序章 辺境の策略家
はじめまして、作者です。
本作は「異世界ファンタジー×ミリタリー×学園」の物語です。
【読者の皆様へのお願い】
私は日本語を勉強中の外国人です。
自然な日本語表現になるよう努力していますが、違和感のある箇所や間違いがあるかもしれません。
もしお気づきの点があれば、感想欄で優しく教えていただけると幸いです。勉強になります!
※この物語には、第一章から残酷な描写(流血・戦闘)が含まれます。苦手な方はご注意ください。
激しい雨が、灰燼城の古びた城壁を叩きつけていた。
ヴァン・ラーク は、総突撃の号令を待つ帝国軍を見下ろし、懐のノートを強く握りしめた。
五百の兵で三千の精鋭に挑む。もはや戦術ですらない、ただの玉砕だ。
「このまま全滅されたら、帝都への道が塞がる。面倒だが、手を出すか」
指揮室の扉を蹴り開けると、黴臭い戦術地図を囲む将校たちの殺気が一斉に突き刺さった。
「全軍突撃なんかしたら、全員犬死にだ。俺が三日で敵を退けてやる」
「ふざけるな! ガキが!」
魔力が爆発した。副官の全身に赤熱した魔力回路が浮かび上がり、強化された刃がヴァンの喉元へ迫る。 —— 刃が皮膚に触れるか触れないか、その寸前で、副官の体がぴたりと凍りついた。
ヴァンは顔色一つ変えず、袖の下の指先に魔力を宿し、万が一の時に即座に「高圧魔力」 を展開できるよう準備を整えた。副作用を覚悟しなければならない瞬間に備えて――
――ガィンッ!
鈍い金属音が響いた。ヴァンの術式が発動するより速く、彼の半歩後ろにいた銀仮面の少女、神鶴 が、素手で白刃を掴んでいた。
「……っ!?」
感情の欠落した仮面の奥の瞳。ただそれだけで、副官は全身の血が凍りついたように硬直した。
ヴァンは編みかけた魔力を散らし、司令官に向かって薄く笑った。
「部下の躾が行き届いていますね、司令官殿」
ガルト司令官が眉をひそめ、ヴァンに視線を向ける。
「坊主、どういう算段だ?」
「この城が落ちれば、帝都への道は塞がる。俺の用も潰れる。だから勝たせる。だが慈善じゃない」
ヴァンは地図の松林を指差した。
「敵の兵站を『半分』だけ焼く。魔導回路持ちで気配遮断に長けた兵を五十名貸せ。詠唱なしで動ける連中だ。シンカクが引率して火を放つ」
枝の先が地図の上を滑る。敵の哨戒を全て回避する、蛇行した獣道をなぞる。
「兵站を焼く? 馬鹿を言うな」
ガルトが吐き捨てる。
「食糧を全て焼けば、敵は『死兵』と化す。退路を断たれた三千の精鋭が死に物狂いで攻めてくれば、半日で落城だ」
「だから『半分』残すんだよ」
ヴァンは冷淡に告げた。
「全焼すれば彼らは死ぬ気で戦う。だが、半分残ればどうなる? 『節約しながら撤退すれば、本国まで生きて帰れる』――そう思うだろう?」
「兵站を半分焼かれ、背後に謎の援軍が布陣している。攻城すれば大損害が確定し、責任は指揮官一人が負う。だが慎重に撤退すれば、責任は情報部門と兵站部門に押し付けられる。人間はね、希望がちらつくと命が惜しくなるんだ——特に、ぬくぬくと育った中央の貴族連中はな」
室内が静まり返る。
「さあ,自分の保身が大事な指揮官なら、どっちを選ぶ?」
ヴァンは一枚の白紙をテーブルに滑らせた。
「報酬は先払いです。ガルト司令官名義の、帝国軍事学院宛て推薦状……サインをいただけますか?」
「帝国軍人が策略と後方撹乱で勝ちを拾うだと!? 前線で魔力をぶつけ合ってこそ、それが戦というものだ! お前みたいな臆病者のやり口を、帝国では懦夫と呼ぶ!」
副官が吼える。
ヴァンは笑いもせず、司令官の目を真っ直ぐ見据えた。
