表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

人間は吸血鬼になる

 全ての出来事は、二面の捉え方が出来る。


 例えば車に轢かれて足の骨を折ったとしよう。轢かれたのにこの程度で済んだ事を幸福と捉える見方と、轢かれたことがそもそも不幸だと捉える見方。

 他にも様々なことがあるだろう。


 幸福と不幸とは、それぞれの見方によって変わるのだ。自分が不幸だと思っていても、周りはそいつは幸福だと感じることがある。ハーレムアニメの主人公がそうだろう。俺には彼らが何故不幸と感じるのかが分からない。一回彼らの頭の構造をかち割って見てみたい。……いや、嫉妬ではないよ? うん。


 まぁそれは置いておくとしても、俺の場合はどちらの見方と捉えるべきなのか。


「いやー、悪いね!こっちのミスで君死んじゃったよ。HAHAHA!!」


「HAHAHA、じゃねーよ!?どうしてくれるんだ神さま!」


 目の前に立つこの逞しい髭を生やした小柄なおっさんは神さまらしい。

 らしいというのは自分でそう名乗っていただけなので、本当の所は分からない。もしかしたら、神じゃなくて悪魔かもしれないが(少なくとも俺はコイツが神だとは思っていない)人でないことは確かだ。


 俺がどうしてこの神さまの元にいるかというと、ほんの少し前に俺が死んでしまったのが原因である。


 通っている高校のアメフト部に所属していた俺はいつも通り練習をしていると、隣で練習していた野球部のボールが突然頭にあたり、俺の意識が強制シャットダウンした。

 只の脳震盪で倒れたらしいのだが、この自称神は何を思ったのか俺がもう死んでいるものと勘違いしやがって魂を天界まで持ってきたらしい。

 

 ははっ! 面白いねっ!


 って、フザけんなーーーッッ! 笑えるか、コラッ!


 何で俺が勘違いで死ななきゃならんのだ! まだ彼女も出来たこと無かったのに! 予約していたゲームがあったのに! そりゃ、彼女は出来ないかもしれないけど……。い、いや出来るはずだよ、俺には。


 俺は怒りに任せて、神さまの首を締める。


「おい! 今すぐ俺を元の世界に生き返らせろ!」


「ぐ……ぐるじい……。残念だがそれは無理だ」


「ハァ!? 何でだよ!」


「グギギギギ」


 あ、自称神の顔が青くなってきてる。これ以上締めたら死んで(?)しまいそうだったので手を離す。


「ゲホッゲホッ」


「何で無理なんだ?」


「ゲホっ・・・ちょっと待て」


 苦しそうに呼吸する神さまを見て少し罪悪感が湧くが、直ぐに俺を殺したのはコイツだということを思い出し、怒りが沸々と湧き上がって来た。


「ふぅ。それでは話そうか」


 呼吸を整えた自称神は俺に話し始めた。無駄に荘厳なオーラを出していて正直引くさっきまでの弱弱しいオーラは見る影もなく、カリスマオーラをこれでもかという位出している。これは、こっちも真剣に話を聞かなきゃな……。


「理由は三つある。まず一つ目として、もうお前さんの身体は無いのだ。いくら神とて器の無いものを生き返らせるのは無理だ」


「身体が無い? 火葬されたって事か?」


 神さまは答える代わりにゆっくりと頷いた。


 先頃死んだってのにもう火葬されたのかと聞こうとしたが、大方こちらとあちらの時間の流れが違うのだろうと考え止めた。


「二つ目。神々の規約で亡くなった者は他の世界に転生させなければならない、というものがある」


「規約……?」


「おっと、規約については突っ込むのはよしてくれ。これはこれは覆しようが無いからな」


 まぁ規約なら仕方ない、か?

 ……他の世界という単語に心が惹かれたのは内緒だ。俺とて人生で最も愚かとされる中二を卒業したがファンタジーに夢焦がれる子供心を持ち合わせている。


「そして、三つ目。これが最大の理由だ」


 突如として神さまの雰囲気がより研ぎ澄まされ、重々しいものに変わる。

 どうやら、それほど深刻なことらしい。俺は唾を呑み込み心して聞く。神さまは真剣な表情になった俺を見て目を細めた。しばらくお互いに言葉を発しない。冷や汗が額から流れ落ちる。


