第9章【第4話:反転する夜景】
第4話:反転する夜景
閉園後の観覧車。
ナオとシュウは整備通路からそっと搭乗口へ入り、指定したゴンドラを待った。
「……これ、ほんとに乗るんすか」
「やるしかないわな。小林を見捨てるわけにはいかん」
やがて、例の黒いゴンドラが視界に現れた。
現実のゴンドラと重なるように停まり、二人が乗り込むと、ドアが自動で閉まった。
揺れとともに、外の景色がゆっくりと変わっていく。
見下ろす園内は、色を失い、灰色に沈んでいた。
観覧車のライトも消え、遠くの建物は骨組みだけの廃墟のようだ。
人影はない──と思った瞬間、真下の通路を誰かが歩いていった。
作業服の背中。
間違いない、小林だ。
しかし、その足跡は地面に落ちるたびに黒い染みとなり、じわじわと広がっていた。
「先輩……あれ、たぶん生きてないっすよ」
シュウが声を潜める。
その時、背後の座席から低い囁き声がした。
──降りられない。
──降ろしてくれ。
二人は反射的に振り向くが、座席には誰もいない。
ただ、シートの布地が、押しつぶされたように凹んでいた。
観覧車は通常の倍以上の速さで回転し、やがて再び地上に戻ってきた……はずだった。
しかし扉の外に広がっていたのは、現実の地面ではなく、霧に覆われたプラットフォーム。
そこには、同じように色を失ったゴンドラがいくつも並び、どれも中に誰かを乗せたまま止まっていた。
「……これが、あちら側の“乗り場”か」
ナオは一歩踏み出す。
すると、足元の霧の中から白い手が伸び、靴を掴んだ。
「おかえり──」
耳元で女の声が囁いた瞬間、視界が反転し、二人の体は闇に飲まれていった。