「どうせ正面から突っ込んで全員死ぬなら、一枚の推薦状くらい、安い賭けだろ? 書かなきゃ、俺はこの扉から出て、お前たちが玉砕するのを城壁の上で見物するだけだ。選べ」
沈黙が室内を凍らせる。
老司令官はヴァンの黒い瞳を長い間凝視し、やがて苦い笑いを漏らし、ペンを拾い上げた。
「……クソガキだ。—— 副官、書類を用意しろ」
命令は震えながらも、即座に下された。
命令が下された夜、ヴァンは炎が上がるのを城壁の上から見届け、冷ややかに目を細めた。
第一夜、敵営の後方に不吉な火光が上がり、黒煙が新月を覆い隠した。
第二夜、山稜に響く太鼓と絶えない篝火が、敵兵を眠らせなかった。
三日目の夜明け。三千の敵軍は、城壁に触れることすらなく、引き潮のように敗走していった。
城壁の上で、双眼鏡を握りしめた副官が、陸に上がった魚のように口をパクパクさせている横で、ヴァンは退散する敵の列を眺め、鼻で笑った。
「これで中央の連中に、俺の存在を気づかせられるだろう」
たった三日、剣も魔法もほとんど使わずに、帝国軍が絶望した戦局をひっくり返した。このニュースは、必ず帝都の中枢まで届く。
その数日後、ガルト司令官がヴァンの元を訪れた。
その手には、約束していたただの推薦状ではなく、漆黒の封蝋に『双頭の鷲』が刻まれた重厚な封筒が握られていた。
「お前の三日間の戦術、詳細を軍部に直報告した。そしたらな」
ガルトはひきつった笑いを浮かべ、その手紙をテーブルに放り投げた。
「帝国軍事学院の院長、ベルンハルトが、直々に指名してきた。灰燼城の戦術立案者を、特別研修に招待するとな。お前、とんでもないものを釣り上げたぞ」
ヴァンは封筒を受け取り、指で封蝋の模様をなぞった。
「ほぅ、俺が思ったより順調だ」
敵軍が完全に姿を消した夕暮れ時。
城壁の上には、西日に染まる草原と、遥か彼方に連なる帝都方面の山脈が広がっていた。
ヴァンは懐から、革張りの表紙に無数の細かい傷が刻まれた古いノートを取り出した。辺境で十数年間、肌身離さず持ち歩いてきたものだ。
シンカクが音もなくヴァンの半歩後ろに立ち、淡々と事実だけを口にした。
「帝都へ向かうのですね。あそこはフィロメラ様が亡くなった場所であり、大元帥の拠点です。あなたが殺される可能性が、非常に高いです」
ヴァンの手が、ノートを強く握りしめる。革の表紙の傷が、掌に食い込む。
彼は帝都のある方角を、真っ直ぐに睨みつけた。
生まれてから一度も顔を合わせていない親父、帝国軍の頂点に立つ大元帅。
——知ったのは、偶然だった。生まれた直後、誰かに抱かれて混乱の中を逃げていた。意識が定まらない中で、声だけが耳に残った。
「これが、フィロメラと大元帅の子か」と。
自分が転生者でなければ、一生気づかなかっただろう。
母さんがなぜ死んだのか。なぜ、このノートだけを残して俺を辺境に捨てたのか。
真相さえわかれば、それでいい。あとは適当に生きる——それだけのために、あそこへ行く。
「だが、行くしかない」
「あなたが死ぬと、私が困ります。ですから、行くのであれば私の後ろから離れないでください」
シンカクはヴァンの背中を見つめ、少しだけ間を置いて、事実だけを述べるように言った。
ヴァンは張り詰めていた空気を抜くように鼻で笑い、踵を返して城壁の階段へ向かう。
「行くぞ、シンカク」
「了解しました」
月が空に昇り、淡い月光がノートの表紙に降り注ぐ。
そこに刻まれた母親の名前――フィロメラの文字が、ひっそりと、だが確かに暗闇の中で浮かび上がっていた。
【序章・終】
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