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君の残像を乗せて  作者: 谷中シノン


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第9章【エピローグ:二人だけの観覧車】

エピローグ:二人だけの観覧車


 晴れた日曜日、ナオとしおりは「サクラスマイル遊園地」へやってきていた。

 園内はカラフルな建物と賑やかな音楽で満ち、思わず気持ちが高ぶる。


 「ナオさん、私ここ初めて来ました!」

しおりは少し照れながら、でも目は輝いている。


「俺もや。来てみたかったんや」


 「ナオさん、遊園地とか元々好きなんですか?」


 「まあ、せやな。それに、あんまり女性と二人で遊んだりとかしたことなくてな。遊園地以外にわからんかったいうのもある……」


 「ふふ、ナオさんらしいですね」


 「今日はちゃんと楽しもや」


 「ですねっ!」


 園内を歩き回り、色んなアトラクションに乗っていく二人。ジェットコースターにお化け屋敷、回転しながら進む屋内コースター、ライド型シューティングアトラクション。


 間にお昼ごはんとソフトクリームも挟み、ゲームコーナーでぬいぐるみを手に入れたりして。

 二人の距離は少しずつまた縮まっていった。

 

 そして、次は観覧車にたどり着いていた。


「……ナオさん、観覧車、乗りますか?」

 これまでの怪異事件は全てしおりに話している。

 遊園地が違うといえど、今まで観覧車では何度か怪異を体験しているナオに気を遣ったのだろう。

 しおりの声が少し震えていた。

 しかし、ナオは軽く笑ってうなずく。

 

 「観覧車もさ、約束してたやろ」


 「ですけど……」


 「それに、好きなんや。しおりちゃんがいいなら。乗ろうや」


 「はいっ、私も乗りたいです!……ナオさんと」


 ゴンドラがゆっくりと回り始める。

 ナオはふと、かつて観覧車で体験した奇妙な夜の出来事を思い出す。あの時の不安や恐怖は、今はもう、遠くで淡く揺れる光のようにしか残っていない。


 でもその光が、今目の前のしおりの笑顔を、より鮮やかに映し出していることに、ナオは少し胸が高鳴るのを感じた。


 一方のしおりも、ナオと二人きりで空に浮かぶ感覚に心が弾む。

 手が触れるか触れないかの距離で座るナオの存在が、いつもよりずっと近く、そして温かく感じられた。

 

 小さな風に髪が揺れ、頬がほんのり赤くなる。


 ゴンドラがゆっくり空に昇り、地上の景色が小さくなる。

 二人だけの世界が広がる瞬間。

 

 互いの鼓動が、かすかな沈黙の中で確かに伝わる。

 

 「今日は楽しいな……ほんまに」

 ナオの視線が真剣で、しおりは心臓が少し速くなる。 


 しおりは頬を赤く染めながらも、声を絞り出す。

「……私もです。ナオさんと……こうして、二人でいるの……すごく新鮮で、楽しくて」


 頂上に差しかかると、空がオレンジ色に染まる。

 ゴンドラが静かに揺れる中、二人の距離は自然と縮まった。

 「……あの、手、握ってていいですか?」

 しおりが小声で尋ねる。


 「え……」

 ナオは微笑み、少し沈黙してしまった。 


 「……あ、すみません、そんなこといきな──」

 「ええよ……」

 しおりの吐息混じりの声を遮り、ナオが返事する。


 二人の指がゆっくりと絡み合う。

 

 鼓動が互いに伝わる。


 「……ちょっと、ドキドキしちゃって……」 


 「俺もや……でも、こういうの、悪くないな」


 互いの顔が少し近づき、言葉よりも気持ちが伝わる時間がゆっくり流れた。


 ゴンドラが頂上に到達し、下界を見下ろす二人。


 観覧車の灯りと夕暮れの光が二人を柔らかく包み込み、世界が二人だけのものに感じられた。


 「……また、一緒にどこか行かへんか」

 ナオがつぶやくと、しおりはぎゅっと手を握り返す。


 「はい!行きましょう!」


 サクラスマイル遊園地の観覧車の頂上で、二人の新しい物語が静かに、でも確かに動き出していた。

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