第27話 駆け抜けろ
「こんな夜中に、一体誰が――――」
オルデンの顔が見えるか、見えないかのドアが半開きの時点で、レクセイナは切羽詰まった声音で言う。
「――――オルデン、聞いて下さい! 私たちが以前行った村が、魔物に襲われていて……!」
レクセイナの手には、オルデンが以前に渡した相手の位置が分かる魔導具が、キツく手に握られている。
レクセイナとは、いつも冒険者依頼を受けた最後に次回に会う日を決めるぐらいで、それ以外の時に会ったり、街で見かけることもなかった。
突然の予想外の訪問者にオルデンは、半分寝ていた頭を叩き起こし、状況を理解しようとしている間に、レクセイナはドンドン話を続けようとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。レクセイナ。村が何だって……?」
もう一度聞き直したオルデンに、レクセイナが勢いを劣らせないまま、再度早口で説明をする。
「魔物に襲われているんです! それも数体だけじゃありません。数百体もいて、村人だけでは到底対処できるような数じゃなくて……!!」
「……魔物? どうしてそんなことが分かるんだ? あの野良の回復術士に遭遇した村なら、ここから何十キロも離れているだろ」
「もしかして、結界魔法をそのまま維持してたんですか?」
オルデンとレクセイナの家先で騒がしくしていた声を聞きつけ、ベルが家の奥からやってくる。
「初級の結界魔法でしたよね? 本来は、直接魔力を結界に注がない限り、数日で解除されるような魔法ですが……」
普段はオルデンに対して呆れた表情と、疲れ切った表情の2パターンしか見せないベルが、珍しく驚いたような表情を見せる。
「その結界なんだけど、数え切れないほどの攻撃を感じていて。村に行きたいのだけれど、私は村の位置を知らないし、行き方が分からない」
結界に与えられている攻撃に、少なくなっているような感覚はない。
絶え間なく続けられているダメージに、いつ結界が破壊されてもおかしくなかった。
「最短距離で一刻も速く村に辿り着くには、オルデンたちの協力がいるの! 力を貸してほしい」
半歩詰め寄りながら言った私に、オルデンは少しの考えた後、口を開こうとする。
だが、オルデンが言葉を返すよりも速く、後ろのベルが渋面を浮かべた。
「オルデン、俺たちは今日の冒険が終わったあとは、当分休む予定ですよね? 万が一にでも疲労で怪我をしないように、オルデンには休んで欲しいんですが……」
「いや、俺は行くぞ」
背後のベルを振り返ることもなく、レクセイナの目を真っ直ぐ見つめ返しながら、オルデンはハッキリと言う。
脱力して項垂れたベルの疲れ切った溜息が、聞こえた。
「分かりました。分かりました。オルデンが行くなら、私も勿論行きますとも。さあ! レクセイナさん、急ぎますよ」
吹っ切れた表情のベルが、家の奥から乱雑な手つきで、オルデンのマントと剣を持ってきて、まだ頭が微妙に寝ているオルデンに押し付ける。
「さあ、オルデンもパッパとして下さい。起きてますか? 行くと決めたのなら、速くしないと置いていきますよ」
「お前なぁ……」
「オルデンが承諾さえしなければ、私一人で済みましたし、楽だったのですが。今から、行くのをやめても良いですよ?」
「いや、行くから」
「じゃあ、速くして下さい。はい、この上着も忘れずに」
小さな言い争いをしながら、慣れた手つきでオルデンの支度までベルが手伝う。
普段からこういう感じなのか、ベルの動作は洗練されていて、寝着の姿だった二人は、あっという間に支度を終えた。
「じゃあ、行こうか。レクセイナ」
ベルに小言を色々言われていたというのに、オルデンは剣を持った瞬間に堂々とした様子になった。
「ふふっ」
そのなんとも言えないオルデンのギャップに、思わず私の強ばっていた表情が緩まった気がした。
もしかしたら、村に張っている結界が攻撃されているせいで、内側から湧き出てくる違和感に圧倒されていて、焦るがあまりに、冷静になれていなかったかもしれない。
私一人だけじゃない。
私と一緒に、オルデンとベルが来てくれる。
自分のやりたいことを突き通そうとしている時に、一人じゃないというのが、こんなに心強いなんて、これまで知らなかった。
部屋の外を窓から眺めていた私は、いつも孤独だった。
沢山の召使いに囲まれていながら、実際のところは私の言動を常にチェックする監視役でしかない。味方なんて、レリアしかいなかった。
レリアだって、召使いとしての仕事があるから、常に傍にいてくれるわけでもない。
たくさんの人に囲まれながら、誰とも感情を分かちあえないのは、一人だけで部屋にいる時よりも、疎外感と強い孤独を感じるものだった。
独りぼっちじゃないというのが、こんなに勇気づけられるなんて……。
レクセイナの顔に、笑顔が戻ってくる。
大丈夫だ。
きっと、私たちは村を助けられる。
***
街の外に出た3人は、ベルの魔法を使って一気に夜の草原を駆け抜けた。
「このまま、次の街道まで一直線だ! さらに速度を上げるぞ!」
「はい」
「もっと飛ばします!!」
オルデンの村までの道案内に、ベルとレクセイナは草原を爆速で駆けながら、風にかき消されないように大声で返事する。
ベルの使う高速で走れる魔法のお陰で、体力もほとんど消耗せずに済んでいる。
屋敷から走ってきた時点で、だいぶ体力は削れてしまっているが、それでも村に到着してからが本番だと思うと、少しでも余力は残しておきたい。
幸いにも、ベルの魔法で速く走るには、魔力を注ぎ込めばいい。
だが次の瞬間、魔法でさらに加速していた私は、一瞬速度を落とす。
それは村に張っていた結界魔法が、ついに外からの攻撃に耐えきれず、破壊された感覚だった。
「もう結界が破られるなんて……!」
「レクセイナ、速度を落とすな! 村はあともう少しだ!!」
速度を思わず落としてしまった数秒の間に、数メートル以上先に走っていたオルデンが、顔だけを振り返りながら、声を投げかけてくる。
「うん……!」
急いで加速し、オルデンとベルに追いついて、再び併走する。
頼むなら、あともう少しだけ結界が保って欲しかった。
オルデンの言った通り、結界が破られてから数分経つと、村がある地点まで近づいてくる。
そして、大量の魔物がいた。




