第9章【第1話:止まった頂点】
【第9章:沈黙の観覧車】
第1話:止まった頂点
夜のパークは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
観覧車──パークの象徴だったその巨体は、暗闇の中で黒い輪郭だけを浮かび上がらせている。
昼間からずっと「整備点検中」の看板が下がったままだ。
「……止まってる観覧車って、なんか不気味っすね」
隣を歩くシュウが、ヘルメットの下で眉をしかめた。
「まあな。けど今夜は巡回ルートが観覧車周辺や。サボられへんで」
ナオはライトを向け、錆びた手すりを確かめるように足を進める。
そのとき──
静止していたはずの観覧車が、ゆっくりと動き出した。
「……は?」
シュウが思わず足を止める。
機械音も警告音もなく、まるで誰かが見えない手で回しているかのようだ。
ゴンドラが上へ、上へと上がっていく。
やがて、さっきまで目の前にあったゴンドラが観覧車の頂点にたどり着き、ぴたりと止まった。
「点検モードじゃない……勝手に動くなんてありえへん」
ナオは無線を取ろうとしたが、その瞬間──
ゴンドラの窓から“何か”が降りてきた。
人影のようだが、輪郭が揺らめき、地面に触れる前にすっと消える。
「……今の、見ましたよね?」
「見た。……あれ、人かどうかも怪しいけどな」
背後で、砂利を踏む音がした。
振り返ったときには誰もいない。
だが足跡だけが、観覧車から離れるようにして夜の園内へと続いていた。
翌朝。
管理事務所に警察が来ていた。
昨夜、閉園後に観覧車近くを歩いていたアルバイトが、一人帰ってこなかったという。
「名前は……小林ってやつや。昨日まで普通に出勤しとった」
係長が顔を曇らせる。
ナオとシュウは、互いに短く目を合わせた。
──あのゴンドラに、何が乗っていたのか。
そして降りてきた“それ”は、どこへ行ったのか。
観覧車は、再び沈黙したままそびえ立っていた。




