時代の流れの変化
東京都内・某出版社・週刊weekly JAPAN編集部
宮下結子の違和感
宮下結子は考えていた。何故失踪した二人は、どちらもスマートフォンを置いていったのか。
「あぁーーっ! わっかんないなぁーー!?」
頭の中の考えが煮詰まって、宮下結子は叫んだ。
「どーしたんですか、宮下さん!? 突然叫んで」
「だってわからないのよ! なんであの二人はどちらもスマートフォンを置いたまま居なくなったの?」
「そんなの、GPSで自分の居る位置を知られたくなかっただけじゃないですか? 実際に磯部誠は、レストランから一度ホテルの部屋に戻ってから失踪しているわけですし」
「それはそうかもしれないけど、でもおかしい」
「なにがおかしいっていうんですか。警察が磯部のスマートフォンのGPSの軌跡の調べても、磯部は一切寄り道せずにホテルの部屋に帰ってたっていうじゃないですか」
「だから、そこがおかしいっていうのよ。失踪する人間が、わざわざそんな行動する?」
「するんじゃないですか? 現にしてるんだから」
「じゃあ、その一度ホテルに帰ってなにしたの?」
「さぁ? それはわかりませんけど」
「人は何の目的もなしに行動しない」
「それは、宮下さんはですよね? あるじゃないですか、無意識に気がついたらやってることって」
「じゃ、磯部誠は、無意識にホテルの部屋に帰って、無意識に部屋を出たっていうの?」
「それは……。でも部屋の中にカードキーが刺さったままドアがロックされていたってことは、無意識に部屋の外に出て、ドアがロックされて部屋に入れなくなったんじゃないですか?」
「だったら、フロントに言って鍵を開けてもらえば済む話でしょ?」
「う~ん……。そうですね」
「それに、村西明の方もそう。あんな雨の中を車で出掛けないなんておかしいよ」
「それも、自分の居場所がわからないようにじゃないですか? あの村西さんの車にも位置情報サービスで場所が特定できるようになっていたって言いますし、それに、もしその機能を切っていたとしても、どっかで警察のNシステムに引っかかってた可能性もありますし」
「じゃあ、そこまでして、自分の現在地を知られたくない理由ってなに?」
「それは……。わかりません」
「わたし、思うの。あの二人は……」
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磯部誠・監禁されてから1週間が経過。
鏡はないので自分の顔は見えないが、髭が伸びておそらく酷い顔なんだと思う。
磯部誠は、監禁生活の中で、外の世界が自分の居たときと変化していることに気づいていた。
最初の自分の失踪事件のオールドメディアでの報道は、各局とも大々的にしていたが、4日目にはどの情報番組やニュース番組を見ても自分に関するものはない。
おそらくは警察の捜査も止まったままなのだろう。
そもそも、オールドメディアは一様に失踪事件として取り上げられていて、誘拐事件としては取り上げられていない。
初めはコメンテーターの間で、「保守」対「リベラル」の構図が有ったり、「陰謀論説」も有ったが、今はない。
自分が座っていた番組の席には、もう違う誰かが座っている。
それが自分と同じタイプのリベラルなコメンテーターかと思ったら、そうでもない。現政権与党を称賛しているように見える。
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ニューメディアとSNSでの反応
現在の情報発信の速さは、インターネットによって、もうオールドメディアは追いつくことができないスピードだ。
このことは、ある政党の党首が、有名な動画配信サービスでの自身のチャンネルでそう言っていた。
磯部誠と村西明の失踪行方不明事件は、ニューメディアやSNSで、オールドメディアとは違う反応を見せていた。
今までは、一般の人々は世間に対して自分の意見・考え・気持を発信するなどということは出来なかったが、現在は違う。
オールドメディアによる街頭インタビュー調査の人数よりも、ニューメディアでのアンケート調査での人数の方が、圧倒的に多い。
もちろん、これはリベラル派に言わせれば、AIにより自分の見たい都合のいい結果が「おすすめ」に表示されているということも一理はあるとは思う。
それでも偏向報道と言われる現在のオールドメディアよりは信用があるというのが世の中の反応だ。
磯部誠と村西明が監禁されてからニューメディアでは、オールドメディアでの偏向報道に対して、より強い反発を見せた。
ニューメディア内でのこの失踪後の反応は、8割以上が「居なくなってスッキリした」「テレビが見やすくなった」との反応だった。
それでも、それですぐに偏向報道がなくなるわけでもなく、特にリベラル傾向が強いテレビ局や新聞では、変わらずにリベラル的な主張が行なわれていたが、二人の監禁から2週間目辺りから、ニューメディアの矛先が完全にオールドメディアの偏向報道に向いていた。
最初にニューメディアのターゲットにされたのは、ニューメディア内では「活動家」とも言われる二人のジャーナリスト。
フリー記者の溝口肇と帝都日報の堀口依子だ。
堀口は特に、地方自治体のトップの出直し選挙を行う前に、そのトップの人物に対する囲み取材での執拗なリベラルに偏ったインタビューで名が知れた人物だが、当初はその堀口のインタビューに騙されてしまったネット視聴者も多いのではないだろうか。
そのあまりにも偏ったリベラルな自己の考えを主張する現与党政権では常に問題になっていて、「出禁」になっている「野党の定例会見」もあった。
もう一人の堀口は、こちらもリベラル傾向が強い帝都日報の新聞記者で、度重なる活動家のような内容のインタビューを「内閣の大臣の定例報告会見」や「保守系野党の定例会見」で繰り返していた。
このことで、ずっとニューメディアやSNSでは、この記者二人を非難し続けていたわけだが、ここで遂に政府が動いた。
政府の会見に人数規制を設けたのだ。
人数規制のやり方は、裁判の傍聴人の人数制限のように「くじ引き」にした。
これに対して、各メディアからはオープンな政治ではないとの批判もあったが、各社カメラを1台だけ会見場に入れることは可能との通達があった。
これは「くじ引き」の結果によっては、カメラだけは入れるが、記者は入れないという構図も当然に生まれる。
カメラは記者席の後ろという決まりなので、記者がカメラを持って会見場に入り写真や映像を撮ることはできるが、直接の質問をすることはできない。
これにより、「公平に偏向報道記者の締め出しに成功」し、ニューメディアやSNS内では、大いに盛り上がった。
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