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吸血鬼とならず者たちの町

「随分と酷い町だな・・・・・・。」


 俺は激しい腐臭と、目の前に広がる目を手で覆いたくなるような光景に思わず顔をしかめる。

・・・・・・・初めて訪れた町がこんな有様だとは。


 長い間手入れされていないのか、建物はボロボロ。清掃する人がいないのかゴミは散らかり放題。集るハエたち。余り見たくないが、人間の死体まである。前にいた世界とは大違いなこの光景を見て、改めてここが異世界だという事を認識した。


「ここは“フィラーニ”。通称ならず者たちの町です」


 パルはこんな光景に慣れているのか、眉一つ動かさずに平然としている。

まぁ、当たり前か。女の子といえど、パルはハンターなんだ。人間や魔物の死体は嫌というほど見ているのだろう。まだ十六のそれも女の子なのに殺し、殺される覚悟があるなんて・・・。


 俺は思わずパルの頭を撫でた。


「? どうしました?」


「いや、何でもない」


 パル=レングス。俺に挑んできたハンター達の一人で、色々あって今は俺のメイドをやっている。

俺のハーレム候補であり、この町につくまでに俺にこの世界の事を教えてくれた先生でもある。


「それにしても、ならず者たちの町とはどういう事だ?」


「そうですね・・・・・・。シュウヤ様は私が道中教えたことを覚えていますか?」


「あぁ。この世界は、パルにたいな“人間”と俺のような“魔物”と呼ばれる二つの種族が住んでいて、俺たちが会った森が人間の住む国と魔物の住む国の国境線である。数十年前に人間と魔物との大きな戦争が起きて、それが今も続いている・・・・・・・という話だろう?」


「はい。その通りです」


 そう言ってニッコリと笑うパルの顔を直視できずに、俺はソッポを向いた。

・・・・・・うわーー!! 可愛すぎるだろう!!


 前の世界で俺はろくに女性と話したことがなかったし、ましてやこんな美少女と喋ったことが無かったからな。心臓がバクバクしてやがる。こんなんでハーレム作れるのか俺?


「ここがならず者たちの町と呼ばれるのは、その戦争が関係しています」


「ふむ」


「国境付近のこの町は、人間と魔物の争いが起きると真っ先に戦場となります」


「なるほど・・・・・・。魔物側としては、この町を拠点に人間達と戦争しようとし、人間側はこの町を前線基地として魔物側と戦争したいと考えているので、ここは激戦地区となるのか」


「はい。そうなると」


「この町のトップや金を持っている人間は他の町に逃げ、貧民と真っ当な生き方をしていない人間がこの町に残る。町のトップがいないので町はまとまりを失い、治安が悪くなった。だから、ここはならず者たちの町と言われるようになったのか・・・・・・」


 世紀末救世主伝説の町みたいな景観だもの。ビルは無いけど。恐らく、こういう理由なんだろうな。

ふと、パルを見てみると目を丸くしてこちらを見ていた。


「凄いですね・・・・・・。シュウヤ様は。一を聞いて十を知るとはまさにこのことですね」


「フン」


 だからその笑顔は止めて!!


「しかし、そのような町になれば国は黙っていないのでは?」


「普通ならそうですね。ですが類は友を呼ぶと言うように、こういう町になってしまったので他の犯罪者達もここに集まり始めてもう国の力ではどうしようもなくなってしまったのです」


