第29話 心配しなくていいよ?
私の推測通り、村の反対側の方が圧倒的に魔物が多かった。
こちら側が魔物の主戦力だろう。
足が速くなる魔法を使用してくれるベルがいないので、体力のない私は肩で息をしながら村の中心を突っ切って走る。
「ベルー! オルデンー!」
途中で村の中央で、村人を守っていた2人とすれ違い、手を振りながらすれ違う。
どうやら、2人は非戦闘民の村人を守ることに専念するようだった。
私が村にはっていた結界魔法よりも強固な魔法をオルデンが展開し、その内側で恐怖に酷く震えた様子の村人たちが身を寄せ合いながら、しゃがんでいる。
結界の外側で剣を持ったベルが、村の全方位からやってくる防衛線を抜けて突破してきた魔物の討伐に当たっている。
無駄のなく洗練された動きで、オルデンが張った結界に魔物の攻撃が届かないように、村人を少しでも恐怖から遠ざけるように、剣を振るっていた。
「私は防衛線に行ってきますっ!」
「了解だ!」
「了解です!」
オルデンとベルの声を聞きながら、そのまま駆ける。
喧噪がさらに大きくなり、魔物の唸り声と冒険者たちの怒号が鮮明に聞こえてくる。
「――――【火属性・アーレシアンサ】」
こちら側の方が状況が悪い。
よく見れば、魔物の群れの中に何体か強そうな魔物がいる。
派手にやって問題ないだろう。
さあ、ここからが本番だ。
――――気合いを入れていこう。
「……「君の願いを聞き届け、氷の力をもって」【水属性・ソーシレンファ】!」
二十を下らない太い氷柱が、冒険者たちを苦戦させていた魔物の群れに降り注ぐ。
私ができる最大まで、威力を高めた水属性魔法だ。
冒険者が明かりとして使っている松明と、燃えている建物の明かりで、薄水色の氷塊が揺らめく炎の輝きを反射する。
氷塊が着弾した影響で、轟音と同時に地面が揺れる。攻撃が叩き込まれた魔物側から、獣のような断末魔が夜の空に響き渡った。
魔物は人類の敵だ。
「【水魔法・レノバレバ】!」
一切の手を緩めることなく、レクセイナは次の氷魔法をたたき込む。
「おおおっ……!」
苦戦していた冒険者たちから、感嘆が入り混じった歓声が上がった。
いつの間にか、冒険者たちの一番前に出て魔物に攻撃を与えていたレクセイナは、引き締まった精悍な顔つきで、声を上げた。
「私も参戦します」
もう一度、冒険者たちから、そして戦いに参加していた村の青年たちから歓声が上がる。
たった数発だけの魔法。だが、この戦いに参加しているメンバーの中で、レクセイナが圧倒的に強いのは、議論する必要もなく明白だった。
「ありがとう御座います!」
「ほんとーに、ありがとう!」
「これで村が助かるかもしれない!!!」
特に生まれ育った村を魔物という災害から守るために命を賭けて戦っている村の青年たちから、レクセイナに喝采の声が投げかけられる。
「あんたが誰かは知らないが、正直来てくれて助かった。感謝する」
複数のパーティーからなる冒険者たちが連携するために、リーダー役として指示を飛ばしていた頭にバンダナを巻いた冒険者が、レクセイナに会釈をしながら近づいてくる。
Dランクの冒険者が大半であるなか、バンダナの冒険者はCランク冒険者だった。
戦闘経験も長く、だからこそ突然訪れた援軍のありがたさが分かる。
……というより、村の襲撃が始まるまでは、こんな長い黒髪の美少女なんて村に居なかった筈だ。
凜とした気品のある少女がいたならば、他の村人に紛れていても一発で分かったはずだ。それほどまでに、目を惹く雰囲気をまとっている。
じゃあ、村が襲撃される前に居なかったのならば、この魔物の分厚い包囲網を抜けてきたということだよ……な?
その事実に気がついたバンダナのCランク冒険者は、一気に心強い味方を得た気持ちになる。
「悪いが、頼りにさせてもらうぞ」
「はいっ! このレクセイナに任せて下さい!」
頼られたなら、その期待には応えていきたい。
走ってきたせいで額を流れていた汗をハンカチで拭うと、レクセイナは再び魔物のひしめく冒険者たちの最前列へ駆ける。
「【火魔法・ガレファ】!」
ゴブリンの集団が爆ぜる。
「【木魔法・ソレト】!」
狼の群れが切り刻まれる。
「【火魔法・ノースダ】! 【木魔法・ノリカレッファ】!」
巨大な昆虫のような魔物が火だるまになり、2本足で歩く名前の知らない魔物が死体になる。
レクセイナがやってきてから、随分時間が経った。
30分? 1時間は経っただろうか?
もしかしたら、もっと長く戦っているのかもしれない。
それでも、魔物の軍勢は尽きない。
他の冒険者や村人が疲弊してきている一方で、途中から体力のないレクセイナは移動することなく、その場に留まって砲撃のように魔法を撃ち込んでいた。
そのため、レクセイナには余裕がまだ残っていた。けれど、魔物の統率は未だに崩れていない。
夜闇の奥にひしめいているせいで、残っている魔物の数を正確に把握することはできないが、確実に数は減っているはずだ。
それでも、一定数まで減った魔物が統率を失い、散り散りになっていないのには、なにか理由があるはず。
…………嫌な予感がする。
重力を伴った灰色の有害な煙が漏れ出ているのに、なぜ煙が出ているのか原因が探しても、探しても分からないような、引っかかりだった。
引きこもっていた私に、魔物の行動原理から真相を解明する経験値なんてない。
まあ……。
ならば考えるのを潔く辞めて、目の前の敵に集中するべきかな。
気がつかないうちに、視線を落としていた顔を引き締めた表情で上げる。
つまり、魔物を全部倒してしまえば、解決する話だ。
単純明快。
これでいい。この方針にしよう。
「【木魔法・ノリカレッファ】!」
魔力消費が激しいからと、戦いが長期戦になってからは使用を控えていた上級魔法を、改めて使用し、盛大に魔物を吹っ飛ばす。
ちょうど良いので、ついでに仲間も鼓舞しちゃおう。
魔法と違って剣術は初心者レベルであり、お飾りになっていた腰の剣を天に向かって抜き放って、声を高らかに上げる。
「この村を、絶対に守り抜くぞー!」
上級魔法は中級魔法と比べると、歴然とした威力の違いがある。一拍置いて、掛け声が仲間から返ってきた。
「「「おーー!!」」」
レクセイナの勢いと活躍に鼓舞された仲間の動きが、再び鋭さを増したものになる。
それでも、心の奥底にある嫌な予感は、消え失せなかった――――。




