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君の残像を乗せて  作者: 谷中シノン


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第10章【第4話:夜の天文館】

第4話:夜の天文館


 ウォーターライドの水面が漆黒に染まった瞬間、園全体の空気が震えた。

 

 街灯も遊具のライトも、次々と点滅を止め、闇が一気に広がる。

 

 湿った重さが二人の胸を押し潰し、呼吸さえ困難だった。


 「……このままじゃ、園全体が影に飲まれる」

 

 ナオは焦げた匂いに眉をひそめ、しおりの腕を強く引いた。


 たどり着いたのは園の奥、プラネタリウム。

 

 閉館しているはずの扉から青白い光が漏れ、外壁も内部も奇怪な光で揺れている。


 

 扉を開くと、視界いっぱいに星空が広がった。

 

 しかしそれは通常の映像ではなく、赤く燃える炎や黒い渦が入り混じった異様な光景。

 

 星々の隙間からは、火災の記憶──三年前の惨状──が押し寄せるように映し出された。


 逃げ惑う子どもたち、燃え上がるアトラクション、煙に立つ長いコートの男。


 影の男が手を伸ばすと、天井の星々が渦を描きながら黒く塗り潰される。

 

 黒点から無数の細い腕のような影が降り注ぎ、二人を絡め取ろうとした。


 だが今回は、館内だけに留まらない。

 

 天文館の壁が波打つと、園全体のアトラクションが歪み、観覧車やジェットコースターまで暗黒に染まる。

 

 ライトや看板が一斉に消え、影の腕が遊歩道や花壇、池にまで伸びる。

 

 園全体が、まるで一つの巨大な怪物のようにうねり、吸い込まれそうな異空間に変化していた。


 「しおり、絶対離れるな!」


 「はいっ!!!」

 

 ナオは懐中電灯を逆手に握り、降り注ぐ影を必死で払いのける。

 

 しかし影は光を避け、増え、伸び、やがて二人を包み込むほどに膨れ上がった。


 「今、影を避けたよな……」


 宙に浮かぶ子どもたちの顔──黒い瞳のない表情──が園全体に散らばり、助けを求める声が重なり合う。


 ──助けて……。

 ──お前たちを取り込む……。


 「これなら、少しは対抗できるやろ!」


 ナオは決死で天井中央の一等星に光を向けた。

 

 光が闇を裂くと、館も園も軋みながら亀裂を走らせ、星空の粒が落下する。

 その粒が触れると、絡みつく影の腕がわずかに弱まる。


 だが、背後から冷たい息が首筋を撫でる。

 

 振り返ると、長いコートの男の影が至近距離に立ち、無瞳の目で二人を見下ろす。


 ──まだ終わらん。

 ──次は、園全体……。暗黒に沈め。ここに存在する全ての記憶を奪う。


 床が消え、館は黒い水面に変わり、観覧車やジェットコースター、遠くの噴水まで暗黒に沈む。

 

 闇の水面をゆっくりと漂うのは、燃え上がる遊具のシルエットと、子どもたちの影。

 

 ──園全体が、決戦の舞台だった。

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