第11話 議題:金持ちの金銭感覚について。
「武器屋ってどこにあるのか、尋ねても良いですか……?」
レクセイナは、オルデンたち2人の方を再度振り返って尋ねる。
せっかく憧れの冒険者になったのだ。
外の世界に出たお土産として、冒険者カードを手に入れるつもりだったが、結局は登録までしてしまったのだ。
夢だった冒険者になろう。
現実的には、外の世界に滅多に出掛けることが出来ないだろう私では、年に1度だけ依頼を受けるので限界かもしれない。
だけど、いつか。
いつか一流冒険者として世界を縦横無尽に駆け回り、S級ランクの中でも頂点の頂点。No.冒険者になりたい。
レクセイナは冒険者カードを手に入れた時に、そう考えていた。
「冒険者の装備を一式揃えたいのだけど、まずはやっぱり武器かなって!」
「それならば、大通りから少し外れたところに一軒、質の良い武器を取り扱っている店がありますね」
腰に複数の小刀を差しているベルは街の武器屋には詳しい方だと、自負していた。
いつもベルと一緒に行動するオルデンも、納得するように頷く。
「ラントレーゼの武器屋か。確かに、俺もあそこは良いと思う」
様々な種類の武器を幅広く取り扱っている上に、ここから歩いても直ぐの場所にある。
「だが、場所が分かりづらいんだよな。俺たちも最初、店に辿り着くまでに苦労した」
オルデンは、レクセイナの方に視線を向ける。
口で場所を教えても良いが、田舎者が初めて大きな街を訪れたかのような雰囲気を垂れ流している彼女が、店を簡単に見つけれるとは思えなかった。
「これも何かの機会だ。俺たちが武器屋を案内しよう」
今日は制止するのにもう疲れたのか、背後に立っていたベルがオルデンを止めてくることはなかった。
***
オルデンと一緒に行動しているもう一人の冒険者の名前は、ベルと言うらしい。
道中で互いに自己紹介を済ませると、レクセイナたちは互いを呼び捨てで呼び合う程まで打ち解け合っていた。
道に迷うこともなく辿り着くと、武器屋のドアをオルデンが開けてくれる。
ここは、特にベルがよく訪れる武器屋らしい。手に馴染む短剣が多くあるうえに、拠点としている宿から近くて、気に入っているそうだ。
「なんだ? 昼間は休憩中だと、いつも言っているだろう」
武器屋の店主は客が入ってきた音に気がついて、不機嫌な雰囲気を漂わせて店の奥から出てくる。
だが、すぐにオルデンとベルの顔を見て表情を明るくした。知り合いの客だ。
店主が改めて声をかけるよりも少し早く、オルデンが深緑の瞳を向けて穏やかに口を開いた。
「ベルがいつも世話になってる。この前の短剣は良かったらしい」
「おお、あの試験作だな。オルデンさん」
「店主、今日はレクセイナの剣を買いに来たんだ。冒険者を始めるなら、一番最初に剣が欲しいらしい」
駆け出し冒険者が真っ先に欲しがるのが、自分の武器というのは良くあることだった。
武器屋の店主も、実際に自分が作った武器を試してみるために冒険者をやっていた時がある。
その時の胸が広がるようなワクワクを思い出して、店主が昔を懐かしく思っていると、オルデンとベルの後ろから、レクセイナが顔を出した。
人生で初めて訪れた武器屋に、興味津々の瞳だ。早く見て回りたいと、顔に分かりやすく書いてある。
「武器、見せてもらって良いですか?」
「もちろんだ。嬢さん」
店主に断りを入れてから、レクセイナは壁一面に大量に飾るように並べられている武器を見て回る。
剣以外にも、槍、短剣もあれば、持ち上げるのでさえ一苦労しそうな位に大きい斧まである。
どれにしよっかな。
魔法は上級まで使えるのに対して、武器は一度も手に持ったことがなかった。
自分の顔が反射して見えるほど綺麗に研き上げられた武器の前を、レクセイナは行ったり来たりする。
やっぱり、体力の無い私でも扱いやすそうな短剣にすべきだろうか?
それとも、いっそのこと筋トレの効果も狙って、巨大な斧や、鎖が付いた鉄球とかにすべき……??
「あっ…………」
1本の美しい剣が視界に留まる。普通の剣よりも、少し剣身が長いロングソードと呼ばれるものだった。
他の剣と同じように壁に飾られているのに、そのロングソードだけが輝いているように見えた。
「店主、これにします!」
オルデンとベルと一緒に、話し込んでいた店主の方を振り向く。
レクセイナが指差しているロングソードを見た店主は、挑戦的に笑みを深めた。
「店一番の逸品だ。お嬢ちゃん、駆け出し冒険者なのにお目が高いな」
「この剣で、冒険に出掛けたいです!」
飾られている壁から、両手で慎重にロングソードを外す。
見た目に反してそこまで重くは無く、柄の部分を持ってみるとロングソードの美しい剣身と、突き詰められた剣の真っ直ぐな重心が感じられる。
ロングソードを両手に持ったレクセイナが剣の美しさに惚れ惚れしていると、店主が後ろから声を掛けてくる。
「ちなみに超高いぞ。材料に拘って作ったやつだからな。500万パトルニアだ」
あまりの金額に、オルデンとベルが店主の顔を二度見する。
「高っ!」
「短剣がいったい何十本、買えるやら……」
500万パトルニアといえば、裕福な商人の家が1年豪遊しながら暮らせる位の額だ。
武器屋の店主は趣味を兼ねて、採算度外視で作ったのだろうが、普通の冒険者が払える金額では到底ない。駆け出し冒険者なら、余計に無理だろう……。
オルデンもベルも無理だと思いつつ、レクセイナの方を再度振り返ったが、彼女はキョトンとしていた。
「たった500万パトルニアで良いんですか? こんなに素敵な品なのに、安過ぎではありませんか?」
ロングソードを一度、壁に掛けなおしたレクセイナは、洋服のポケットの中に片手を突っ込んで、マジックバックの中から袋を一つだけ取り出した。
「これで足りますか? 800万パトルニアは入っています」
店主の前に袋を突き出すようにして言う。
500万パトルニアなんて、公爵家の娘にとってはタダも当然のレベルだ。
レクセイナが価値を感じないまま、腐るほど持っているイヤリングやアクセサリーは、ロングソードよりも何十倍も高価だったりするが、それを本人は知らない。そして、興味もない。
お金なんて、屋敷の至るところに転がっているのだ。今回持ってきた金貨の袋も、その辺から適当に持ってきた物だったりする。
袋の中に大量に詰め込まれていた金貨の音が、呆然となった武器屋の店内でジャラジャラと鳴った――――。




