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序章 辺境の詐欺師

はじめまして、作者です。

本作は「異世界ファンタジー×ミリタリー×学園」の物語です。


【読者の皆様へのお願い】

私は日本語を勉強中の外国人です。

自然な日本語表現になるよう努力していますが、違和感のある箇所や間違いがあるかもしれません。

もしお気づきの点があれば、感想欄で優しく教えていただけると幸いです。勉強になります!


※この物語には、第一章から残酷な描写(流血・戦闘)が含まれます。苦手な方はご注意ください。

ストラトクラティア帝国辺境・第七管区・灰燼城(アッシュ・キープ)

時刻:深夜、雨が降り続く



ガルト司令官は、黴臭い戦術地図を握りつぶすように睨みながら呟いた。「……終わったな」



戦術地図の上。

鮮血のような赤い敵軍マーカーが、灰燼城を示す最後の青を呑み込んでいく。

ゆっくりと。

確実に。



「敵の先鋒は三千。攻城級の魔導破城槌を装備。明日の夜明けと共に、弔鐘が鳴るでしょう」

副官の報告。

一語一語が、釘を打ち込む音に聞こえた。



「で、こっちは?」

ガルトは目を閉じた。

地図を見たくなかった。



「五百。その中で二階位魔力強化を安定展開できるのは……百に満たない。残りは護身呪文すらまともに唱えられない新兵です」



沈黙。

重い、重い沈黙。



撤退?

平原で敵の魔導騎兵に追いつかれて、的にされるだけだ。

籠城?

即決処刑を三日間の拷問に変えるだけの話だ。



「ならば!」

副官の目が、狂気じみた光を帯びた。

ガキィン。

指揮刀を抜く。



「司令官閣下! 帝国のために! 大元帥閣下の御名のために! 全軍で出撃すべきです!」

刀身が燭台の光を反射する。

「牙で! 爪で! ストラトクラティア軍人の気骨を、敵に刻み込んでやりましょう!」



猪突猛進。

帝国軍人の信条そして呪い。



「あー...ちょっといいか?」

間の抜けた声が割り込んできた。

ノックもなしに。



扉の前に立っていたのは、十五か十六くらいのガキだった。

古いが仕立ての良い黒いコートを着て、手には拾ってきたような木の枝を持っている。



その半歩後ろ。

全覆式の銀色の仮面を被った少女シンカクが、幽霊のように立っていた。

呼吸の音すら聞こえない。



「誰だ!?」

副官が振り返る。

怒気が困惑に変わった。

ガキ?



少年の表情は……なんというか。

隣の家のおっさんが何食おうかで揉めてるのを、うっかり通りがかった時の顔だった。

退屈。

眠気。

そしてちょっとだけ早く寝かせてくれねぇかなという苛立ち。



「ああ、お前か……城壁で落書きしてたガキ」

ガルトが眉をひそめた。



この子供のことは知っている。

辺境の町から逃げてきた難民で、あの仮面の侍女を連れて城壁をうろついては、地面に木の枝で何やら書いていた。

兵士が「スパイでは」と報告してきたが、ガルトが何度か見に行くと、描いているのは妙な幾何学図形と数字ばかりだった。



どうでもよくなって放置していたのだ。



「衛兵! このガキを追い出せ! ここは作戦会議室だ! 子供がままごとする場所じゃない!」

副官が怒鳴る。



「力、温存した方がいいっすよ」

少年ヴァン・ラークは、室内の将校たちを空気のように無視して、地図の前まで歩いてきた。

木の枝で、赤いマーカーを軽く叩く。



「敵は三千。遠征してきた。で、指揮官は……まあ、戦術の天才ってことにしときますか」

枝の先が、ある一点を指す。

「ほら。兵站拠点を、上風の乾燥した松林の隣に置いてる。薪が取りやすいようにって配慮ですかね?」



少年が顔を上げた。

黒い瞳には、恐怖も、熱血も、何もない。

ただ残酷なまでの平静だけ。



「計算してみようぜ」

木の枝が地図上を滑る。

「荷馬車の沈み具合からして、敵の飯はあと七日分しかない。つまり、あの松林をマッチ一本でキャンプファイアーに変えてやれば」



枝が、細く致命的な弧を描いた。

敵の主要な哨戒地点を全て回避する軌跡。



ヴァンが一拍置いて、怒りで顔を赤くした副官を見た。

「つまり、連中の食糧は一週間ももたねぇってことだ」



「それがどうした!?」

副官が低く吼えた。

「我々は明日すら持たんのだぞ!」



「だから」

ヴァンの木の枝が、幾つかの重要地形を素早く叩く。

「まともに持ちこたえる必要はないんすよ」



「気配遮断とウィンド・ブーストが得意な魔導兵を五十名。正面からじゃなく、この獣道を通る」

「任務は撃滅じゃない。放火です」

枝が止まる。

「物資を半分燃やして、半分残す」



「そして、ここ、ここ、それからここに」

枝が、敵営を見下ろせる三つの高地を指す。

「旗を立てまくって、夜になったら三十分おきに太鼓を叩く。篝火は夜通し消さない」



ヴァンは枝を投げ捨てて、手についた埃を払った。

実際には何もついてないのに。



「さて」

「敵兵にとって:兵站は燃やされ、謎の援軍が布陣、攻城は絶望的。士気はどうなる?」

少年が薄く笑った。

「あの天才指揮官にとって:強襲すれば大損害で戦果なし、責任は自分。でも後方を焼かれて罠にハマった疑いで慎重に撤退なら、責任は情報部門と兵站部門に押し付けられる」



「さあ」

ヴァンの笑みが、冷たく歪んだ。

「自分の保身が大事な指揮官なら、どっちを選びますかね?」



静寂。



ガルトの瞳孔が、わずかに収縮した。

彼はあの蛇行する獣道を凝視し、脳内で猛スピードで計算する。

卑劣?

