表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の残像を乗せて  作者: 谷中シノン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/95

第9章【第5話:降ろしてくれ】

第5話:降ろしてくれ


 霧のプラットフォームは、無音だった。

 いや──よく耳を澄ますと、ゴンドラの中から小さな声が重なって聞こえてくる。


 ──降ろしてくれ。

 ──まだ家に帰ってないんだ。

 ──あれは、事故じゃなかった。


 どの声も、地の底から響くような湿り気を帯びていた。

 

 ナオは息を潜め、視線を巡らせる。

 

 ゴンドラの窓は全て真っ黒で、中は見えない。 

 ただ、外から何かが押し当てられ、ガラスがたわんでいる。



 「……小林!」

 少し先のゴンドラの影に、整備服姿の男が立っていた。

 しかし、その顔は黒い布のようなもので覆われ、輪郭すら定まらない。

 男はゆっくりとこちらを振り返り、口のない顔で「乗れ」と示した。



 足元の霧が急に渦を巻き、ナオとシュウの足首を絡め取る。

 

 次の瞬間、何本もの腕のようなものが霧から伸び、二人を引きずろうとする。

 

 皮膚に触れた部分が冷たく、ざらついていく──影が剥がされている。



 「先輩っ!」

 

 シュウが警棒を抜き、絡みつく腕を叩き折る。 

 だが叩き折ったはずの腕は、霧に溶けてすぐに再生する。

 

 遠くで、観覧車がゆっくりと回転を始めた。黒いゴンドラが一基ずつこちらに近づいてくる。



 「……ここで乗ったら終わりや」

 

 ナオはポケットから、園内非常用の閃光弾を取り出した。

 だが、撃ち込む前に三浦の影が間合いを詰め、腕をがっちり掴んできた。

 その力は人間離れしていて、骨が軋むほどだ。


 耳元で、三浦の声が低く囁く。

 

 「俺は……降りられなかった。だから、お前が──」


 その言葉を遮るように、シュウが後ろから三浦に体当たりした。

 

 掴まれていた腕が離れ、ナオは閃光弾のピンを引き抜く。


 「……もうお前らを縛らせへん!」


 爆ぜる閃光と轟音。

 

 霧が一瞬だけ白く輝き、腕の群れが悲鳴のような風を上げて消えていく。

 

 その隙に二人は走り出し、反転した観覧車の搭乗口へ飛び込んだ。



 ドアが閉まる。

 外の景色が揺れ、やがて色が戻っていく──はずだった。

 

 しかし最後の瞬間、窓の外に、真っ黒な三浦の顔が貼り付いていた。

 無表情のまま、唇だけがゆっくりと動く。



 

 ──次は、お前の番だ。


 


 次の瞬間、現実の観覧車のホームに戻っていた。

 辺りは朝焼けに染まり、スタッフたちが慌ただしく出勤してくる。

 だが小林の姿は、やはりどこにもなかった。



 数日後。

 観覧車は「定期点検」の名目で運行再開した。

 

 ナオとシュウは出勤途中、その巨大な輪を見上げる。



 「先輩……あれ、まだ何か残ってる気がしません?」

 


 

 観覧車の一基だけ、ガラス越しに中が見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