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吸血鬼は人間とお話する

 俺の目の前にいるのは三人の人間。三人とも武器を持っているので、少なくとも一般人ではないだろう。強面の男剣士に、爽やかイケメン系銃士、それとフードを目深に被った、性別がわからない魔法使い。


 三人が放つ異様なまでの殺気に、俺は只者ではない何かを彼らから感じた。


 だが、この程度で屈する俺ではない。不敵な笑みを浮かべ、威風堂々とした佇まいで彼らに対峙する。


 それよりもだ。異世界に来て、初めて出くわした人間がさ俺に殺気を向けてくるってどうなのよ?

 普通はこんな恐そうな人たちじゃなくってさ、魔物に襲われてる美女とか、お姫様とかと会ってさフラグを立てんじゃないのかな? 俺は男となんぞフラグを立てたくない!!


 ……とまぁ、俺の心の中の叫びは置いといて、ここで人間と会ったのはラッキーだったな。人が住んでる所をこいつらから聞けばいいし。当ても無く歩くより速く人里に着くし、その分早く俺の野望が叶うしと一石二鳥だ。


 よし、そうと決まればさっそくコイツらから聞き出すか。


 しかしどうやって聞き出す? コイツらは俺のこと警戒してるし簡単に教えてはくれなさそうだし。


 俺は腕を組み考える。


 “魔眼”を使うか? いや、駄目だ。アレはまだ慣れてないのか思いのほか体力を使うし、異世界で初めて会った人間だから平和的に行きたい。そうなると、やっぱ話し合いしかないか……。


 そんなことを考えていると、唐突に剣士が口を開いた。


「お前、何者だ?」


 おっ、あっちから話し合いの糸口を切り出してくれた。これはチャンスだな。先ずは、コイツらの警戒心を消すことから始めよう。


「ふん。名を聞く時は自分から先に名乗るのが筋ってものではないか? まぁ良い、俺は修也だ。愚かな人間達よ」


 無難な自己紹介だったけど……どうだ?


 アレ? なんか、先刻より殺気が大きくなってない?嘘だろ・・・何がいけなかったよ?


 あ、挨拶してねーからか。そりゃ、失礼な奴にはこういう態度とるわな。俺だって、初対面の奴に挨拶なしに話し掛けられたら、コイツ何なの?って感じるし。それと、少し表情を柔らかくしてみるか。



「初めまして、だな」


「――ッッ!!」


 剣士はギュッと剣を握り先ほどよりも鋭く俺を睨んでくる。


 ……何を間違えた?俺。初対面の奴にここまで嫌われるなんて初めてだよ……。

 もういいや。情報だけ聞き出そうか。どうせ、コイツらとはもう会わないだろうし心象が悪くたって構わないだろう。


 俺が口を開こうとしたとき、剣士が先に喋りだした。


「……お前吸血鬼だろ?」


 ん? 俺が吸血鬼だって何で分かったんだ?


「ほぅ、人間よ。何故俺が吸血鬼だと分かった?」


「人間だと最初は思ってたが、その赤い目と尖った耳を見て分かったよ。それが吸血鬼の特徴だからな」


 あっ、そうか。この世界には吸血鬼って魔物がいるって神さまが言ってたし、分かるのが当たり前か。つか赤い目と尖った耳って・・・鏡が無いから俺の顔が確認できないけど、一体どうなってるんだ?


「ふむ……。なかなかの観察眼だな。人間よ」


「そんなことはどうでもいいんだよ。俺の質問に答えろ! お前何者だ!?」


 少し語気を荒める剣士。何者って……自己紹介したじゃん。鶏ですか彼は? 三歩歩いたら記憶なくしちゃうんですか?


「先ほど言っただろう。俺の名は修也。そして、お前の読み通り吸血鬼だ」


「嘘だッッッ!!」


 うわ、ヤンデレ……ゴホン。そう言ったのは、イケメンの銃士君。何が嘘なんだよ。


「吸血鬼なんて雑魚モンスターがこんなランクの高い場所にいる筈が無い! それに、人型の吸血鬼なんて聞いたこと無い!!」


「アイツの言う通りだ。本来、ランクDで駆け出しの冒険者でも何とか倒せる吸血鬼が、このランクSの場所にいる筈が無ぇ。しかも、人型で知能がこんなに発達している吸血鬼なんて聞いたことが無ぇぞ。挙句の果てにはランクSS指定のサードベアーを容易く撃退するだと……ありえねぇ」


 サードベアー? 先刻の熊の事か?


