第14話 だから嫌いなんだよ
家に帰ってきた夜、兄貴から、
「球技大会はどっちに出るんだ」
と聞かれたから、
「サッカーだけど」
と答えた。
「お前もサッカーなのか」
「兄貴もなんだろ?」
「まぁそうだが・・・あまり本気でやらんがな」
「それってどういう・・・ってそっか。選手権の予選っていっても球技大会の時には終わっているんじゃねえの?」
そうなんだよね。球技大会は6月25日。
予選は決勝戦が6月19日に行われるため、問題ない気がするんだが・・・
そういうことか。
「そこまで余裕で勝てるってことね」
「そこまでの余裕はないんだが・・・監督はこのままいけば全国は間違いないだろうって言ってな」
「・・・まぁ、中学の全国大会ベスト8のメンバーがそっくりそのままこの高校にきているから仕方ないんじゃない?」
兄貴と一緒にサッカーしたいってやつと、兄貴と一緒に行けば全国は堅いだろうというやつらがここに来たからな。
監督がそう思うのも無理ないだろうけれど。
「それでも油断しすぎじゃねえの?」
「そんなにか?」
「1年のサッカー部の奴らが話していたぞ。『恭平先輩がいれば全国に行けるよな』って」
「・・・逆にプレッシャーになるんだよなそれが」
・・・俺が知らないことか。
兄貴も兄貴でそれが当たり前になっていたんだろうな。
天才も天才で苦労はするんだろうね。
俺にはわからない世界だな。
「まぁ、俺たち3年は流すけど、2年の奴らはそういうわけにはいかないからな」
「・・・新チームに向けて気合が入ってるってことか」
「それだけじゃないんだがな」
「うん?・・・もしかして、女子にアピールしたい奴らもいるってことね」
コクリと頷いた兄貴。
まぁ、誰だって女子にモテたいという欲望を持った男子は多いだろうし仕方ないと思う。
俺や兄貴が例外なだけだ。兄貴は異常にモテてたし、俺はそのとばっちりをくらっていたからな。
「・・・龍也」
「なに?」
「お前は俺が嫌いか?」
「急にどうしたんだよ」
「お前が俺と比べられながらも努力をしていたのを見てきた。俺がいなければ褒めてもらえたんじゃって思っていたんじゃないかとな」
「だとしても、姉貴がいるからな。あの人とも比べられていたんだぞこっちは」
「そうか・・・」
何であんたが悲しい顔をしているんだよ。
「最初は尊敬だったよ」
「そうか・・・尊敬?」
「あぁ。小学校や父さん母さんが兄貴をめっちゃ褒めていたからな。俺も兄貴のような人間になりたいって思ってな」
「そうだったのか?」
「もちろんだ。・・・その後、だんだん疲れていったんだよな」
「疲れた?」
「そう、兄貴とどんなに頑張っても差が埋まらないどころか広がっていくんだからな。いつの間にか尊敬が憎しみに変わった」
「・・・・・」
何で何で・・・ってなっていたんだよな。
追いつきたい一心だったのにどんどん広がっていくんだ。
そして悟ったんだ。
「けど、中学に入ってから憎しみが諦めに変わっていった」
「・・・諦めか」
「あぁ。どんなに頑張っても追いつくことができやしない。努力してもそれ以上の努力と才能で押しつぶされる。才能のない奴がどんなに頑張っても努力する天才には勝てないんだって」
「そんなことは」
「あるんだよ。俺が中学の時に一度倒れたの覚えているだろ」
「もちろんだ」
「あれって疲労で倒れたんだぜ」
「えっ」
「あんたに追いつこうと夜遅くまで勉強した結果な」
「・・・・・」
「俺はどう頑張っても兄貴みたいにはなれない。兄貴を真似ようとも思わない。俺は俺として生きてみたいなと思ってな」
「それでバイトも始めたってわけか」
と兄貴は一度顔を上げ、ふぅ~~~っと息を吐きだし、
「龍也は俺のことを何とも思っていないってことか?」
「・・・そうなるね」
「そうか・・・俺からは何ももう言うつもりもない」
「入学式のことね」
「あれで少し目立っていたよな。すまない」
「別に終わったことだからいいよもう」
そして最後に兄貴はこう言った。
「俺もそうだし、父さんや母さんもお前のことを見てやれなかったことを後悔してる。少しだけ話をしてほしいんだよ」
「・・・無理だ」
「お前が両親のことを嫌っているのは」
「別に嫌ってなんかない。ただ俺については無関心でいてほしいだけだ」
「どうしてだ!?」
「ずっと姉貴と兄貴に比べられて褒められた記憶がないんだぜ。怒られてばっかりだ」
「そう・・なのか」
「だから、両親と仲良くはもうできないんだよ。俺はな。
あんたがどんなに言っても無理なもんは無理だ」
・・・家族と仲良く会話した記憶がないんだぜこっちは。
だから、変に気遣うぐらいならほっといてほしいんだよ。