「ここは一種の独立国家のようなものか」


「そうなりますね」


「ということは、国の補助を得られないのでは? なぜ、魔物たちに侵略されていない?」


「腕っ節が強いもの達がいますからね・・・・・・。下手したら国軍より強いかもしれないくらい」


「なるほどな」


「それでは、行きましょうか? 余りここにいると厄介なことに巻き込まれるかもしれないので」


 そうだな。こんな所に美女はいなさそうだし、この町はスルーして次の町に急ぐか。俺はパルの提案を受けることにした。


「町に入ります。耳と目はその仮面で隠してくださいね」


「無論だ」


 赤い目と長い耳は一発で吸血鬼だとばれるらしい。そこで、俺はパルから渡された白い仮面を着ける。某六英雄の一人の侍に似ているなこの仮面は。


 さぁ、準備完了だ。さっさと次の町に――


「おい!! このクソガキが!! ナメてんのか!?」


「だって、ボクは何もしてないじゃないか!! 言いがかりをつけないでよ!」


「あん!? 調子乗ってると殺すぞ!?」



 目の前に三人の柄の悪そうな男に囲まれている少年を発見。

なんのフラグだ、このヤロー。


「囲まれているな」


「囲まれていますね」


「随分冷静だなパル」


 俺はてっきり、『助けにいきましょうよ!!』と言われるかと思ったのだが。


「この町では当たり前の光景です。いちいち気にしていられませんよ。それに」


「それに?」


「私はシュウヤ様のメイドです。首を突っ込むか否かは、シュウヤ様が決めてください」


「ほぅ」


 そういって、ニヤリと口を歪めるパル。なるほど・・・・・・俺は試されているのか。俺がこの後どういう行動に出るかを。


 選択肢は二つ。このまま見過ごすか、厄介ごとに巻き込まれることを覚悟して少年を助けるか。


 ギャルゲの選択肢みたいだな。さて、どちらをとればパルの好感度が上がるのだろうか。

・・・・・・考えるまでも無いな。


「このまま見過ごす」


「はい?」


 ん? なんで、フリーズしてるのパルさん。普通に考えて見てない振りをするでしょ。

厄介ごとに絡まれるの分かりきってるし。


「聞こえなかったか? 俺は、見ていない振りをする、と言ったんだ」


「・・・・・・・・・・・・分かりました」


 なんでだろう? もの凄い怒のオーラを感じる。


「不満か? お前は言ったじゃないか。この光景は日常茶飯事だと」


「確かに言いましたけど・・・・・・」


 うーん。ここは一つジョークをかましますか


「それに俺には、関係の無い人間を殺す理由はあれど、助ける理由など無い」


「――ッッ!!」


 俺の言葉に、ハッとなるパル。・・・・・・あれ? 通じなかった?

まぁ、いいや。そうと決まればさっさと町を抜けますか。


「この、クソガキがッッ!! 死にやがれ!!」


 男は腕を振り上げて、少年に殴りかかった。


「――クッ」


 少年は目を瞑り、来るべき衝撃に備える。しかし、いくら待っても衝撃は来ないだろう。

――――だって、俺が男のパンチを受け止めたからな。


「な・・・・・・何者だ、テメェェェ!!」


「貴様らのような愚者に名乗る名など無い」


 ギュッと掴んでいた腕を握りつぶしてやる。


「ギイャャァァァァァーーー!!」


 ボキボキという音が鳴り、男は叫び声を上げながら地面に倒れた。


「な!?」


「おい、大丈夫か!?」


「愚者達よ。随分と温い遊びをしているな」


 男に駆け寄る二人の前に俺は声をかける。二人の男はビクっと身体を震わせ、俺を見る。

いいねぇ、その恐怖におびえた目。なにか込みあがってくるものがあるよ。


「お・・・・・・お前、俺たちが誰か分かってんのか!?」


「知らんな三下が。今すぐその臭い口を閉じろ」


「さ、三下だとーーッッ!?」


「臭くなんて無いぞ!! 昨日はちゃんと歯磨いたモンね!!」


 おい、若干一名キレルところが違うぞ。


「俺らはこの町を仕切っているブラウニーファミリーの者だぞ!? 俺らに逆らったら・・・・・・ブゲラッッ!!」


「口を閉じろといった筈だ」


 一人の男を問答無用で殴り飛ばす。何とかファミリー? この町の人間、ましてや人間じゃないので分かりませーン。


「ヒィッッ!!」


 最後の一人か・・・・・・。ん? こいつ失禁してやがる。


「これが、貴様達がこの少年にしていた行為だ。これに懲りたらお前らのボスに伝えろ。次は無いと」


 最後に決め台詞を言ってみる。くー、我ながらイカすぜ!


 男は気絶した二人の男を肩に抱いて、逃げ去っていった。 


「助けないんじゃなかったのですか?」


 物陰に隠れていたパルが尋ねてくる。その・・・・・・なんだ。体が勝手に動いたんだよとは言えないしなんて言おうか・・・・・・。


「通行の邪魔だったから排除したまでだ」


「あの・・・・・・仮面の方、助けていただいてありがとうございました!!」


「俺は助けたつもりは無い。俺の道を邪魔した奴を排除したまでだ」


 真っ直ぐお礼を言われるのはこそばゆいな。頬をポリポリと掻く。


「少年よ。お前も男なのだから、あれ位力でねじ伏せろ」


「え? ボク女ですよ?」


「「は?」」


 見事にはもる俺とパル。



 ・・・・・・何ですと? 俺はならず者たちの町でボクッ娘に出会った。















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