思っているのだろう。羨ましい。私も早く昇進して怠けたい。
「では頑張って下さいね。もう撃ち込んで大丈夫ですよ」
攻撃が当たらないように訓練場の脇まで移動したセレカが、レクセイナに告げる。
「はいっ! 分かりました!!」
レクセイナは頷いて、受付嬢の親切なお姉さんから視線を戻す。
広い訓練場の中央に建てられた棒は、金属で出来ているように見えた。
背丈ほどの高さがある棒は、見た目からでも丈夫そうで固そうだ。
冒険者カード、欲しいっ……!
ある程度の魔法を使わなければ、壊すのは厳しいだろう。下級魔法では威力が弱い。
中級魔法を2つ重ねすることで、魔法の威力を強力に底上げして棒をぶっ叩き壊す……!! 手に入れろ、憧れの冒険者カード!!
「【火魔法・ファッーシ】、次いで【水魔法・レセマ】!!!」
「「なっ?!?!!」」
広い地下一階の訓練場に、轟音が響き渡る。
火が瞬間的に爆発。生命を焼き尽くす意志を感じさせるような赤光が、棒が立てられている場所で爆破するのが一瞬見えた。
地面に敷かれていた土が舞い上がり、訓練場を一瞬にして覆い隠す。
自分の遙か予想を超えて、強かったレクセイナを見たセレカは、感動しながら爆風に耐えきれずに後ろへ吹っ飛ぶ。
予想もしなかった常識外れの威力に、気怠げに座っていた冒険者は慌てるように立ち上がり、土煙の中で目を凝らした。
な、なんなんだ??! この、とんでもない威力は!!!
F級になるために、冒険者試験を受けるような半人前の初心者が放つような練度の魔法じゃない。
それでこそ、長年に渡って地道に経験を積んできた冒険者たちが、渾身の魔法として放てるか、放てないかのレベルだ……!
試験官の冒険者は、今見た魔法の威力の強さに驚愕した表情を貼り付けていた。
魔法で巻き上げられた砂埃が舞っている中心。
だんだんと視界が開けてきたレクセイナは、目の前の棒を見て不満足そうな表情を浮かべた。
「うーーん、まだ足りないかぁ……」
金属の棒は、半壊していた。
木属性の魔法と一緒に【火魔法・ファッーシ】を行使したことによって、高温の炎に包まれたからだろう。
棒の頂点の部分は完全に溶解していて、表面の金属もだいぶ溶けている。流れ溶けた金属が地面まで滴り落ちて、ジュっと音を立てていた。
だけど、まだ足りない。棒が立ってる。
冒険者カードが欲しいのだ。これで、試験が不合格になってしまえば、もらえなくなってしまう。
せっかく冒険者登録をせずとも、試験に合格すれば冒険者カードをくれると受付嬢のお姉さんが言ってくれているのだ。貴重な機会を逃したくない。お土産に冒険者カードが、何としても欲しい!
レクセイナは追加の魔法を放つべく、片手を軽く上げて魔力を再度練り上げる。
室内では威力が強過ぎるため、中級以上の魔法は使わないが、レクセイナは外の世界では滅多に見かけることの出来ない、上級魔法の使い手だ。
精密かつ大胆な魔力の練り上げが、試験官の冒険者と受付嬢がレクセイナに言葉をかける前に行われる。
「「忘れきれない羨望に」【水魔法・シレース】!」
ほとんど溶けて倒れかかっている棒に、さらなる追撃が行われる。
最初の火爆によって温められていた訓練場の室温が、一気に低下。肌寒く感じたと思いきや、冒険者と受付嬢の耳に響き渡る高音の金属音。
「よしっ! やったー!」
魔法の威力は十分だったようだ。
放った魔法によって、溶けていた棒が上下に真っ二つになり、棒の上部が地面に落下していた。
これならば、きっと試験にも合格できるはずっ!
レクセイナは結果を仰ぐように、試験を見守ってくれていた冒険者の男と受付嬢のセレカを見た――――。