 というか、この世界の吸血鬼どんだけ弱いの? 駆け出しの冒険者にも力が及ばないって……。

 あぁ……俺の吸血鬼像が……音を立てて崩れていく。


「よもや、吸血鬼がここまで馬鹿にされるとはな……」


 ボソッと呟く俺。


 頭が痛い。高貴で、気高く、強い吸血鬼など所詮は想像の産物ってことかよ。いや、ものは考えようか。俺が頑張って吸血鬼の位を上げれば問題ないな。さっきも決意したじゃないか。俺はヴァンパイアとして高貴に、優雅に、気高く生きていくと。


「質問に答えろーーッッ!!」


 銃士はトリガーをひいた。俺の頬を銃弾が掠めた。


 ツゥーっと液体が頬を流れる。手を当ててその液体を確認すると……それは、血だった。誰のだ? 決まっている。俺の。


 俺が……傷ついた? 誰にやられて? 問うまでもない。目の前のアイツだ。では、目の前のアイツは何だ? 人間。そう“ただ”の人間。


 人間に――人間風情に俺は傷つけられたのか……? クツクツと不気味な笑いが零れる。あぁ……腹立たしい。人間なんぞに――。


「お前達は勘違いをしている」


「レン、落ち着け!! クソッ!! こうなら自棄だ! パル! 援護魔法を!!」


「分かりました!!」


 銃士は銃弾を矢継ぎ早に放ち、魔法使いは詠唱を始め、剣士は剣で切りかかってくる。


「本来、吸血鬼とはお前達のような愚かな人間が簡単に口に出してはいけない存在だ。それを、雑魚呼ばわりだと? ふざけるのも大概にしておけ」


 銃弾を全て避け、魔法使いが放った火炎球を右手で弾き、黒い剣を想像し剣士の剣を受け止める。


「「「なっ!!」」」


「お前らに本当の吸血鬼と謂われるものを見せてやろう」


 ここからは、戦闘という名の虐殺だ。さぁ、踊れ踊れ。踊り狂え、罪人よ!


 自分の姿を蝙蝠に変え、銃士の後ろに自分を自分を転移させる。


「吸血鬼に傷をつけた罪は重いぞ?」


「!?」


 突きを放ち、銃士の胸に風穴を開ける。それだけでは満足しなかったので、頭を掴んで地面に激しく打ち付けた。ドシャという音とともに血が、噴水のように吹きあがった。


「馬鹿な! 何だ今の!? コウモリに変身するだと!?」


 頬についた返り血をぺロと舐める。……不味かった。

 

 それにしても、剣士の驚いた声が心地よい。


 そうだ。恐れろ。それが俺の、吸血鬼の力になる。この世界の軟弱な吸血鬼は吸血鬼なんかじゃない!


「これが吸血鬼だ。人間など俺の前では赤子も同然」


「!」


 剣士の後ろに移動し、耳元で囁く。

 ……コイツ、汗くせーな。そう思いながら首を一突き。剣士は顔から地面に倒れこんだ。


 さぁ、あとは……。


「そこの魔法使い、後はお前だけだ」


 膝を震わせながら地面にへたり込む魔法使いの前に移動し、言葉をかける。


「――――ァ」


「どうした? 恐くて声も出せないか?」


 何か快感を感じる。今まで感じたことのなかった歓喜。俺の俺の思考は完全に吸血鬼になっているようだ。


「あ、あなたは……もしかして“王”ですか?」


 魔法使いは震える声でそう尋ねてきた。王? 何のことだ? もしかして、俺の野望を知っているのかコイツは。なら、正直に答えるか。


「そうだな……今は王ではないが、いずれは王になるだろう」


 ハーレム的な意味で。


 俺がそう答えると、魔法使いは「きゅー」と言いながら気を失った。

 きゅーって。


 まぁ、いいや。殺す前にコイツの正体を見てみよう。そう思い俺はこの魔法使いのフードを上げ、魔法使いの顔を見る。


「女の子……だと?」


 魔法使いは女の子でした。それもとびっきり美少女の。










三月五日 文章改定

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