メディアの対立
この事件はオールドメディアから最初に発進されたが、そこからインターネット内でも賛否両論が巻き起こる。
但し、これは本人たちによる自作自演と見る者も当然ながらにいた。
「大体、もし拉致されたにしても犯行があまりにも大胆過ぎないか?」
「それも、もしわざわざ雨の日の夜を狙って、誰にも気づかれないように犯行を行なったとしたら、一体いつから二人を監視してたんだよ?」
「どっちもその日に女と会ってたんだろ。ハニートラップだったんじゃないのか」
「磯部誠は地方自治体のトップのときにも、そんな噂があったからまたハニートラップ間違いなし」
「いや、これは絶対に行き過ぎた保守勢力の過激派が拉致したのに違いない」
「彼らは正しい主張をしていた」
「いやー、あんなのいなくなっても問題ない。清々した」
「これって、もしかして良かったことじゃない?」
「浮気がバレての失踪かぁー」
などとの声が上がった。
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最初に拉致された磯部誠が失踪したとわかったのは、出演予定番組のスタッフが何度電話しても磯部が電話に出ないことから、滞在先のホテルに材質かどうかを問い合わせたところ、部屋のテーブルの上にそのままスマートフォンが置かれていたから始まった。
そして部屋には荒らされたような形跡がなかったことから、当初は事件性は薄いと考えられていたが、警察は部屋を調べて、鞄の中にあったもう1つのスマートフォンの通話履歴から、当日の夜に会っていた女性の存在がわかった。
その後に女性は、任意同行で警察署で磯部誠とのことを聞かれたわけだが、特に事件性や、磯部が自ら失踪するような理由のようなこともなかった。
このあと磯部誠と関係していたとされる複数の女性たちへの、任意同行での取り調べはすべて行われた。
これは地方にいた磯部の妻も同じで、成人していた子どもたちにも聞いたが答えは同じだった。
ただ妻の方は、夫がずっと複数の女性と浮気していたことに半ば気づいていながらも、その事実を突き付けられて半狂乱状態になった。
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この失踪事件の一報も、村西明が報じていた。
「この磯部誠さんのおとといの夜の失踪事件ですが……。いえ、磯部さんが果たして失踪したとはまだ断言できませんが、では磯部さんはどこに行ってしまったのでしょうか」
「私は、ひょっとしたら磯部誠さんのこれまでの発言に強い反発心を持った、一部の保守系の過激派が磯部さんを拉致したのではないかと考えます」
「この私の発言は一件、陰謀論に聞こえるかもしれませんが、関係が悪くなった某国との関係を取り戻そうとする磯部さんの発言を、関係が悪くなった某国との関係をいま一度見直そうという強い考えを強硬に推し進める保守勢力が関係している可能性が高いです」
「某国によるハニートラップではないかとの噂もありますが、某国にとってその可能性は低いのではないかと思います」
このように村西明は、リベラル派のスポークスマンのように、磯辺慎の失踪事件を伝えた。
その次の日の夜に、村西明は拉致されたのである。
村西の方も、磯部誠と同じように、部屋に残されたスマートフォンの通話履歴により、愛人関係にあった女性タレントとの関係が明るみになったのである。
旅行先から予定通りに帰国した村西の妻は、特に慌てた様子もなく、村西の浮気についてはすでに前から知っていたようで、警察の調べには冷静に応じた。
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週刊weekly JAPAN編集部
宮下結子は、このオールドメディアでの報道や、SNSでの反応を見て思った。どうして、磯部誠と村西明は、突然いなくなったのだろうと。
「なんで磯部誠と村西明は、突然いなくなってしまったのか……」
「なにをさっきから一人でブツブツ言ってるんですか、宮下さん」
「だって、どー考えても磯部誠と村西明の突然の失踪はおかしいでしょ!?」
「そりゃ、おかしいとは誰でも思いますよ」
「いい。小林君。わたしが一番おかしいって思ってるのはネットユーザーたちの反応よ。ネットアンケートでは8割以上が、二人の突然の失踪を喜んでる」
「そりゃ、新政権に変わってからは、政権の高い支持率もあって、あの二人はネットでかなり叩かれまくってましたからねー」
「いくらインバウンドでの問題や、野党議員からの行き過ぎた追及の質疑からきた某国との関係悪化の件があるとはいえ、この反応は異常過ぎない?」
「そんなの世の流れに乗るのが、世の常じゃないですか。宮下さんも、もう32歳なんだからわかるでしょー」
「小林君、その発言はセクハラ。注意ね」
「はい。すみませんでした」
「一番わからないのは、もし犯人がいたとしたらの、その目的……」




