第10章【第2話:影のささやき】
第2話:影のささやき
園内の中心近くにそびえる空中ブランコの前で、ナオとしおりは足を止めた。
──ギィ……ギィ……。
動いていないはずのブランコが、ひとつだけゆっくりと揺れている。
他の座席は静止しているのに、その一台だけが闇の中で規則的に揺れ続けていた。
「……誰か、座ってます」
しおりが指差す。
そこには、小さな影の子どもが座っていた。
顔は見えない。けれど、確かにこちらを見つめている気配がある。
ナオが一歩踏み出した瞬間──頭の奥に鋭い痛みが走った。
視界が一瞬、別の場所に切り替わる。
白い壁の部屋。並ぶモニター。
実験用の椅子に縛られる誰か。
赤く染まる視界。炎の匂い。
……それは、自分の記憶ではないはずなのに、妙に生々しい。
「……ナオさん! 大丈夫ですか!?」
しおりの声で意識が引き戻される。
気づけば、影の子どもはもういなかった。
だが代わりに──周囲を取り囲む気配が膨れ上がっていた。
ざわ……ざわ……ざわ……。
足音もないまま、黒い輪郭が無数に集まってくる。
泣く声、笑う声、嗤う声が入り混じり、耳の奥をざわつかせる。
懐中電灯を向けると、その一体一体は見たことのある顔をしていた。
瞳が闇に塗りつぶされている顔。
「全部、偽物や……」
ナオが呟くと、輪の中から一つの影が前に出てきた。
長いコートの男。
その目にあるはずの瞳は空洞で、笑っているのか、歪んでいるのか分からない口元。
──やっと会えた。
声が、直接頭に響く。
──またやろう。今度こそ、成功させる。
ナオの背中を冷たい汗が伝った。
思わず後ずさると、長いコートの男の影は口を開けたまま、黒い霧に溶けるように消えていく。
同時に、周囲の影たちも波のように引き、その場は再び静寂に戻った。
しかし、空気の重さだけは変わらない。
「ナオさん……今の、私にも聞こえました。遠くから……耳じゃなくて、頭に」
しおりが青ざめた顔で言う。
「……やっぱり、俺だけやないんやな」
ナオは懐中電灯を握り直し、影が引いて消えていった方角を見る。
その先はウォーターライドのエリアだった。
「呼ばれてるな……」
二人は無言のまま、闇に沈む水面の方へと歩き出した。
影の気配は、ますます濃くなっていく──。




