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新時代の最強英雄 ~支配されていた監禁令嬢、伝説の魔法〈秘奥義〉で無双する~  作者: 雪柳 澄
1章 監禁魔法からの脱走。

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第25話 衝撃、衝撃、衝撃──。

「それでね、オルデンったら熱火山羊(ファルアゴストル)の素材をゴブリン討伐依頼で偶然手に入れたものとして、受付嬢の人に買い取ってもらえないか尋ねてたの」


 穏やかな時間が流れる、レクセイナの部屋。


 朝の柔らかな日射しが差し込む部屋の椅子に座ったレクセイナは、櫛で髪をとかしているレリアに嬉しそうに話し続ける。


 外の世界で体験した出来事を屋敷の中で唯一の話せるレリア相手に、レクセイナの話は今日も止まらない。


「受付嬢の人はゴブリン討伐依頼じゃなくても、そのまま熱火山羊(ファルアゴストル)の素材自体を単体で買い取ると言ってくれて、高く売れたんだ」


 レリアに説明しながらも、私は熱火山羊(ファルアゴストル)の素材が高く売れたのかどうか、実はよく分かっていない。


 2人が非常に喜びながら「高く売れた」と言っていたから、きっと高いのだろう。


 一方の私は、屋敷に乱雑に転がっている金貨に見慣れすぎているせいで、銀貨数枚では全然高いと感じなかった。


「早く次の冒険に行きたいなぁ……」


 遠い目をして、待ちわびるような声を出す。


 窮屈で退屈な日々を部屋で過ごすぐらいなら、刺激がたっぷりの外の世界へ毎日にでも出かけたい気分だ。


「お嬢様が楽しそうで、レリアは何よりです」


 流れるように美しいレクセイナの黒髪を丁寧に梳かしながら、レリアは温かい微笑みを浮かべて話に耳を傾ける。


「だって、本当に楽しいんだよ? 以前に教えてもらった牛串だって、また食べちゃったし、屋敷に戻る途中にもまた立ち寄って牛串を食べたの」


「お食事ばかりですね」


 鏡越しにレクセイナが見れば、レリアは苦笑していた。


 少し不服そうに頬を膨らませて、レクセイナは続ける。


「本当に牛串が美味しいんですっ! 屋敷では食べられない、とてもジューシーな味というか、噛めば噛むほどタレの味が口の中を広がって……」


 普通の幼い子どもみたいに瞳をキラキラさせながら、弾ける様な笑顔を浮かべて、外で体験した出来事を語る。


「ええ、ええ」


 そんなレクセイナにレリアが向ける視線は、とても温かいものだ。やっと生き生きとした表情をしてらっしゃる。


 外の世界に抜け出す前のレクセイナ様は、お人形みたいだった。


 美しい美貌に年齢には不釣り合いとも言える、落ち着き払った作り物の笑顔を浮かべて、大人たちが求める言う通りに動く。


 他の使用人たちは、そんなレクセイナ様を褒め称えていたけれども、レリアは貼り付けられた笑顔の下に、薄氷のように壊れそうな感情を会話の中で長年感じていた。


 だから、こうした表情を浮かべているレクセイナ様を見れてレリアは、とても嬉しかった。


「良かったですね、レクセイナ様」


「ん?」


 レリアは何も言わずに黙っているつもりだったが、つい言葉が漏れてしまった。


 本人は以前との違いにやはり気がついていないらしく、頭を傾げる。


 だが、レクセイナが頭を傾げたことによって、櫛を巧みに使いながらレクセイナの髪を結んでいたレリアの手から、サラリと髪の房が零れ落ちる。


「こらこら、お嬢さま。動かないで下さい」


 困ったように笑いながら、鏡の反射越しにたしなめると、座っているレクセイナは脚を楽しそうにブラブラと揺らしながら笑った。


「はぁーい」




 ***




 部屋の灯りも全て消された、夜の寝室。


 昼間と違って召使いの誰かが部屋にいるわけでもなければ、年頃の娘であるレクセイナの部屋に無断で入ってくる者もいない。


 時折、廊下から聞こえてくるのは、警備巡回している兵士たちが歩く時に擦れる、全身鎧の微かな金属音だけ。


