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新時代の最強英雄 ~支配されていた監禁令嬢、伝説の魔法〈秘奥義〉で無双する~  作者: 雪柳 澄
1章 監禁魔法からの脱走。

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第32話 定められた運命

 己が勝利することを確信するかのように、ボスの魔物は悠々とした足取りで、尻尾をご機嫌に揺らしながらやってくる。


 泥にまみれて地面から見上げるボスの巨体は、それだけで圧倒的だった。


 敗北の運命を宣告するかのようだ。


 それでも、レクセイナの眼に宿る光は消え失せない。


 冒険者カードを握りしめる。


 服の内側に、紐で首からぶら下げていた冒険者カードは、確かにそこに存在があって、レクセイナが冒険者の一員であることを証明してくれている。


 そうだ。私は冒険者になった。憧れていた冒険者になった。過去の自分が絶対不可能だと考えていたことを、成し遂げた。


 幼い頃に本で読んだ冒険者は、少しの強敵に直面しただけで、諦めただろうか?


 否。最後まで諦めることは、決してなかったはずだ。


 だから、私は絶対に諦めない――――!


「【水魔法・レノバレバ】」


 僅かながらの冒険者生活の中で、一番使い慣れた氷剣の魔法を使う。


 普段のレクセイナからは想像もできないほどの、戦意の篭もった魔法が放たれるのと全く同じ瞬間に、ボスに多種多様な魔法が一斉に叩き込まれる。


「――――えっ?」


「おい! もっと火属性組、気張って魔法をブチ込めよ!」

「やってるぜ~? 火属性の魔物を、火属性で殺すのが一番快感だろ??」


 ボスの周りを取り囲みつつも、バンダナの冒険者が戦線を離脱した際に、同じく離脱していたはずの、冒険者たち。


「それよりも木属性組。張り切り過ぎじゃない~? 最初から飛ばして、あとで魔力切れになっても、知らないからね??」

「うるせぇ! こっちは誰かが最初から最後まで飛ばして、魔力が有り余っているんだよ!!」


 魔物のボスが来るまで、私が戦っていた防衛線の場所にいた冒険者たち。


 私が気づかないうちに、ライオンの逃げ道を防ぐかのように取り囲んで、木属性、水属性、火属性など、属性を無視して片っ端から魔法を撃ち込んでいた。


 そして、あんなにも魔法が効きづらいと思っていたボスに、着実にダメージを与えられている。


 威力の小さな魔法が、一分の隙間もなく遠距離から撃ち込まれ、少しずつだが着実にダメージを負っている魔物は、苛立たしそうに咆哮を上げた。


「えっ……? ええ?」


 覚悟を決めて、再び攻撃を開始しようとしていたレクセイナは、状況が飲み込めずに頭を傾げて、その場に立ち尽くす。


 その間にも周囲の冒険者たちは、攻撃を続けていて、積み重なっていくダメージを看過できなくなったボスが、レクセイナの目の前から去っていった。


「俺たちにも、見せ場をくれよ。なあ、お嬢ちゃん」


 状況を理解しようとするあまり、行動停止していたレクセイナの元へ、一人の中年男性がやってくる。


 腰や背中に何本も剣を持っていることから、剣士だろう。無精ひげを生やした顔で一見怖そうに見えるが、人当たりの良さそうな表情で近づいてくる。


「んで、名前は?」


「レ、レクセイナです」


「ふむふむ。お嬢ちゃんの名前は、レクセイナか。レクセイナ。うーん、可愛い名前だな」


 押された様子で名前を言ったレクセイナに対し、中年冒険者はマイペースにレクセイナの名前を口の中で反芻しながら、無精ひげを片手で掻いた。


 少し考えるような素振りを見せるかのように、若干視線を宙に飛ばした後、真っ直ぐに自分よりも遙かに年下のレクセイナをちらりと見た。


「じゃあ、そろそろ集団戦をしようぜ? レクセイナ」


 無精ひげの男は、楽しそうにニヤッと笑った。


「通常魔物って言うのは、複数人で戦うのがセオリーっていうもんだ。レクセイナ嬢ちゃんは強いから一人でも、まぁ問題はなかったんだろうが、みんなで戦うからこそ、分かるっつうもんも、あるんだぜ……?」


