第56話 意外な人から金言が
俺と瀬戸川さん、瀬戸川さんのお姉さんと雫ちゃんの4人で歩いて体育館に到着した。
ウォォォォーーーーー!!
「ありがとーーー!!」
と叫んでいるのは俺の兄貴だ。
・・・・ちゃんとギター&ボーカルって本当に主人公って感じの人だな。
「・・・凄かったね。紫穂姉、スズ姉」
「葵の言うとおり何でもできるのね」
「姉さんから聞いたんですか?」
「えぇ。自分の2個下の弟は私以上の才能があるって」
「・・・・・」
その姉貴もやばいんだけどな。
学力だけなら兄貴以上だからな。
どこの大学にも行ける中で、実家に近いからっていう理由で地元の大学に進学したからな。
俺からしたら嘘だろって思うんだよね。
「・・・本当にあなたのお兄さんは特別なのね」
「そうかもな・・・なんでちょっと練習しただけでギターが弾けるんだろうな」
「ちょっとの練習ですか?」
「家でたまに練習したのを見ていたからな。聞いたら、文化祭の1週間前に誘われたって言って練習していたからな」
「・・・・凄すぎませんか?」
「だから俺は諦めたんだよ。この人にはどんなに頑張っても追いつけないってな」
「そうなんですね・・・」
俺がめっちゃ頑張って努力してできたことを、軽く練習しただけで追い越していくんだ。本当に絶望したし、心が壊れる感覚があったからな。
「・・・それで?」
「何がですか?」
「涼香ちゃんは私を超えることを今でも諦めていないのに、君は諦めるんだね」
「・・・・・」
「ちょっと姉さん!!」
と俺を煽ってきた瀬戸川姉に瀬戸川さんもちょっと怒ってかばってくれた。
・・・・そうだな。
「えぇ。そうですよ」
「開き直りかしら?」
「その通りですよ。開き直っただけです。どんなに頑張っても追いつくことができなくて、ただただ差が開くだけなので」
「そうなんだ・・・「それに」うん?」
「いわれたことがあるんですよ。『お前が努力する姿を見て負けていられないな』って、それを言われた瞬間これはダメだなって」
「ありゃりゃ?どうしてかな?」
「だって、俺が努力をめっちゃ頑張って必死になっている横で、ゆっくりしている兄が俺の先をどんどん行っていくんですよ?・・・馬鹿らしくなったんですよ」
「なるほどね・・・劣等感?」
「違います。悟りの境地ってやつです」
悟ったら気が楽になったんだよね。
何度も言ってはいるが、頑張って努力して追いつこうと必死なっている横で、
ゆっくり頑張っている兄貴のほうが俺より上なんだと。
努力したところで、真の天才の前には無力なんだと。
「悟って開き直って、俺は俺らしく生きようと思っただけですよ」
「俺らしくね・・・」
「兄貴や姉貴を超えようと努力を頑張ってやったとしても、追いつくことができないなら、俺らしく生きてみようかと思っただけですよ。家族に縛られる必要はないですからね」
「ふ~~~ん?その生き方は・・・悪くないね」
「褒められた?」
「姉さんが?」
「紫穂姉が褒めた?」
「2人とも・・・私を何だと思っているのかな?」
「「人をおちょくる天才」」
「・・・・・・」
瀬戸川さんだけでなく、雫ちゃんからもそう思われているのかよこの人は。
「スズちゃんにも言うけど、誰かと比べられるってのはよくあることなのよね」
「・・・・そうなの?」
「そう。私と葵も同じ学部だから比べられているし、だからこそ自分を出すのが一番なのよね」
「自分を・・・出すこと」
「そう。だれかと比べられて評価を気にしていたら、たぶんずっと疲れるだけで楽しくないのよね。それこそ、諦める前の香田君がそんな感じじゃない?」
「そうですね・・・実際、全然楽しくなかったですよ」
「それを捨てて、自分らしく生きるほうが楽しいのよ。切羽詰まって努力するよりも余裕が出てくるわけだからね」
「「「・・・・・・」」」
そうだよな。周りの評価を気にしていたら、それに振り回されて自信がつかれるだけだからな。
それぐらいなら、周りのことを気にせずに自分らしく生きたほうがましだな。
「私も・・・最初は優等生っていうのを押し付けられていたし、親からもスズの姉として見本を見せろって言われていたからね・・・それでいろいろ限界がきた結果、こうなったってことかな」
「姉さんも・・・そんなことが」
「だから・・・スズも、私に囚われずに自分らしく頑張ってほしい」
「・・・・・・」
なんだろ。前でめっちゃバンドが盛り上がっているのに、すごい湿っぽい話になったな。ってかこの人真面目な話できるんだな?
人をおちょくる天才なのかなと思っていたが、ちゃんと姉らしいことができるんだな。
「雫も香田君も・・・何を考えていたのかなぁ?」
「「何も考えていません!!」」
・・・エスパーなのかなこの人は!?
ってか雫ちゃんも同じことを考えていたのかよ!?




