第20話 喧嘩を売りに行こう!
「さあ、オルデン。ベル。私に周囲地域で、一番強い魔物を教えて」
「い、いや……。依頼はこれで終わりだぞ?? ゴブリンを3体狩ればいい。別にこれ以上、なにかをしなくていいんだ」
食らいつくように迫り来るレクセイナに、ゴブリンの討伐証明を切り取り終わったオルデンが半歩下がるようにして説明する。
「こんなの戦った気がしない。私はゴブリン程度じゃ、到底満足できない」
だが、レクセイナ引く様子は見られない。
「――――周辺で一番強いとされる魔物は、山の崖に棲息している“熱火山羊”と呼ばれる熱線を使う山羊の魔物ですね。確か、C級ランクの魔物だった筈です」
「ベル!」
責めるようにベルの方をオルデンは振り向く。
レクセイナは、F級冒険者だ。
経験と技術を積んだ一人前の冒険者であると言われるのが、C級冒険者だ。
そのC級冒険者たちがパーティーを組んで討伐するような魔物に、冒険者になったばかりのレクセイナが太刀打ちできるとは思えない。
だが、ベルは反対するオルデンに肩をすくめて続ける。
「“熱火山羊”の熱線は確かに強力です。ですが、あの山羊は自分の縄張りからは決して出てきませんし、危なくなれば縄張りから出れば安全です」
「まあ、そうなんだが……」
オルデンは言葉を濁しつつ、肯定する。
ベルの言う通り、縄張りの外に出てしまえば襲ってこない。
C級に認定されているのは熱線による強力な攻撃が厄介だからで、縄張りの外から攻撃をしていれば、一方的に攻撃できる。
「その魔物っ! 倒しに行きたいですっ!! 今すぐ向かいましょう、今すぐ!!」
街での、お淑やかで視界に入る全てのものに瞳をキラキラさせていたレクセイナはどこにいったのか、一度考え直したくなるような発言だった。
「……まあ、いいっか。多分、怖くなってしまうだろうし」
C級の魔物となれば、放たれる魔力は相当なものだ。
一度、熱火山羊を直接見ればレクセイナが言うことも変わってくるだろう。幸いにも、魔物が棲息している場所は、ここから遠くない。
オルデンたちは【微風】魔法を使って、森の崖にある魔物の住処まで移動した。
***
――――熱火山羊の住処。
切り立った崖の洞窟を寝床としているC級ランクの魔物。
家畜の山羊に近い見た目をしていながら、縄張りに侵入してきた敵に対する攻撃性はずっと高い。
天に届くような長い角を掲げて、熱火山羊は新たに縄張りへ入ってこようとする侵入者たちをギラつく両眼で凝視していた。
「レクセイナ、あれが熱火山羊だ」
縄張りになっているエリアは、寝床になっている洞窟の入り口からだ。
その周囲に広がっている森の茂みの中から、レクセイナたちは魔物の様子を窺っていた。
「凄い、とっても強そうな感じがしますっ。ゴブリンとは比べものにならないくらい」
まだ距離があるにも関わらず、額に長い角が1本生えている熱火山羊は、すでにこちら側を先ほどから視線を離さずにずっと見ている。
「オルデン。熱火山羊は縄張りの外に出れば、襲ってこないんですよね?」
「ああ、そうだ」
「縄張りの外に出てしまえば、安全ですよ。問題は、縄張りの中に入らないと、張られている結界魔法によって熱火山羊を倒せないことですが……」
ベルの説明に、レクセイナは注意深く耳を傾ける。
ここまで移動してくる間にも、熱火山羊については色々聞いた。大丈夫だ。熱線が厄介らしいが、上級魔法まで使える私なら問題ない。
熱線如き防げないようでは、魔法使いの名折れだ。
「じゃ、行ってきます」
意志を固めたレクセイナが1人、茂みの中から飛び出して魔物の縄張りに向かって走り出していく。
「ちょっと、レクセイナさん?!!」
ベルが慌てたような声で呼び止めるが、それもお構いなしだ。
額の角に魔力を集約させて待ち構える熱火山羊の元へ、レクセイナは一気に距離を詰めていく。
オルデンはレクセイナが熱火山羊を見た時にした表情から、絶対に仕掛けにいくだろうなと思っていた。
熱火山羊から常時放たれている膨大な魔力を見ても、一瞬たりとも恐れた表情を見せなかった。
それどころか、挑戦的な笑みを浮かべていた気がする。
そして、どうやら俺の勘違いではなかったらしい。
魔法使いでありながら、レクセイナは強気にも魔物の元へ躊躇なく接近していく。実に楽しそうだ。
「メエエエエ゛…………!!!!」
縄張りに侵入直後、放たれる熱線。
「【水魔法・レガレシィ】!」
ジュワーッという音と共に白い水蒸気が上がり、熱線を防ぐことに成功する。
「おおっ! 意外と強いかもっ……!」
本来は水壁の半分ほどで、熱火山羊の攻撃を防ぐ予定だったのだ。それが、半分を過ぎた防御ギリギリまで浸食された。
良かった! やっぱりゴブリンよりも強い!!
足を止めている間に狙い撃ちをされないよう、熱線を防いだ後は直ぐに動く。
熱火山羊も次の熱線を放とうとしている。
溜めが長い。
先ほどよりも、強い熱線かなっ……?
多くの魔法をこれまで私は習得してきたが、これまで戦いに使ったことはゴブリンにはなった水鉄砲如きを除いて、一度もなかった。
緊張と興奮で、肌が震える。
攻撃を一方的に受け続けるだけでは、面白くなんかない。同じ熱線攻撃を二度も受けるなんて退屈だ。反撃しよう。反撃したいっ!
レクセイナはニッコリと愉快そうに笑って、右手を前に出した――――。




