第4話 あの時の記憶はない
家族との仲は本当に悪い。
父さんも母さんも俺に対して「お兄ちゃんは100点だったぞ」とか
「お姉ちゃんは全国模試で50位以内に入ったぞ」とか言われてきたからな。
質が悪いのは、無自覚に言っていたことだ。
俺がどんだけ傷ついたのか全く気付いていなかった。
それで、1年前に喧嘩をしたときに言ったんだよな。
『いつも、姉貴や兄貴と比べてばっかで俺のことなんて見てもないくせに!!』
この言葉が効いたのかは分からないけど、凄いよそよそしい感じになったんだよな。
兄弟姉妹間の仲も最悪になった。
兄貴とはぶつかり合う感じ。
姉貴とはお互い不干渉。
妹とは話すことがあるが、会話が長続きしない。
家の雰囲気はハッキリ言って悪い。
だから、最初俺は高校を遠くの寮がある高校に通うかどうか相談したんだが。
思いっきり断られてな。一番近場の光州高校になったんだよな。
「さてと・・・アルバイトを探そうかな?」
とお風呂から出て、俺は今日の勉強を済ませた後、アルバイト先を探すのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2カ月後。
「こうなるのは分かっていたんだけどね」
「高校でも変わらないんだな」
「・・・変わってほしかった」
俺の机の上にある手紙の数。
全部で28枚。全部兄貴のファンレターだ。
最初は香田恭平の弟として勝手に期待を持たれ、その期待を裏切られたと知ってからは俺のこと見に来る人は一気に減った。
一番は中間テストだ。この高校は中間のベスト20は掲示板に張り出されるんだが、
俺の名前は当然ない。それでも順位は38位だったんだがな。
その結果、香田恭平の弟は普通だと噂されるように。
「実際普通だから何も文句はないんだけどな」
「それでも、お前をバカにするやつは一定はいるだろう?」
「中学で慣れているよ」
「慣れちゃあいけねえよ」
とマサと話していた。
「38位は結構いいと思うけどな」
「兄貴が1位を取っているからな」
「それは・・・まぁ」
リビングでそういう話はよく聞くからな。
俺は家で自分の順位を言わなくなった。
親父から、「恭平は1位だったぞ。ちゃんと勉強しているのか?」
と言われたときは、めっちゃ頭にきたな。
努力して頑張っても、兄と同じ順位を取らなければほめてもらえない。
これが中学時代の日常になったからな。
「俺は俺のペースで頑張ればいいや」
「本当に変わったよな。前はもっと頑張らないとって脅迫観念だったよな」
「頑張っても無理だと分かってしまったからな。諦めたってのが正しいかもしれん」
「そこまで追い込められていたんだな」
「きついぞ。頑張って10位になったときでさえ褒めてくれなかったしな。
「恭平は1位だったぞ」が俺にとって呪いだよ」
マジでこの言葉が夢にまで出てきたレベルでトラウマだぞ。
「比べられるのに慣れるともう嫉妬も沸かないんだよ」
「すり減った心を治すには諦めたほうがいいってことか?」
「そうなのかもしれん」
正直、精神的にも肉体的にも限界だったからな。
その結果が。
「あの中学でのお前がぶっ倒れた事件だよな」
「事件なのか?」
「そりゃあ、突然意識がフラッと無くなってバタン!!と音と共にぶっ倒れたんだからな」
「あの時の記憶は全然ないんだよな俺は」
「あの後、色々大変だったからな」
意識を取り戻したら病院のベットの上だったからな。
倒れた原因はストレスと言われたっけ。
その結果、俺の心の闇を両親や学校が知ったんだよな。
「その結果が両親と溝が深まり、学校からは気を遣われるって」
「めっちゃ居心地悪かったけどな。気を遣われているのにも気づいていたし」
「しかも、追い詰めていたのに気づくのが遅いし、お前もぶっ倒れてから机に向かって休み時間も勉強していたのを辞めたんだよな」
「プツンと糸が切れたからな」
学校や両親が気を遣っているのは分かるが、気を遣うって言いながら腫物を扱うような感じだったのが腹立つんだけどな。
その結果、両親と言い合いになったからな。両親っていうよりは親父とだけど。
「いつの間にか、父さんって呼ばなくなったんだよな」
「マジで?」
「いつの間にか啓之さん(※龍也のお父さんの名前)って呼ぶようになったからな」
「・・・家族じゃなくなってるやんけ」
「母さんも名前で呼んだ方がいいかもしれんと思ってるところだ」
「・・・・・・・・もう何も言えない」
それぐらい、俺と家族との間にはひびが入りまくっている。
何時壊れてもおかしくないかもしれない。
けどいいんだ。両親は俺に期待していないだろうし。
優れた姉と兄と妹。それがあの人たちにとって家族なのだから。
俺は家族じゃなくて・・・同居人なのかもしれない。
「だから、アルバイトも考えているって感じか」
「中間で50位以内の人は今からできるからな。探している感じ」
「俺もアルバイトするために頑張らないとな」
「お前勉強苦手だもんな」
と2人で話していたら、1年2組担任の水無瀬春乃先生がやってきた。
そして、
「席替えをやるわよ」
と席替えを提案するのだった。
・・・のちのこの提案が俺の運命を変えるとは夢にも思わなかった。