下劣?

でも辺境指揮官としての直感が告げている。



成功率は七割を超える。



これは敵も人心も、全て盤上の駒として計算した戦術だ。



「副官殿」

ヴァンが突然振り返って、まだ怒りに震えている副官を見た。

「質問っす」



「明日、全軍で城門から突撃して戦死したらあんたの家族はいくら遺族年金もらえます?」

副官が呆然とした。

「……たぶん、三百金貨」



「じゃあ、俺たちがこの街を守って、あんたが生き残ったら家族はいくらもらえます?」

「……何も、もらえない。だが、生きて帰れる」



「なら」

ヴァンの声が、ふっと柔らかくなった。

「卑怯な手段で勝ったとして家族はあんたを軽蔑しますか?」



副官が黙った。



ヴァンがため息をついた。

「歴史は勝者が書くんすよ。死人は、記憶される資格すらない」



「だから……」

ヴァンが踵を返す。

「英雄になりたいか、生きたいか自分で選んでください」



「待て」

ガルトが突然口を開いた。

「名前は? 坊主」



ヴァンが足を止めて、背中を向けたまま手を振った。

「ヴァン。ぐっすり寝たいだけの通りすがりっす」



「……あいつの言う通りにやれ」

「司令官!?」

「どうせ正面から突っ込んでも死ぬ。あのガキの卑怯な手段で勝てるなら……」

ガルトが苦く笑った。

「この老骨、恥をかいたって構わんさ」




命令が下された。

破れかぶれの賭博師のような震えと共に。



第一夜。

敵営の後方に、不吉な火光が上がった。

黒煙が新月を汚す。



第二夜。

山稜に響く太鼓と篝火。

まるで亡霊の祝祭。



三日目の夜明け

三千の敵軍が、城壁に触れることすらなく、引き潮のように逃げ去っていった。

隊列は乱れ、旗は垂れ下がっている。




「あ、ありえん……」



隣で双眼鏡を握りしめていた副官が、陸に上がった魚のように口をパクパクさせていた。



「ば、馬鹿な……三千の精鋭だぞ!? 『攻城級』破城槌まで持っていたんだぞ!?」

副官の顔色は蒼白だった。



目前の光景が、彼の脳味噌では処理しきれないのだ。



「それが、たったこれだけで……太鼓と篝火(かがりび)だけで、敗走したというのか!? 剣も交えず、魔法も撃たずに!?」



ガタガタと、副官の手が震え、双眼鏡がカチカチと欄干に当たる音が響く。



彼は恐る恐る、横に立つ少年を見上げた。

そこにいたのは、救国の英雄ではない。



もっと底知れない、得体の知れない怪物(バケモノ)



「ひっ……」



副官の喉から、短い悲鸣が漏れた。



ヴァンは、副官のそんな反応になど興味がないとばかりに、あの惨めな戦場を見下ろしていた。



顔には勝利の喜びなどない。



底の見えない倦怠感だけが、そこにあった。



城壁の上。

朝霧はまだ晴れていない。



ヴァンは、あの惨めな戦場を見下ろしていた。

顔には勝利の喜びなどない。

底の見えない倦怠感だけが、そこにあった。



「作戦、成功」

シンカクの声が仮面越しに届く。

波のない、事務的な報告。



「成功?」

ヴァンが鼻で笑った。

「ちょっとした心理学と、初歩のロジスティクスで、栄光に酔っ払った猪を弄んだだけだろ」



手に持っていた木の枝を、城壁の下へ投げ捨てる。



炎と太鼓の音だけで右往左往する軍隊を見ながら、彼の脳裏に浮かんだのは前世、PCの前で徹夜した戦略ゲームの画面だった。



この世界の連中は、個人の勇武を崇め、魔力強度の数値を信仰している。

いわゆる戦術なんて、人間を方陣に並べて互いにぶつけ合う原始的なゲームでしかない。



「このレベルじゃ……」

少年があくびをした。

「チュートリアルにもなりゃしねぇな」



その数日後。

辺境司令官ガルトが、ヴァンを探し当てた。



「戦果は正直に報告せねばならん。お前に軍籍はないが……大元帥閣下の耳には、恐らく届くだろう」

「ちっ、面倒臭ぇ。あんたの手柄ってことにできませんか?」

「ダメだ。帝国の軍法は虚偽を許さん」



数日後。

漆黒の鹫が刻まれた封蝋の手紙が、ガルトの執務机に届いた。



「帝都からの召集令状じゃない……」

彼は信じられないという顔で手紙を見つめた。

「帝国軍事学院・院長の直筆だと……?」



手紙にはこう書かれていた。

『灰燼城戦術立案責任者を、帝都中央軍事学院での特別研修に招待する』



ヴァンは空を見上げていた。

「……マジかよ」

面倒な予感しかしない。



シンカクが無言で横に立っている。

仮面の下の表情は、誰にも見えない。



こうして、辺境の詐欺師は、帝都という名の修羅場に招かれた。

彼自身は、ただ静かに暮らしたかっただけなのに。




【序章・終】

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


もし「続きが気になる!」「主人公の性格が好き」と少しでも思っていただけたら、


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次回

明日に更新予定です!お楽しみに!

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