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新時代の最強英雄 ~支配されていた監禁令嬢、伝説の魔法〈秘奥義〉で無双する~  作者: 雪柳 澄
1章 監禁魔法からの脱走。

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第07話 冒険者カード

「…………」


 面倒くさいのに捕まったな、と思った。


 穴が所々に開いているボロボロな服装に、手入れのされていない見た目だけが派手な武器。


 多くの冒険者で賑わっているギルドの中を、少し視線を下げて歩いていたが、広い建物の中だ。


 明らかに男の方から、レクセイナにわざとぶつかってきていた。


 そして男が出した大声に、周囲からの視線が一気に集まっている。少し珍しい光景なのだろう。トラブルに驚いている視線に、余興として観戦する野次馬。


「はぁーっ」


 レクセイナは、目立つつもりは無かったのだ。


 公爵家の娘がお忍びで街を訪れていることが、バレてはいけない。ひっそりと他の人に混じるように観光するつもりなのだ。


 肺の空気と一緒に吐き出したため息は、聞こえなかったらしい。


 薄ら笑いを浮かべた男が、顔を上げないのレクセイナの顔を屈むように覗き見てくる。


「なぁ? 何とか答えろよ。いい顔しているからって、気取ってんじゃねえよ」


 男がちょっかいを仕掛けたのはレクセイナが遠目から見ても分かる位に綺麗な女の子だったからだ。


 健康的で日焼けした豊満な女も良いが、たまには透き通るような白い肌に、控えめでありつつ、しっかりと強調された美人の胸もいい。


 目の前に立っているだけで、若い女からは可憐に咲き誇るような花と、甘いくて良い匂いが漂ってくる。


 高価な物で普通の冒険者には手に入らないが、話に聞いたことのある香水か?


 だが何よりも、可愛い女が困った表情をして、目元に涙を浮かべながら弱々しく俺に反論しようと健気に頑張る姿が見たかったのだ。


 男はレクセイナが冒険者ギルドに訪れて、他の冒険者に受付カウンターを尋ねるところから見ていた。


 右も左も分からない初心者だ。


 経験を積んだ冒険者ならともかく、荒事に慣れていない雰囲気を出している女なら、男も勝てると思った。


 少し視線を下げたまま、なかなか口を開かないレクセイナに男は愉快そうに口元を釣り上げた。


 誰も近くにいる冒険者たちは、レクセイナと男を助ける様子はない。興味深そうに、2人を傍観しているだけだ。


 それを見たマントを被った男は、見ていられずに男を制止すべく席を立って声をかけようとする。


 手前に座っていた仲間の男が慌てたように小声で何かを言うが、マントの男が気にした様子はない。


 チンピラに絡まれているのが初心者なのは一目瞭然で、それを黙って見ているほど、マントの男は自分の心を捨てたわけじゃなかった。


「おい、ちょっとお前……」


 遠くの席から、声を上げながら制止に向かおうとする。


 だがマントの男が2人の間に入って止めるよりも前に、視線をこれまで下げたまま、黙っていたレクセイナが動く。


「私の邪魔、しないでくれる?」


 怒気を孕んだ低めの声で言い放った後に、そのまま下級魔法を演唱。


 突風を巻き起こす木属性の魔法だ。範囲を厳密に調整した。チンピラの相手では、避けるのも難しいだろう。


「……うわぁっ?!」


 男の間合いから安全圏まで距離を取る頃には、相手は突然巻き起こった突風に体勢を崩し、無様に床へ両手両足をついていた。


 それでも自分が見くびって、因縁をつけた相手に負けたくないのだろう。


 諦めずに床から立ち上がって、拳を握った男が殴りかかろうとしてくる。ギルドに居たと言うことは、男も冒険者なのだろう。


 戦いを専門としている男の拳を受ければ、鍛えていない私は大ダメージを負ってしまう。部屋に閉じ込められてばかりで、まともに運動してこなかったのだ。


 運動をサボってきた事に関しては、もはや自信を持っていいレベルの域にある。


 だが、私は数代前まで国内随一の魔法使いを長年輩出してきた、アレノダス公爵家の血を継いでいる直系の娘だ。


 高名が他国まで轟くような魔法使いを輩出していたのは数代前までで、今は没落寸前だったりするが、それでも魔法において、血筋による才能というのは侮れない。


 そして魔法使いは、肉体を鍛えずに運動をサボっていたとしても、――――強いのだ。


「【水属性・シフィード】」


 レクセイナは諦め悪く殴りかかろうとしてくる男に向かって、圧縮した水をお見舞いしてやる。


「ウガッ!」


 勢いよく噴射された水の直撃を食らった男が、後頭部から倒れる。


 死んだ虫ケラように四肢が脱力した格好をレクセイナに見せることとなったが、男はそれでも諦めない。物分かりが悪かった。


 そして、レクセイナは男に舐められたのがプライドに触っていた。


 貧弱な見た目をしているとしても、実際の強さと言うのは違うのだ。見かけで私を判断すると痛い目に遭うと言うことを、思い知ればいい。


「【水魔法・レノバレバ】」


「くっ、いや俺はまだ……!」


「【木魔法・ラレウッド】」


「うわぁ……ぁ!!」


 立ち上がると同時に醜態を晒していく男を、レクセイナは見下して軽蔑するような冷たい視線で追い詰めていく。


 次に己の身の程もわきまえず、立ち上がってきた時には何の魔法を撃ち込んでやろうかなぁ……と呑気に考えていると、男が床から絞り出すような声を上げた。


「わ、悪かった! 俺が悪かった! 許してくれ!!」


 私は冷たい視線を、床にいる男にツーッと向ける。


 殺してしまうと衛兵が来てしまうので、下級魔法と中級魔法を上手く使いながら威力を手加減していたが、男は最初からボロボロだったものの、さらに磨きをかけてボロボロになっていた。


 鋭い風の刃や高圧の水を当てられたことで、男の体には血が少し滲んでいる。


 男も充分に思い知っただろう。


 これ以上はやらなくても良いはずだ。


 私は男をブチのめす為に、手元に待機させていた魔法の魔力を切って、男に私の目の前から立ち去るように告げる。


 転ぶように慌てて逃げていく男の背中を見送りながら、さてどうしよう、と考えていると、後ろから声が掛かる。


 振り返ると、先ほどの紺と白の制服を着た受付嬢だった。


「やり過ぎてしましました?」


「いえいえ、あの男なんか同然の報いを受けただけですし、ギルドから何か争い事に口を挟むことは致しません。日常茶飯事ですし、対応していたらキリがないので」


 さすがに男を痛めつけ過ぎたかなと心配するが、それは杞憂だったようだ。受付嬢は、なんてことないように流す。


「それよりも、ちょっと簡単な試験を受けてみませんか?」


「試験ですか?」


 魔法の凄い実力者だと言うのに、それに対して知識を全くと言うほど持っていないレクセイナの表情を見ながら、受付嬢は営業で身につけた笑顔を最高に貼り付けて言う。


「はい、もし試験に合格できましたら、特別に冒険者カードを差し上げます。よろしければ、試験を受けてみませんか?」


「本当ですかっ!?」


「これは、特別ですよ。どうしますか? 冒険者カードが欲しいんですよね? 試験を受けてみませんか?」


「はいっ!! 受けます!」


 冒険者カードがお土産に欲しかったレクセイナは、渡りに船の話に瞳を輝かせながら、勢いよく承諾した。


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