 静寂に包まれた部屋で、レクセイナはベットで一人寝ていた。


 普段と違って何も変わったことがなく、平穏なはずだった。薄ピンクのネグリジェを着たレクセイナは、上質なベットで気持ち良さげに今日も朝まで寝ているはずだった。


「…………え?」


 目が覚める。

 それは、強烈な違和感だった。


 何も異常がなかった澄んだ水が、急にグチャグチャにかき混ぜられて、水底の泥と混ざり合いながら、渦を巻いて茶色に濁っていくような感覚。


 冷水を掛けられたかのような感覚に陥り、飛び起きるように、ベットから上半身を起こした。


 こんなこと、生まれて初めてだ。


「なに? 今の……なに??」


 感覚に心当たりがない。


 身体の外側からの刺激ではなく、内側から湧き上がってくるような強烈な違和感を感じる。


 ……そう、まるで魔法のために魔力を使う時のように。


「あっ!!!」


 片手で顎に抑えて考え込んでいたレクセイナは、数秒の逡巡を経たあと、やっと心当たりにいきつく。


 以前にオルデンとベルと一緒に立ち寄り、無登録の回復術士に傷を治してもらった御礼に、結界魔法を行使した。


 魔物から村を守るために、僅かな期間しか保たないと言い訳はしつつ、かけた結界魔法だが、術者だからこそ感じられる違和感に間違いなかった。


 湧き上がってくる違和感に焦る感情を抑え、両目を閉じて集中する。


 魔法と術者は繋がっている。


 例えどんなに距離が離れていようとも、魔力という繋がりが、物理的な距離や障壁を越えて、魔法をかけた私に情報を与えてくれる。


 木属性の結界魔法が張られている村まで、魔力を辿っていく。


 両目に映っていた寝室の風景が変わり、一気に魔法を張っている村の結界まで私の感覚が到達する。


 普段は結界を維持できる最小限の意識しか割いていなかったが、神経を結界に集中させたことで様々な情報が入ってくる。


 地を揺らす振動、何かの咆哮。


 そして、結界にぶつかる衝撃。衝撃。衝撃。衝撃……――。


 決して何度も強い衝撃に耐えられるほど、私の張った結界は強くない。衝撃が加わると同時に術者の私にも違和感が伝達され、結界の耐久値が凄まじい速度で急速に減っていくのを感じる。


 ――――――魔物だ。


 爪や牙といった魔物の攻撃が、衝撃となって伝わってくる。それも、一体だけじゃない。たぶん何百体もいる。


 攻撃は、結界の全方位から与えられていた。


 私の張った結界は、何もないよりはマシ程度のものだ。騎士団や魔法団が張るほどの強度は無く、そもそも村に迷い込んでくる魔物を足止めする程度のことしか考えていない。


 今は何とか耐久値が保っているが、結界が壊れるのも時間の問題だった。


 数百体もの魔物の侵攻を防げるようなものじゃない。


「…………」


 結界魔法から意識を離し、ベットの上でいつの間にか正座座りをしていたレクセイナは、静かに両目を開ける。


「…………行かなきゃ」


 窓から見える景色の遙か向こう側。


 主要な軍事施設や城壁など、戦略的に重要なものが何もない平凡な村に、数百体もの魔物の侵攻に耐える武力なんてない。だから、私が助ける。


 村に張った結界魔法の耐久値が完全にゼロになり、村の中へ魔物の侵攻を許してしまうまでに、まだ僅かな猶予がある。


 助けられると知っている命を、やすやすと見過ごせるほど、私は残酷にはなれないし、非情な人間になるつもりもなかった。


 監禁されて、自由な行動を何一つ許してもらえないからといって、自由な感情までは奪われたりしない。


 幸いにも、部屋の監禁魔法を解除できているから、私が外に行くことは不可能ではない。


 要は、親にバレなければ良いのだ。

 私のことは私が決める。


 行動の自由を縛ったぐらいで、私を思い通りにできたと考えているなら、過小評価の極みも良いところだ。



 レクセイナは、ベットから勢いよく飛び降りる。

 その動きに、迷いはなかった――――。

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