第9章【最終話:沈黙の観覧車、余韻の夜】
第7話:沈黙の観覧車、余韻の夜
観覧車のゴンドラはゆっくりと回り、灯りを点滅させながら星空に溶け込む。
先日の事件で異界から戻れずに居た人たちは無事帰還し、シュウも無事だった。
あれから数日が過ぎ、パークには穏やかな日常が戻っている。
ナオはあの後、管理室の片隅で、古いログやメモを探して整理していた。
その時、ふと目に留まった古い記録が、ナオの胸に小さな波紋を起こした。
それは制御室に残された、忘れ去られた計画の断片だった。
──乗客の記憶や感情を同期させ、異界との「橋」を実験的に作ろうとした痕跡。
事故によって中断されたが、観覧車の異変は、元々この計画の影響で発生していたらしい。
ゴンドラに乗る“何か”も、制御されず暴走した結果だったのだ。
ナオは深く息をつき、思わず窓の外の観覧車を見上げる。
回るゴンドラの中に、過去の乗客たちの微かな笑い声やささやきが、耳に届くような気がした。
だが今は害はなく、遠い記憶の残響としてだけ残っている。
その夜、ナオとしおりは一緒に帰宅していた。
しおりが静かに呟く。
「……もう、本当に大丈夫なんですね」
観覧車の出来事は、後程しおりにも全て話していた。
ナオは微笑む。
「うん。もう、誰も戻れなくなることはない」
しおりは少し照れくさそうに顔を伏せたあと、声を震わせながら呟く。
「……あの、今度……観覧車、二人で乗りませんか?」
ナオの目が一瞬、輝く。
「ええな、それ。夜景もきれいやろうし」
しおりの耳が少し赤く染まり、彼女は小さく頷く。
観覧車の灯りが夜空に伸び、二人の影を長く地面に落とす。
ナオはそっと手を伸ばし、しおりの手を握る。
「……次は、ちゃんと楽しもう」
微かに風が吹き、観覧車のゴンドラが静かに揺れる。
複雑な色を帯びた夜空の下、遠い過去の記憶が残した名残が、静かに消え去っていった。
異界の影は消え、パークには日常が戻った。
そして、ナオとしおりの新しい物語が、ここから静かに始まろうとしていた。