 レクセイナの脇までやってきた男は、ボスの方を指さす。


 その様子は血気盛んな若者を諭して、戦場の知恵をつけさせつつ、冷静に戦わせようとする年長者の姿に見えた。


「ホラ見ていろ。最初は効かなかったと見えていた威力の弱い魔法でも、ちゃーんと魔物に効いている。木属性魔法もだ。あの魔物は弱い魔法を弾くか、木属性魔法全てを弾くか、二つに一つしかできねぇ、と途中で仲間の一人が気づいた。だから、弱い魔法も木属性魔法も、両方一気に撃ち込んでしまえば、全部魔物に効く」


 レクセイナが心の中で思っていた疑問が、解消されていく。


 納得した表情で頷いたレクセイナに、中年冒険者が説得を試みるような声音で、言葉を続けた。


「焦ると、ついつい自分一人で戦ってしまう気持ちは、まぁ……分かるからな」


 自身にも経験があるのか、何かを思い出したかのように苦々しい表情を浮かべた。


「だけど、一人で戦わなくて良いんだぞ。レクセイナ嬢ちゃん、ピンチだっつうのに、また一人で戦おうとしただろ?」


 図星だった。


 自分一人ではないと最初は思っていたのに、気がついたら、一人だけで戦おうとしていた。魔法使いは、一人で戦う職種じゃないというのに。


「……ありがとう御座います」


 口から感謝の言葉が漏れる。だが、その言葉に込められた感情は、いけないことをしてしまい、謝るようなものだった。


 それを感じとったかのように、冒険者がサッパリと笑った。


「……いいんだよっ。ちっと間違える時なんて、幾らでもあるさ」


 2人が会話している間に、ボスの魔物は冒険者たちによって、手の平で転がされるかのように、あっちに攻撃したり、こっちに攻撃をしたしていた。


 だが、小さな攻撃が徐々に積み重なってダメージを与えているものの、ボスの体力が凄まじいのか、決定打に欠けている。


「んで、なんだけれどさぁ……」


「は、はいっ!」


 急に言いずらそうな声音になった中年冒険者に、レクセイナは背筋を伸ばして返事をする。


「俺たちが、あのボスを足止めしている間に、デカイ魔法を一発気合いをいれて、お願いできないか? 恥ずかしいっつから、あんまり言いたくねぇんだが、レクセイナ嬢ちゃんが、この面子の中で一番強いんだわ」


 自分よりもずっと年下に、責任重大な役目を押し付けることになってしまうことに、それでこそ申し訳なさを感じてしまう冒険者だったが、レクセイナの強さは圧倒的だった。


 今はボスを翻弄している面子たちも、いつかは体力や魔力が尽きてしまうわけで、その前に魔物を倒さなければならない。


 スーっと視線を真横に逸らしていた冒険者だったが、レクセイナの表情を見てみると、気負った様子もなかった。


 そこには、強い瞳が輝いていた。


 若いっつのに、頑張るぜ……。

 いや、これが“若さ”かもしれない。


 レクセイナは揺らがない声音で、ボスの方を見ながら言った。


「分かりました。私に任せて下さい。その代わり、演唱が長いので、無防備になっている間は守ってもらえませんか?」


 この嬢ちゃんは、いつか大物になるな……。


 中年冒険者はレクセイナの横顔を見ながら、心の中で思った。


 自分自身は弱いまま歳をとってしまったが、これまで何度も長い冒険者生活の中で、英雄が誕生する瞬間を見てきたのだ。おかげで、英雄の卵ぐらいは見分けられる。


 それでも、若者だけに見せ場を取られるつもりは毛頭ない。


 長年の相棒である剣を背中から抜き放つと、戦意を滾らせて獰猛に中年冒険者は笑った。


「任せろ。元からそのつもりだ」

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