 やがて、神さまはゆっくりと口を開いた。


「お前をミスで殺してしまって、さらに同じ世界に生き返らせたとあればオレが拙い。最悪、神の座を下ろされかねない」


 神さまが言い終わると同時に、俺の右ストレートが神さまの頬を捉えた。


「がふっ!!」


 我ながら面白いくらい上手く決まった。変なうめき声をあげ綺麗な弧を描き飛んでいく神さま。

 へぇ、案外脆いな神って。そう感じながら、俺は吹っ飛んでいく神を見つめた。


「フフ……良いストレートを持ってるじゃないか」


「そんなことはどーでも良いんです。じゃぁ、俺はどうなるんですか?」

 

 少年漫画のラストに出てきそうなくらい清々しい笑顔で口から流れる血を拭う神さま。なんか絵になっているのが悔しい。

 他の神にばれてはいけないってことは、俺は天国にも地獄にも行けないってことだろ? 一体、俺はどうなるんだ。


「安心しろ。お前を異世界に転生させる。……こっそりと」


「はぁ」


 ただし、と神さまは続ける。


「今回の君の死はオレのミスだ。罪滅ぼしというわけではないが、転生に関して三つだけ願いを叶えよう」


 そう言って二カッと笑う神さま。

 キモい。超キモい。消えればいいのに。


「聞こえてるからね!? 心の叫びが口に出ちゃってるから!」


 ……まぁ、異世界に能力つきで転生できるのはラッキーだな。

 ん……異世界ということは……。


「俺の行く異世界という場所はどういう場所なんだ?」


「ん。所謂、剣と魔法の世界って所だな。魔物がいて、魔王がいて、勇者がいる」


 なんと言うファンタジー。だが、これなら俺の野望が叶う。フフフと黒い笑みが零れおちた。神さまはそんな俺をみて一歩、二歩引いた。ん? どうしたんだ?


「いや、お前……なんかラスボスチックだったぞ?」


「そうか? これでも品行方正の優等生として学校では通っていたんだけどな?」


「お前……裏でなんて呼ばれてたのか知らないのか?」


 裏で? 思い当たる節がなく首をかしげる。神さまはふぅ……と意味深なため息を漏らした。なんか気になるな……ま、いいか。


「まず、一つ目。俺を十六歳くらいの人間と同じ見かけの吸血鬼として転生させてくれ。勿論、吸血鬼の弱点は全て取り除いて。容姿と吸血鬼としての能力については俺の想像している吸血鬼像を参照」


 吸血鬼。それは孤高で高貴な存在。

 どうせ、自分の身体が無いなら吸血鬼として生きてみたい。


「ほぅ。分かった。だが、その世界の吸血鬼は雑魚魔物として認識されているぞ」


「何のための願いだよ。二つ目、身体能力と魔力についてだが、これは基準が分からないからその世界の最強の存在を簡単に倒せるくらいにしてくれ」


 異世界チート。なんて甘美な響きだろうか。

 これぞ、男の夢だろう。


「普段なら了承しないのだが……あい、分かった」


「最後に、俺が吸血した相手は意思抵抗力の強い奴と俺が気に入った奴以外は自我を失い俺の従順な僕となるという能力をくれ」


 この能力こそ、俺の野望のための能力。


「ふむ、分かった。それで全部だな」


「あぁ」


「それでは、如月 修也よ。吸血鬼として新たな生を歩むがいい!!」


 神さまがそういうと俺は柔らかな光に包まれた。


「それでは、縁があったらまた会おう」

 

 あ……神さま。最後に。


「ん? なんだ?」


「ありがとな。チャンスをくれて。それと、不遜な態度で申し訳なかった」


 神さまは俺の言葉にポカーンと口を開けると、フハハハと豪快に笑った。それから俺の顔を見てニヤリと笑うと、親指をぐっと立てる。


「頑張れよ。ワシはお前が気に入った!」


 その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。




 修也がいなくなって暫く。白い空間には神さまだけが残されていた。


「如月修也――か。本来なら願い事は叶えずに記憶を失わせて異世界に転生させるはずだったんだがな……」

 

 クツクツと神さまは可笑しそうに笑う。


「なかなかどうして。見どころのある男よ。気に入ってしまったよ。ワシは」


 これは願い事を叶えさせるしかないな……と思いどこからともなくとり出した杖を持ち修也の魂にホレと何かをかける。


「これで、願いは叶ったのぅ」


 そこで神様はハッと気付いた。そうか、これが……。


「修也が裏で魔王と呼ばれていた所以か。荒々しさの裏に誠実さが見える。フム……ワシとは違うカリスマを持っておるのぅ」

五月二十四日 早速、誤字を修正しました


三月五日 文章改定、及び多少の変更。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