変わらない状況
村西明・監禁から2週間が経過。
監禁から2週間を過ぎても「誘拐犯逮捕」の報道は、幾ら見ても聞いても一切ない。
自分がレギュラー出演していた帯の生放送のコメンテーターも、すでに違う誰かに変わっている。
新しいコメンテーターは、軽やかに明るく話す、当たり障りのないコメントをしている自分とは真逆のタイプだ。
それよりも、体が痒い。仮設トイレからは自分の出したものから異臭がしている。
体が痒いことを訴えると、お湯が入った洗面器とタオルが食事の穴から渡された。
最早、気が狂いそうだった。食事は与えられて衰弱死するようなことはないが、自然の光が入らない空間で時間が過ぎていく。
日付や時間はテレビでわかるが、ずっとテレビを見ていることにも飽きた。
「うおぁーーー!」
激しくドアに両手をを叩きつけ、蹴りつけ、体当たりをする。それでも外からの応答はない。
死ぬわけにもいかず、死にたいわけでもなく、諦めて寝ることにした。
♢
磯部誠の失踪から3週間が経過。
東京都内・某出版社・週刊weekly JAPAN編集部
「はい。週刊weekly JAPAN編集部です」
宮下結子は、一本の電話を取った。
「あの……。編集部の宮下結子さんをお願いしたいのですが」
くすんだ、若い男性の声だった。
「はい。宮下結子はわたしですが。どのようなご用件でしょうか?」
「あの……失踪事件の謎を追っていると聞きまして」
「ああ。はい。なにかご存じで?」
「いや……。電話でお話できるような内容ではないので直接」
「んー。わかりました。どこでお会いしますか?」
男が指定したカフェで待ち合わせをした。
「では、あなたはなにを知っているというのですか? それと、わたしがあの失踪事件のことを考えているのは誰にお聞きしましたか?」
「それは……」
「ねぇ、小林君。この方、あなたのお知り合いよね?」
そう宮下が言うと、別のテーブルから背中を向けて座っていた小林が顔を出す。
「小林!?」
「ダメよー、小林君。全然関係のない人に、余計なことを教えちゃ」
「すみません……。でも、この生田の噓がはじめからわかってたんですか?」
「そうね。あの二人の失踪事件については、いずれ真相が明るみになって記事が書ければいいとは思っていたけど、今はあくまで、わたしの頭の中。それにこのことを話しているのは、パートナーカメラマンのあなただけ」
「なるほど……」
「それに、知り合いでもない人間に、こちらから聞いてもいないことをベラベラと話す人間は、基本信用できない。お分かり?」
「はい……」
要は簡単だ。この小林の知人の生田は、前に一度小林に宮下結子の写真を見せられて一目ぼれしてしまい、このような行動に出てしまったという話だ。
宮下からは、この生田に対して、「やんわりとキツイ接近禁止命令」が言い渡された。
それにしても不可解だ。二人ともあれだけ顔が知れている著名人なのに警察への情報提供が一切ない。
本当は死んでしまっている可能性もある。だとしても、二人が死ぬほどの理由は見つからない。
最初の一時期噂になった「陰謀論説」も考えられると、宮下結子は思った。
♢
実際の警察の失踪行方不明事件の捜査の進展はというと、なにも無い。
但し、二人の「失踪行方不明事件」についてはだ。
磯部誠のプライベート用のスマートフォンの通話履歴から、ある事実が浮かび上がった。それは「公安部」が捜査する案件だ。
某国の人間としたと思われる通信記録が複数見つかった。この複数というのは違う電話番号からということだ。
だが、それでも優秀な公安部による捜査でも、磯部誠を見つけることは出来ないでいた。
♢




