吸血鬼は能力を確認する
「ん……ここは?」
目をさますと、見渡す限りの木、木、木。どうやら、どこかの森の中らしい。先ほどの神さまの姿はもうない。
(ということは、転生に成功したのか)
そこで、俺は服装が変わっていることに気づく。
黒いコートに、黒い手袋。肩から腰にかけて血ぬられた鎖でコーティングされている。おぉ……物々しい格好や……。
「確かに、吸血鬼っぽいけどさ」
ふぅ、と一回ため息をつく。前の世界とは違い空気が澄んでいておいしい。ピチュチュと小鳥のさえずりが聞こえてきた。さわやかな風がそよそよと吹いている。
……のどか、だな。
「さて、まずは能力の確認でもするか」
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俺が神に頼んだ一つ目の願いは自分を吸血鬼として転生させること。
いや、さ。格好いいじゃん? 吸血鬼って。不老だし。
ニヒルな笑みを浮かべて相手を圧倒する闇の王。
うん。男だったら何かくるものが無いか? まぁ異論は認めるけど。
とりあえず、そういった理由で俺は吸血鬼に転生した。吸血鬼の弱点である日の光や、ニンニク、聖なる力は神様パワーで消した。「弱点の無い吸血鬼」はい。チートですね。
「“魔眼”は敵がいないから使えないし」
吸血鬼の能力。“魔眼”俺の目に見つめらると魔物だったら服従させることが出来、人間だったら魅了する所謂チャームの能力。自分より格上の相手や意思抵抗力の高い敵には効かないというデメリットがあるが、俺は恐らくこの世界最強の存在だと思うので問題は無い。
「とりあえず、身体能力のチェックをするか」
この世界の最強の存在でも軽く倒せるほど強くしてくれと言ったけど、どうなってるのだろうか。
まずは軽くジャンプしてみる。
「……50mは跳んだか?」
森の全体を見渡すことが出来ました。軽い跳躍でこれか……本気を出せばどこまで行くのだろうか。
次に、木を殴ってみる。
「……破壊神ですか? 俺は」
はい。木っ端微塵に砕け散りました。拳圧で半径5m内の木も全て倒れた。うん……。力加減に木をつけよう。
「と、とりあえず身体能力のチェックは終了!次はあれやって見よう」
ほら、よくあるじゃん?攻撃を受ける直前に吸血鬼が沢山のこうもりになってその攻撃を避ける技。アレを再現してみよう。
「イメージ」
目をつぶりイメージする。自分がコウモリになって10m先に現れるのを。
フッ、と身体が軽くなったのを感じ目を開くと俺は10m先に移動していた。
「自分でコウモリになった所、見れないのかよ……」
吸血鬼の転移魔法のようなものなのか? この技は。自分では分からないので少し落ち込む。乗り物酔いのような感覚が襲いかかった。
「……次は武器を創ってみよう」
ある漫画で、コウモリが集まって剣になるっていうのを見たことがある。真似してみるか。
目を閉じ集中する。イメージするのは赤と黒の混じった銃。
バサッ、バサッと何かの羽の音が聞こえた次の瞬間、手にズシリと重い感覚を感じた。
「おぉ……成功だ!」
思わず口元がにやける。
俺の右手には想像した通りの銃が握られていた。試しに構えてトリガーを引いてみる。
「ぐぅ――」
銃弾が放たれるのと同時にとんでもない衝撃が腕にかかる。これは……! 銃弾は目の前の木を貫通してその奥の木にぶつかると――ものすごい衝撃音とともに爆ぜた。
威力は申し分がない。だが、慣れるまではおいそれと使えぬな、コレ。
「次は魔法だな」
せっかく魔法のある世界に来たんだ。魔法を使ってみたい。だけど、使い方が分からん。
「たしか、こういう類の小説では……」
まず、自分の中に流れる魔力を発見する。
……見つけた。
次にどのような魔法なのかを想像する。……黒い炎が俺の敵だけを燃やし尽くすイメージ。
最後に詠唱し具現化させる。……詠唱?適当でいいな。
「黒炎よ。その力で」
目の前の木を敵だと認識し――――
「我が敵を滅ぼせ!!」
――――魔力を放つ。
すると、どうだろうか。何処からとも無く現れた黒い炎が、木を一瞬にして灰に変えた。
「……」
沈黙……。そして――。
「うわっ!? マジで? 俺、TUEEEEEーー!!!」
俺は自分が魔法を放てたことに狂喜乱舞した。
えっ? なに今の? スゲーーーッッ! 俺の少ないボキャブラリーで説明すると、ジュンってなってドーンってなった。ジュンドーンだよ? ジュンドーン!
つか俺、遠距離も近距離も最強ってどんだけチートなのよ。
うはっ。ミ・ナ・ギ・っ・て・キターーーー!!
この後、小一時間位俺は変な踊りを踊って喜びを表した。
三月五日 文章改定